『日経研月報』特集より

人的資本の活性化における対話の効用~ポジティブな働き方改革に向けて~

2023年4-5月号

小林 正弥 (こばやし まさや)

千葉大学大学院社会科学研究院 教授、研究院長

企業など組織の構成員が、その能力を十全に発揮するうえで、組織内のさまざまな方向での意思疎通、つまり組織内の対話は重要な役割を果たします。この対話の意義に早くから注目し、わが国での「対話型講義」の実践をリードされるとともに、『人生も仕事も変える「対話力」~日本人に闘うディベートはいらない~』などの一般向けの啓発書も執筆されている千葉大学の小林先生に、対話型講義や組織内での対話の効用などについて、お話を伺いました。(本稿は、2023年2月10日に行ったインタビューを基に弊誌編集が取りまとめたものです。)

1. はじめに

聞き手 政治哲学・公共哲学がご専門の小林先生が、対話に関する一般向けのご著書をお書きになられた経緯について、まずお聞かせいただけますでしょうか。
小林 いわゆるギリシア哲学は、ソクラテス、プラトン、アリストテレスが起点となり、そこから「問答法」を中心に発展していきました。私は、問答すなわち「対話」に源を発する哲学の展開を重視しています。かねて親交のあったマイケル・サンデル氏(ハーバード大学教授)に依頼され、NHKの「ハーバード白熱教室」の監修等に携わり、サンデル氏が多くの人の注目を集めたことを契機に、「対話型講義」を広く日本でも展開したいと考えました。大学をはじめ、ビジネスにおける研修等、さまざまな領域から対話型講義の依頼があり、今に至っています。その中で、初めに対話力についてわかりやすく書いた本を読んでもらい、身近なところで実践したうえで、私の対話型講義に臨んでもらうというメソッドを示そうと考えました。そのために対話力についての新書を執筆したのです。
また最近では、公共哲学と科学的研究を統合しようという観点から「ポジティブ心理学」に関心を持ち、その2つを統合したものを「ポジティブ政治心理学」という形で公表し、国際的な反響もいただいています。これまでの心理学が人間の心理的な病を中心に研究してきたのに対し、ポジティブ心理学は「より良い」人間の心理を研究することで幸福や繫栄に繋げる点で、ビジネスの世界でも注目を集めています。ポジティブ心理学の流れのなかでも、やはり対話は非常に重要です。サンデル型の対話型講義に加え、このポジティブ心理学の観点からの対話型講義も念頭に置き、私は最近、議論を進めています。

