「明日の地域シンクタンクを考える」第3回 七十七リサーチ&コンサルティング株式会社(宮城県)

2022年4月号

木村 暢男 (きむら のぶお)

七十七リサーチ&コンサルティング株式会社調査研究部 上席研究員

〈聞き手〉 一般財団法人日本経済研究所 地域未来研究センター

本シリーズは、ポストコロナ時代に向けた活力ある地方経済のあり方について検討するため、(一財)日本経済研究所 地域未来研究センターが全国各地で活躍している地域シンクタンクの特色ある取組みを紹介する企画です。今回は、七十七リサーチ&コンサルティング株式会社の木村暢男氏に当社の取組み等についてご紹介いただきます。

■組織概要

七十七リサーチ&コンサルティング株式会社(以下、77R&C)は、宮城県仙台市に本店を置く地方銀行である株式会社七十七銀行(以下、母体行)の100%出資子会社として、今から3年8カ月ほど前の2018(平成30)年7月18日に設立した地域シンクタンクです。設立当初は母体行からの出向者を中心に18名の体制でスタートしましたが、現在は32名にまで人員が拡大しています。「地域と共に、未来をつくる」を経営理念として、総合計画策定支援など、地方自治体からの受託調査や地域経済の分析を行う「調査研究業務」、民間事業者の経営戦略策定などの支援を行う「コンサルティング業務」、そして会員向けに各種経営・経済に関する情報提供を行う「会員サービス業務」を担っています。なお、シンクタンク機能を有する「調査研究業務」には、現在、10名が在籍しています。

■長い歴史を有する地域経済分析

77R&Cの歴史は前述の通り浅いですが、地域経済の分析という点においては長い歴史を有しています。77R&C設立前は母体行内部の組織として、宮城県の経済・景況を分析する機能を有した「調査課」があり、地域への有益な経済情報の提供のため毎月「調査月報」という調査誌を発行し宮城県経済の分析・調査を行っていました。77R&C設立時に調査課が廃止されたため「調査月報」の発行は一時中断されましたが、調査課の経済調査機能を引き継いだ77R&Cにおいて2020(令和2)年4月より復活し、その発行号数は直近の2022(令和4)年1月号で「746号」にまで達しています。
「調査月報」の第1号発行は今から66年ほど前の1956(昭和31)年4月にまで遡ります。当時は行内向けの冊子として発行されましたが、1983(昭和58)年4月から現在のような行外向けの発行を開始しました。第1号が発行された当時の宮城県は、第1次産業が県内総生産の30%以上を占め、農業就業者も就業者全体の約5割を占めるなど、現在の第3次産業中心の産業構造とは異なり、第1次産業が大きなウェイトを占めていた時代でした。また、1955(昭和30)年が「有史以来の豊作」といわれた米作を始めとする各種農産物の記録的な豊作であったこともあり、第1号の「調査月報」は全61ページの誌面のうち実に4割にあたる25ページで農業を中心とする農林水産業の現状と見通しについて記述されていました。
このような時代から母体行調査課は宮城県経済・景況を分析し「調査月報」を毎月発行し続けてきましたが、その蓄積された地域経済分析に関するノウハウを77R&Cは引き継いでいます。

■強固な地域ネットワーク網

当然ながら、母体行の歴史は「調査月報」よりも古く、創業は「第七十七国立銀行」として設立した1878(明治11)年にまで遡り今年で144年目を迎えています。この間、地域の金融機関として長きにわたり地元宮城県と共に歩み、共に発展してきました。それ故、地域の自治体、民間事業者、大学などの研究機関と密接な関係を築き上げており、宮城県において強固な営業基盤を有しています。
77R&Cはこの母体行が有する地域のネットワーク力をあらゆる面で活用することにより、受託調査業務において大手シンクタンクよりも優位性を持って対応することができます。例えば、地元民間事業者へのヒアリングを要する場合は、母体行の本部や県内に127店舗を有する支店のネットワーク網を活用することにより、最適なヒアリング先の選定や円滑なヒアリングの実施など、課題解決に必要となる情報の収集・整理を的確かつ迅速に行うことができます。こうしたネットワーク力を活かし取り組んだ受託調査案件として、2021(令和3)年4月から9月までの6カ月間、東北6県という広域で開催された大型観光イベント「東北デスティネーションキャンペーン」の経済波及効果推計業務があります。推計に必要な東北地方の産業連関表が整備されていないことから、東北6県別に経済波及効果を推計する必要があったため、母体行が事務局であり観光振興支援を目的とする東北地域金融機関の連携組織「東北観光金融ネットワーク(FINE東北)」のネットワークを活用し、各県の推計業務をそれぞれの県に所在する地域シンクタンクに担当していただき、77R&Cがその取りまとめ役を務め業務を遂行しました。東北各県の地域シンクタンクが互いに手を取り合い共同で取り組んだ初めての受託調査案件であり、質の高い成果を上げることができた好事例であると考えています。

■地域密着型シンクタンク

このように、77R&Cでは、母体行の調査課で長年培ってきた地域経済の分析力、そして母体行が有する地域のネットワーク力という大手シンクタンクにはない強みを活かし、地域に根差した地域密着型の地域シンクタンクとして、宮城県内の自治体を中心に各種計画策定支援や地域経済分析、経済波及効果推計そして観光振興支援などの調査研究案件を年間10件程度受託しています。将来的には、宮城県を含め県内に36ある全ての自治体からの調査研究案件の受託を目指し、日々、県内の各自治体に足を運びながら、さらなる地域密着を押し進めています。
今後も、77R&Cは専門性の高い地域分析力と強固な地域ネットワーク力を通じて、地域と共に考え、共に行動し、地域の未来を創っていきます。

著者プロフィール

木村 暢男 (きむら のぶお)

七十七リサーチ&コンサルティング株式会社調査研究部 上席研究員

1972年仙台市生まれ。東北大学経済学部卒業後、1994年、株式会社七十七銀行入行、築港支店(塩竈市)に配属。その後、長町支店(仙台市)、大阪支店、調査部調査課副長、南町通支店(仙台市)副長、営業統轄部営業企画課課長代理、営業支援部ソリューション営業課課長代理などを経て、2013年、地域振興部調査課長。2017年9月より当社の設立準備に携わり、2018年7月、調査研究部上席研究員として当社設立と同時に当社へ出向、現在に至る。

〈聞き手〉 一般財団法人日本経済研究所 地域未来研究センター