『日経研月報』特集より

ダイバーシティ人材活用によるものづくり企業の創生

2022年6月号

小川 正博 (おがわ まさひろ)

青森大学総合経営学部・東京キャンパス 特任教授

1. はじめに

わが国の製造業はGDPの約20%を占め、主要国の産業構成では中国やドイツに次いで比重が大きい。サービス産業が隆盛し、GAFAMのようなIT企業が巨大化するアメリカでは、製造業の比重は11%程度だが、IT産業領域で世界的企業が登場しないわが国では、生産性の高い製造業の役割が国民経済的にも重要である。にもかかわらず日本製造業が強みを発揮するのは自動車産業や工作機械産業などで、半導体や家電などの電機産業をはじめとして、製造業は競争力を低下させている。
かつてわが国はワクチン先進国だったが、mRNAによるワクチン製造のイノベーションに遅れ、自国製品でコロナ禍対応ができなかった。それどころか感染症拡大予防のマスクさえも提供できなかった。低コストを求めて海外の生産や調達に走るなかで、製造業はものづくりを空洞化させ、技術力も低下した。ロシアのウクライナ侵略などの事態も加わり、経済安全保障の視点からも、製造業の重要性が再認識されるようになった。それに製造業の凋落は、平成30年間の日本経済の地盤沈下と重なっている。このため経済の長期低迷からの脱出方策には、製造業の再生が欠かせない。地域創生にも地域経済を支える製造業の復活が求められる。
製造業の再生には大企業だけでなく、それを支え新しいことに挑戦する中小企業の再生が必要である。ものづくりによる地域創生と、新たな中小企業の経営、そうした状況を東京都、とりわけ多摩地域のものづくり企業と人材雇用支援を題材に本稿はみていく。

2. 東京都の特質

1,400万人の人口を擁する東京都は多様性に満ちている。人口密集地の都市部の一方で伊豆七島など島しょ、奥深い森林を擁する多摩地域があり過疎地もある。そして中央省庁や大企業の本社などが集中する首都であり、全国の大学の18%が立地する文教都市でもある。産業をみると農林漁業、卸小売業、そして多種多様なサービス業で全国に先駆けて第3次産業化が進展した。その一方で製造業が育んだ都市でもある。
東京の製造業の事業所数は図1のように、1983年の97,640以降長期減少傾向にある(注1)。戦後から1970年代にかけて事業所数、製品出荷額とも東京都は全国一の位置を占めるなど、製造業そして中小企業が形成してきた都市でもある。しかし1960年代から大規模工場の地方移転が進み、その後の海外移転、その跡地を埋めるマンションなど住居化によって、さらに後継者不在による廃業によって、製造業の比重は大きく低下し、今や事業所数で全国3位、製品出荷額では14位と存在を低下させている。

2015年の事業所数は27,142とピークの30%以下にまで減少した。ただ事業所数が減少しても、その製造内容が高度化して、高付加価値な製品を産出するのであれば、とりわけ問題視することはない。しかし図2にみるように、従業者一人当たりの付加価値額は増大しているものの、全国の事業所より低い傾向が続いている。
世界有数の都市として官公庁や大学、研究機関が立地し、全国に先駆けて産業の高度化を図り、IT活用やソフト化に取り組みやすい環境からいえば、東京の製造業の付加価値額は全国よりも高水準でよい。このため現状は東京の製造業が事業変革に遅れ衰退していることを物語っているのではなかろうか。

図3で事業所当たりの従業者数をみると、東京の製造業の人員規模は近年では、全国の半分程度である。かつて東京には大規模工場が立地していたものの、同時に多数の小規模企業からなる産業集積が特徴であった。その小規模企業を中心に事業所数が減少するものの、残る事業所は規模を拡大していない。一方で全国の製造業は人員規模が増大する。
機械設備を用いる製造業では工場スペースが必要になるが、用途指定や住宅化のなかで工場拡張には制約がある。このため業容拡大には東京23区外に移転せざるを得ないという側面もある。
マスコミや中小企業論などで東京の製造業が取り上げられるとき、大田区を中心にする城南地域、そして墨田区を中心にする城東地域の企業の例があがる。それらの地域は小規模な機械・金属製品加工や雑貨製品生産などの産業集積で、特定の部品や特定技術に分化して社会的分業が形成されてきた。このため企業が消滅すると、社会的分業が円滑に機能せず、地域内ではものづくりが完結しなくなる。製品や技術の高度化に遅れる中小企業はさらに経営を悪化させ、さらに企業数を減少させていく。