2. 対話の効用

聞き手 まず、小林先生が日本に導入し進めてこられた大学等における「対話型講義」の意義について、お聞かせください。
小林 先ほど背景として、ソクラテスからアリストテレスに至るギリシア哲学や問答法の話をしました。私がいつも強調しているのは、哲学や学問の世界でも、はっきりと結論が出ていないさまざまな考え方があるということです。そうした「モラル・ジレンマ」について、議論し考えていくことが重要です。「対話が進む」とは、意見が一致することではなく、対話する前よりそれぞれの見解が向上することなのです。サンデル型の講義は、哲学の営みを大規模な教室で、しかも同時に多くの人々があるテーマ等を探求することにより、自らその探求する方法を会得し、自分の考え方を深めていく一種のトレーニングの場でもあります。実際に対話のプロセスを通じ、思考が深まっていく体験をマクロに共有できます。それが大学における対話型講義の意義です。
社会に出れば、ビジネスの場を初めとしたさまざまな場で、そうした体験を活かしていくことができます。そのためにこそ対話型講義を広げていく必要があるし、さらになぜサンデルや私がそういったことに情熱を持っているかといえば、対話型の議論は、民主主義にとって最も重要なことだからです。他者と対話をし、その結果として、何が今いちばん正しい政策なのかを見つけていくプロセスは、民主主義の根幹にあるものです。対話型のトレーニングは、一種の公共的な教育でもあります。そのためにも、対話型の議論を多くの人に身に付けてほしいと考えています。
聞き手 次に、企業など組織における「対話の効用」について、お聞かせいただけますでしょうか。
小林 企業における研修の場で、私は「モラル・ジレンマ」の例を話します。例えば経営効率や短期的な利益を優先するアプローチと、社会的な貢献あるいは消費者や従業員に対するケアを重視するアプローチのうち、どちらを取るかと訊ねます。対話型の講義で、功利主義(注1)という基本的な政治哲学を紹介していますが、そういった政治哲学の原理が現場のモラル・ジレンマでどのように関係してくるのか。あるいは、もっとマクロな問題、例えばコロナ感染問題に関して、徹底した検査体制等を取っていくのか、それとも経済再生を重視するのか。こうしたジレンマがあるなかで政治哲学を知ることは、自分自身の感覚を深めるために、あるいは政策を深めるためにも大事だと考えています。
世界では、深刻な問題が立て続けに起きています。日本では、3.11原発問題が起こり、さらにコロナの問題ではパンデミックな影響を受け、そして今、ロシア・ウクライナといった深刻な問題が生じ、世界大戦前夜を思わせる状況になっています。これらはすべて深刻なモラル・ジレンマを孕んでいます。サンデル氏の講義が日本で注目された時には、どちらかというと、仮想的なゲーム、非常に興味深い思考のトレーニングと捉え、面白く感じた人も多かったと思いますが、それがその後の世界では、本当に深刻な問題に対する考え方のジレンマが出てきています。
こうした問題に対するモラル・ジレンマへのアプローチはもちろん、企業・組織における「対話の効用」に繋がります。深刻なモラル・ジレンマを考えるということは、どういう意味を持っているのでしょうか。例えば、円滑なコミュニケーションだけを追い求めていると、より深刻な問題を脇に置いてしまうことがあり得ます。企業などで、社会的に深刻な問題が一部で起こっているとか、あるいは経営が深刻な状況になっている時には、目を逸らさず、価値観・世界観も含めて議論していく経験や場を持つことはとても大切です。逆に、まったく新しいアプローチを導入し、違和感を持つ人もいるなかでそれを多くの人々に納得してもらい、進めていくためにも、対話は重要です。従って、ポジティブな方向であれ、ネガティブな方向であれ、普段円滑なコミュニケーションをするだけでは避けて通りがちなところについて、しっかりと議論していく対話的なアプローチはまさに組織における「対話の効用」となります。ですから、リーダーはそういう対話をファシリテートするアート(技法)を身に付けていくことが大事です。実際に組織内における対話的なコミュニケーションが組織のパフォーマンスに影響を与えることも明らかになっています。例えば、組織構成員のエンゲージメントや創造力、リーダーシップ等に重要な影響を与えます。そのために対話的なコミュニケーションを行っていくことが必要になるわけです。
ポジティブ心理学では、心理を念頭に置いたコミュニケーションを研究していますので、私は論理的対話に加えて心理を念頭に置いたポジティブな対話を「ポジティブ・コミュニケーション(対話)」と呼びたいと思います。その実践は、実際の組織において有意義です。組織の中には、非常に落ち込んでいる人や抑うつになりかねない人もいる一方で、非常に好調な人もいます。対話型の論理的な講義では、そういった心理的状況までは考えずに議論をしていきますが、現実の世界には、そうしたいと思っても、それができない心理状況にある人もいます。ですから、人間の心理面も加味したポジティブ・コミュニケーションが大事になってきます。例えば、リーダーが部下の欠点を指摘しなければいけない時、どういう言い方をするかによって、部下がそれで立ち直ることもあるし、逆に、より落ち込んでしまうとか、辞めてしまうこともあり得るので、相手の心理面を考えてコミュニケーションを行う必要があります。他方、上下関係のない同僚間の場合には、人間関係が険悪になってしまうとチームが機能しなくなるので、理想からいえば、全員がよりよい対話ができるようなトレーニングをし、心理面も含めて、コミュニケーションしていくことが必要です。ここがやはり企業あるいは組織における対話のもう一つのポイントになります。
ポジティブ心理学のアプローチに基づく「ポジティブ組織学」が最近展開されており、それと似たものとして「心理的資本」という概念もあり、そういったアプローチも併用していくことが大事だと思っています。私の著作でいえば、1つが公共哲学・政治哲学に基づく対話のアプローチ、もう一つがポジティブ心理学に基づくポジティブなコミュニケーション・アプローチであり、その両方を兼ね備えれば、それに勝るものはないと思っています。