3. 東京多摩地域の製造業

ところが東京23区ではなく、東京西部の多摩地域に目を転じると製造業の様相は異なってくる。表1にみるように、多摩地域製造業の事業所割合は東京都全域の中で17.6%に過ぎないが、従業者数では40.4%を占め、製品出荷額では57.9%と23区を逆転する。付加価値額でも53.2%と23区をしのぐ。
事業所当たりの従業者数は23区の7.9人に対して25.1人と企業規模も大きい。事業所当たり製品出荷額は前者の16,143万円を大きくしのぎ103,910万円である。従業員1人当たり付加価値額は23区の1.7倍程度で全国製造業の水準を超える。前述地域の町工場のニュースでは、高齢の作業者が油にまみれて、老朽化した機械を熟練技能で操作しているといった映像が映されることが少なくない。
それも確かに中小企業の姿であるが、そうした技能中心のものづくりでは人手を確保できない。古い設備では超精密な製品が生産しにくい。中国が世界のものづくり基地になったいま、かつての集団就職の時代、経済の高度成長期に培った熟練技能を基盤にしたものづくりでは今日の需要に応えられない。高機能で高性能な工作機械や測定器を装備し、ときには超微細な加工を行うためのクリーンルームの設置、そして情報技術を活用した高度な加工技術によるものづくりが求められている。
それを実践する企業が多摩地域には登場する。自然環境にも恵まれた多摩地域には大手企業の工場や研究所があり、工業団地も整備されて工場用地もあるために製造業が操業しやすい。戦前から自動車や航空機産業が盛んで、今日では輸送機器や電気機械、情報通信機器、食料品加工、電子デバイス分野などの製造業が活躍する。また小規模な企業であっても、機械技術中心のものづくりを志向する企業が少なくない。

4. 多摩地域製造業の活性化策

東京都は2019年に「未来の東京戦略ビジョン」を策定し、都心部を国際交流ビジネスゾーン、多摩地域をイノベーション交流ゾーンに設定した。魅力あるまちづくりを促進することで、多摩地域にダイバーシティな人材や企業を引き寄せイノベーション創出を目指す。同地域でも自動車など大規模工場の撤退が相次ぐが、成長分野の技術力を持つ中小企業が立地しているため、東京都は技術マッチングを進め、また創業支援センターやインキュベーション施設などを設けて支援する。未来に向けてのさまざまな構想や支援が試みられるが、中小企業の事業推進や躍進に必要なのは人材である。業容を拡大する企業では人手不足が顕著だが、必要な人材確保が難しい。
そこで東京都商工会連合会(以下、都商連)はものづくり中小企業に対して、若者の就業、女性活躍推進、高齢者雇用そして外国人材採用などを目的に、人材確保事業「多摩地域人材ダイバーシティ推進ネットワーク事業」を推進する。希望する人材の応募がない、面接や内定の辞退、従業員が定着しない、従業員教育などの課題を持つ中小企業を実践的に支援する。就業希望者に1週間の研修を行い、支援事業の費用負担で1か月間企業でインターンシップ的に業務経験し、双方が合意すれば当該企業に就業するなどの支援を行う。
2016年以降、同事業を充実させながら、この間に多摩地域の221社が事業に参加して265人を雇用した(表2)。このうち170人は正規雇用で39歳以下男性が116人を占める。人手不足に悩む企業は技能実習制度やハローワーク、直接募集などで日本人や外国人を採用するが、当該事業はそれらを補完する。研修や1カ月間の就業経験などを積むことで、正社員採用やその後の定着などで効果を上げている。

ただ前掲の実績は日本人のみで、それでは必要な人材が不足するため外国人材確保事業を追加した。しかしコロナ感染症によって海外からの受け入れが困難になり停止状況にある。フィリピンの大学と協定を結び理系新卒者6社7名が内定するものの、出国待ちの状況にある。内定者は「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で専門的能力を持つ(注2)。
次に多摩のものづくり企業で、ダイバーシティな人材活用で躍進する企業の例をみていく。

5. 機械技術主導で成長する企業

(1)大型部品の一貫加工化を推進

従業員30名の(株)土田製作所は都内中小企業では珍しく、5軸マシニングセンタ、縦型マシニングセンタ、横型マシニングセンタ、複合旋盤、CNC旋盤、フラット型NC旋盤など最新のヤマザキマザック製工作機械を多数装備し、さらにアルゴン溶接機やプラズマ切断機など、それに測定投影機や3次元測定器など各種精密測定機を装備する。こうした最新設備で加工業務範囲を拡大して社内一貫加工を行う。
ステンレスやアルミ素材の半導体製造装置や医療用機器など、真空設備用の筐体や部品などの精密機械部品加工に加え、溶接や熱処理加工も内製する。加工物は複雑形状で高精度な加工を求められる。複合加工機械は多様な複雑加工を一度に行うため加工速度が速い。量産品の機械加工業務は海外に移行したが、少ロットで高精度な部品、とりわけ大型の精密加工品を東京都内で行える企業が少ないため繁忙である。
マシニングセンタなど複合機械を使用するには、加工データの入力設定などで技術が必要になる。製品図面で指示されている形状に加工するだけでなく、真空仕様の精密部品にするため、入力データの補整や使用する刃物や加工順序、加工速度などの知識が不可欠になる。同社では人手不足対策として日本人の他、ベトナム人など外国人を採用し、機械のオペレータ業務を外国人に任せる。都商連の人材確保事業も活用して外国人でも正社員に、高齢の技術者は非正規で採用する。

(2)量産機械の多数台持ちで精密加工

かつて東京には小規模な金属挽き物加工企業が多数存在した。その多くが消滅するなかで従業員30名の三鎮工業(株)は、量産機械を多数台揃えて機械技術中心の生産システムを構築する。さらに検査設備を充実し品質保証によって付加価値を高める。
同社は過去に5μm精度の精密なモータ部品加工を経験した。加工難易度が高く高品質や低価格、短納期に応えたことで生産技術や管理能力が高まり、それが同社の組織能力になって今日の経営を支える。現在はわが国を代表するエアコン企業数社から、エアコンの重要バルブ部品加工を受注し、安定した収益を獲得する。それらは複雑な外形で内部にも複雑形状の空洞加工を施す高単価な製品である。
金属挽き物加工は機械部品や電子機器部品需要が中心になるが、低価格な量産品は中国企業に移行した。国内に残った需要は複雑形状の高精密な部品で、それに対応できる同社のような企業は少ない。
同社はNC複合自動旋盤などを60台ほど保有する。加工済み部品は自動箱詰しそれを自動搬送するなど、材料供給と加工品搬送などを自動化することで、1人10台の設備担当など、効率的な生産システムでオペレータ作業者に重労働はない。
同社の技術力の評価は高く、新規にEV向け精密部品の受注が内定し、別工場を開設して現在と同規模の設備を増設中で、今後の事業拡大が想像できる。しかし従業員不足は悩みで、定着しない日本人が少なくない。技能実習生も採用したが現在は直接雇用に移行し、まずアルバイト形態で雇用し、状況をみて本採用にする。ベトナム人4人は正社員である。
いままでみた2つの企業は機械技術中心の生産システムで業容を拡大する。こうした企業が、ハイテク技術やイノベーションで躍進する企業を支えている。しかし人材確保が課題である。さらに今後は生産システムや加工プログラムなどの設計技術者が必要になっている。

6. ダイバーシティな人材を活かす経営

(1)高度外国人採用で企業風土を変革

従業員70数名の(株)アトム精密は電子機器やロボット製造企業である。経営者は多額の負債を抱え倒産状況にあった同社を第三者事業承継で引き受け、現在は半導体向け精密測定機生産を軸に事業を再建して躍進する。
電子機器関連の生産設備や検査装置、搬送装置などの設計から部材調達、加工、組立を一貫して行えることが同社の強みである。設計技術を保有するため単なる下請加工ではなく主体性を発揮する経営といえる。技術進歩のなかで電子機器関連製品には、ニッチで多様な需要が生まれるが、そうした需要に単独でも応えられる能力を持ち、半導体生産用の先端的な検査機器生産も受注し躍進する。
経営者は決算内容を社員に公開し、全員で成果を享受する経営姿勢を掲げる。社員の能力と自発性を重視し、業務運営の裁量権を与え任せる。社員が自主的に能力を発揮する経営で企業を再建し成長させてきた。製品の開発や設計、組立調整業務には優れた人材が必要だが、設計能力のある人材は中小企業に応募がない。そこでフィリピンやタイ、韓国など英語のできる外国人材を採用し、日本人と同等の給与体系で正社員として扱う。
1年ほど工場現場を体験し、教育プログラムの年間スケジュールに沿ってスキルアップを図り、広範な業務知識をもつ社員に育成する。特定分野の知識や技術の修得者は技術者として養成する。業務の標準化を推進し、業務マニュアルも作成する。また社員ごとに得意な技術や業務をリストアップして格付けし、教育担当者に設定する。外国人が入社して社内の雰囲気が変わり、教えることによって日本人社員も進んで勉強するようになり、会社全体のスキルが向上し、社員が英語を使えるようになってきた。