3. よき対話、ポジティブなコミュニケーションとは

聞き手 対話型講義や対話型のコミュニケーションの意義がよくわかりました。また対話では、論理だけでなく心理面も含めたポジティブなコミュニケーションが重要ということですね。そうした「よき対話」や「ポジティブなコミュニケーション」について、もう少し具体的に教えていただけますでしょうか。また、先生のご著書の副題は「日本人に闘うディベートはいらない」となっていますが、対話とディベートとの違いについてもご説明ください。
小林 対話は、お互いの考え方を深めて高めることが目的ですから、まず相手の言うことに傾聴して考えていきます。他方、特に競技的なディベートの場合は、相手に勝つことが目的ですから、自分の考え方が間違っていると言ったら終わりなので、そのために強弁することも大いにあり得ます。そうしたアプローチも議論のトレーニングには役立ちますが、私の言う意味での「対話」とは違います。私は、強引にイエス・ノーで割り振ることはせず、対話型のアプローチを重視しています。対話の根幹は、他者と考え方を交流させ、自分を深めることにあります。私は孔子の「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」という言葉を引用しています。実際の方法としては、「聴く」、「考える」、「話す」、「振り返る」というプロセスに分けてトレーニングします。中でも「傾聴する」とは、ただ単に「聞く」よりも「深く聴く」ことです。相手が自分と違う考え方である時には「なぜこの人はこういうことを言うのか」を洞察します。それから「考える」というプロセスが同時並行的に進んでいくことが必要です。実際の対話では、ある程度のタイミングで応答していかないとやりとりが途切れてしまいますから、この「聞く」、「考える」、そして「話す」というプロセスを自分の中で同時並行的にある程度行っていく必要があります。最近の人は「考える」ことを、情報を得て、反応することであると捉えがちですが、これは本当の思考ではないのです。今日一日を振り返ってみる時に、自分は今日何%まで思考し、何%はただの反応をしていたのかを考えてみることをお勧めしています。世の中の雰囲気に流されず、どこまで独自に思考しているのかのパーセンテージは人ごとに異なります。他者が言うことに対し、自らの価値観・世界観から判断し、どう話すかを自分なりに考えていく。そうしたプロセスを通じて、応答することが必要になります。応答の時も、どこのポイントに対して重点的に応答していくかは当然状況によって違ってきます。場合によっては、敢えてポイントをずらして応答していくこともあるし、あるいはこの点が大事だと思い、そこに集中して応答していくこともあります。そこには「考える」プロセスが影響してきます。
これに加えて強調したいのは、「振り返る」ことの重要性です。哲学では「反省」・「省察」といいます。対話の場では、限定された時間の中で話していかなければなりませんから、自分の考え方を考え直す必要があると思っても、その場では出来ないわけです。そのことをあとで振り返り、あらためて考え直してみることは、自分の考え方を深めていくために、最も大事な部分です。この部分が今、非常に薄れていると思うので、そこを強調しています。時間がある研修の場合には、最後に数分間「振り返り」の時間を取り、そこで自分が感じたことを発言してもらいます。他者との対話によって、自分の考え方が変わり得るわけですから、自分にとって何か違和感や新しい驚きがあったら、そこをあらためて頭の中で考え直し、それを今後に繋げていきます。こうした時間を取ることは非常に大事であり、それこそがまさに哲学の原点になるわけです。
サンデル氏や私のコミュニタリアニズム(共同体主義)という哲学では、価値観・世界観も含めた対話をすることにより、多くの人々がこのコミュニティの共通の善は何かを考えることが民主主義の最も重要なポイントであると主張しています。それは政治という場であれば、民主主義的な決定になるわけですが、企業などの組織においては、組織の共通の善あるいは社会の共通の善に対し、どういう方策や政策が今の段階で必要なのかを探求していくプロセスとなります。そしてこの探求のプロセスでは、ある時期には何かが共通の善になると思えても、状況が変化すれば、共通の善のあり方も変わってくるので、それは永遠に続く対話のプロセスなのです。
次に、心理面からのアプローチを加えた、ポジティブなビジネス、仕事、労働が重要であるということです。ポジティブ心理学ではミハイ・チクセントミハイ氏(Mihaly Csikszentmihalyi)が創始者の一人で、善き仕事という考え方を提起しました。これを発展させているのがキム・キャメロン氏(Kim S. Cameron)です。キャメロンはポジティブ心理学の流れで、「ポジティブ組織学」というビジネスや組織に応用するアプローチを展開しています。彼はめざましく成功する企業の研究をするなかから「組織の美徳」という概念を提起しています。美徳を備えた組織が急速に発展する、あるいは業績悪化からV字回復していく事例を研究しています。人間だけではなく、組織にも美徳が必要なことを明らかにしたわけですが、キャメロンはポジティブ組織学の重要なポイントはポジティブなリーダーシップだと言っています。
ポジティブなリーダーシップにおける重要な側面として、①ポジティブな気風や雰囲気、②ポジティブな関係、③ポジティブなコミュニケーション、④ポジティブな意味、という4つの要素があります。いずれもポジティブ心理学で重視する要素と深く関係していますが、キャメロンはポジティブ組織学において、この4つの要素を強調しています。①のポジティブな気風や雰囲気はわかりやすいと思います。②のポジティブな関係について言いますと、組織の中で「エネルギーを喚起する人」を中心にどのようにネットワークをつくっていき、組織を活性化していくか。人間関係がとても大事だというのはポジティブ心理学の基本ですが、それを組織において活かすことになります。そして、それと関係して③のポジティブなコミュニケーションの意義を強調しています。例えばコミュニケーションには、一定以上ポジティブな要素を入れたほうが、相手にとっても、自分にとっても非常にいい方向に働きます。また、実際に起こっている問題を、感情を交えずに説明し、それに対して別のどういうオプションがあるかという選択肢を示すサポーティブ(支援的)コミュニケーションというアプローチが大事です。④の「ポジティブな意味」ということでは、組織や仕事がどういう社会的な意味を持っているのか、仕事がお互いの人生にどういう意味を持っているのかまでを議論します。
これらの4点は相互に関連性があるので、それを考えながら実践していくことが必要だと思います。実践的方法としては、キャメロンはリーダーと部下の個人的なマネジメント面談を勧めています。それを通して、相手が思うようなタスクができるようにサポートすることがよりよいパフォーマンスにも繋がっていきます。