(2)独自製品でブランド確立

従業員40数名の(株)電子制御国際は、モータ類の巻線絶縁不良を検査するデジタル式インパルス試験機を世界に先駆けて開発し、製品企業へと脱皮した。電子製品にはモータや、電流を一時蓄えるインダクタ(チップコイル)が使用されている。電子化が進む自動車ではモータ類のみで1台当たり160個程度、そしてスマートフォンではインダクタが100~500個程度使用され、この他産業用ロボット、ドローンなど使用数はますます増大傾向にある。それらの試験機や複合検査システムで、同社製品は業界内ではブランドを確立し40年もの間競争力を維持している。
同社は社員の合議によって組織的に意思決定する社風で、大企業的な企業運営が行われている。パートでも賞与があるなど、福利厚生も含めて社員は性別や人種国籍を問わず等しく処遇する。女性や外国人は人手不足対策ではなく、意欲のある人材として採用し、回路設計技術者やプログラマーなどは新卒採用も行っている。基本的な業務は標準化を推進し、無理なく複数の知識と技能を習得できるように教育し、全ての製造技術者が多能工である。
同社は日本企業が海外工場を開設し国際化が始まった時期に、修理・サービスと海外営業活動を行うようになり、異なる文化や風習の違いなどに直面する。そこで中国人を雇用したものの失敗し、その経験をその後の中国や韓国、ガーナなど外国人活用に活かしている。外国企業との取引で、打合せや資料作成など外国人の貢献度は高い。

いままでみた2つの企業では性別や国籍などでの差別はなく、社員として同等に扱い正社員として処遇する。そして能力を育成するのに、中小企業で行われてきたOJTや現場で見て覚えるという方法ではなく、業務をマニュアル化して短期間で修得しやすいようにする。前者の企業では年間の教育プログラムを作成し、特定業務ごとに教育係も設定している。こうした方法で短期間に能力を育成し、教える側も自己の能力を高めていく。
後者の企業の場合、そもそも採用の際に性別や国籍などを区分せず、ダイバーシティな人材活用を行う。これは顧客企業が世界中に存在するためである。またかつては同社製品しか存在しなかったが、試験機の必要性が高まったため、近年は国内外で競合する製品が登場してきた。このためさらに製品性能や技術の向上と、幅広く海外での営業活動が必要で、ますますダイバーシティな人材が欠かせない。

7. ダイバーシティな人材活用による事業変革

生産年齢人口の減少と高齢化のなかで、わが国企業では人手不足が深刻である。企業活動の推進に必要な人材を確保できるか否かが、企業の存続要因の一つになっている。このため今まで採用が遅れていた若い女性や高齢者そして外国人など、中小企業にとってはダイバーシティな人材の採用・活用が課題である。
コロナ対策で伸びが止まっているものの、2021年10月末で170万人強の外国人がわが国では就労している。多摩地域製造業をみると、中国やベトナムなどを中心にインドネシア、バングラディシュ、ネパールといったアジアだけでなく南アメリカ、国名もあまり知られていないアフリカなど、世界中の出身者が働いている。それに外国人就労というと技能実習生が注目されるが、現実には永住者やその家族、難民、身分に基づいた在留者、技術・人文知識・国際業務に精通した高度人材など、実に幅広い就労資格者がみられる。
中小企業では製造現場での人手確保が喫緊の課題だが、作業現場の充足では生産性の向上には結びつかない。ましてやイノベーションの起爆剤にはならない。日本企業が再生するためには、生産性や付加価値向上をもたらす事業変革、イノベーションが不可欠で、それを発想できる人材の獲得や養成、活用が必要である。企業に変革をもたらすダイバーシティ人材の活用を長期的に行い、企業の維持・成長には結びつけなければならない。
それには中小企業の場合、図4のようなステップに即した事業活動の進化が現実的である。

現場オペレーション業務ではまず作業方法の標準化を推進する。外国人や若者の能力が向上しないと嘆いている企業の多くでは、業務がマニュアル化されていない。それを元に専任の教育担当者が教育訓練して短期間に能力向上を図る。業務習得後にはその業務改善も彼らに委ねる。一方で能力を発揮しやすい職場環境を整え、女性や高齢者にやさしい新しい業務方法を工夫することで業務革新が進展する。さらに生産性を向上させるには機械化、そしてIT化を図る。操作や加工手順をプログラム化すれば、高度な設備を複数台担当できる。
付加価値の向上には製造現場の効率化を図るだけでなく工程イノベーションを促す。さらに新製品や新技術、新市場の開発、そして新たなビジネスモデルの開発などによって事業革新を目指す。異質な感性や経験、資質をもつ人材と、経験豊かな社員とが触発することで、斬新な製品や技術、事業などを創造したり、DX(デジタル・トランスフォーメーション)による新たなビジネスモデルなどを実現できる可能性が高まる。また中小企業でも海外市場の開拓・営業、海外向けHPの作成なども必要である。それは外国人などにとって取り組みやすい。
それに日本企業にはハードな製品生産だけでなく、ハードに知識や情報などソフトな価値の付加、サービスと一体化した製品にするなど、情報価値を高めたものづくりが課題である。情報や知識をハードに内包や付加しないと製品の付加価値は高まらない。
顧客の感性に訴求できるデザイン、単純に機械的機構で作動するだけでなく、プログラムによって複雑に作動する製品、解析ソフトによって検査データなどの多様な検証を行うシステム化した検査機器、価値化したサービスを提供して使い勝手が製品使用時に向上する製品など、一段と利用者の利便性を高める製品にして付加価値を向上させる。こうした取組みが、ダイバーシティな人材を活用する多摩地域製造業では先述の(株)電子制御国際のように始まっている。

8. 人材を活かす経営を

シュムペーターは入手できるあらゆる資源の新しい結合によってイノベーションが起こるとした。それには従来の常識にとらわれない発想で、新たな顧客価値をもたらす異質な事業概念の創出が出発になる。ダイバーシティな人材からは従来とは異なった発想が生まれる。そして生産だけでなく、デザイナーやマーケター、設計技術者、IT技術者など専門能力を持つ人材などによって、市場が求める製品をさらに価値化して提供することが日本企業の課題である。そうした人材が内部で確保できなければ外部人材を活用する。
新しい発想でのものづくり、イノベーションがなければ日本製造業は衰退してしまう。地域経済を支えるものづくりが衰退すれば地域は衰退する。ものづくりによる地域創生を推進するには、人材を活かす経営が必要であり、ダイバーシティな人材採用が始まった今日、その人材の能力を発揮させることでものづくりを再生したい。

参考文献

東京都商工会連合会『多摩地域中小ものづくり企業の外国人活用による生産性向上モデル創出事業報告書』2020年。
東京都産業労働局『平成30年東京の中小企業の現状・製造業編』2019年。
村田喜代治編『産業母都市東京』東洋経済新報社、1988年。
シュムペーター『経済発展の理論』岩波書店、1980年。

(注1)本稿では工業統計表や経済センサス活動調査で、全数調査が行われたデータのみを示した。
(注2)筆者はダイバーシティな人材活用の目的に、都商連が設置した「外国人活用による生産性向上モデル研究会」委員長として、多摩地区の外国人材活用状況などを調査研究した。

著者プロフィール

小川 正博 (おがわ まさひろ)

青森大学総合経営学部・東京キャンパス 特任教授

青森大学総合経営学部東京キャンパス特任教授、兵庫県立大学大学院客員教授、静岡県立大学客員教授
札幌大学経営学部教授、大阪商業大学総合経営学部教授を経て2020年から青森大学。博士(経営学)。
主著 『21世紀中小企業論・第4版』(共著)有斐閣、2022年。『イノベーション入門』(単著)、同友館、2021年。『情報技術と中小企業のイノベーション』(単著)御茶の水書房、2017年。『中小企業のビジネスシステム』(単著)同友館、2015年。その他多数。公職 中小企業診断士試験委員(基本委員)。