4. 最後に~日本の社会・経済に対する提言~

聞き手 最後に今の日本の社会や組織の状況を踏まえて、ご提言がありましたらお話しいただきたいと思います。
小林 人的資本というテーマとの関係では、「心理的資本」についてもお話したいと思います。心理的資本は、希望(Hope)、効力性(Efficacy)、レジリエンス(Resilience)、楽観主義(Optimism)の4つの側面で捉えられ、その全体がその人の心理的資本となります。
最近は、人間関係、信頼などの「社会資本」ないしは「社会関係資本」が注目されており、これはとても大事だと考えています。それに加え、こうした人間の「心理的資本」を発達させていくことも重要であり、これもポジティブ心理学と非常に関わりの深いアプローチです。
私は、日本のワーク・エンゲージメント(Work Engagement)研究の代表者である島津明人先生(慶應義塾大学教授)のグループとともに、ポジティブな労働の研究にも協力しています。島津先生は「朗働」という概念を提起しておられるのですが、ワーク・エンゲージメント研究などで明らかになってくるポジティブな働き方を発展させていき、それを多くの企業に導入していただくことにより、日本経済全体のパフォーマンスが上がると考えています。
少し前に、日本政府は「働き方改革」を強調していましたが、これからは次の段階に移る必要があります。ポジティブ心理学の創始者のセリグマン(Martin E. P. Seligman)がウェルビーイングな状態を説明するために提唱した「PERMA」モデル(Positive(感情)、Engagement(没頭、没入)、Relationship(関係)、Meaning(意味)、Achievement(達成))や、それを踏まえて発展したポジティブな組織学、あるいはわれわれが研究している「ポジティブな働き方」の研究によって、ウェルビーイングを高めていく働き方が科学的に明らかになりつつあります。そこで、次の段階の改革として、思想的な側面や科学的な側面を踏まえた「ポジティブな働き方改革」をぜひ行ってほしいと考えています。
歴史的なビジョンからいいますと、アリストテレスらのギリシア哲学が、今、サンデルや私のコミュニタリアニズムとして展開し、それはよき政治・経済・社会のビジョンを示しています。他方で実証的には、アリストテレスの幸福倫理学の系譜と関連するポジティブ心理学が、個々人の幸福に繋がるような科学を明らかにしているわけです。これらを基礎にして、善い政治・経済・社会が可能になってきます。従って、経営で「善い働き方改革」を行っていくことは「善い経済」に繋がっていきます。これらにより、個々人の私的な幸福感が増すだけではなく、公共的な幸福に繋がっていき、経済にとてもよい影響をもたらすでしょう。
哲学から見た正義論とポジティブ心理学のアプローチを加えることにより、繁栄と分配による好循環が生じてきます。セリグマンは幸福・繁栄をFlourishと言っていますが、私はそれを「栄福」と訳しています。栄福とは人々が幸福になり、同時に社会が発展し経済が繁栄していくイメージです。この「栄福」の社会あるいは経済を目指していくことが、今の日本にとって非常に大事だと思っています。少子高齢化対策として人口そのものを増やすことも、もちろん大事だとは思いますが、少子高齢化の現状では、働いている人がより潜在的なポテンシャリティを発揮できるようにしない限り、経済の発展は難しいと思います。ポジティブな働き方を導入していけば、日本はまだ繁栄可能であり、そのためには、一人ひとりがより活き活きと働けるようにしなくてはいけないでしょう。もちろんそれは経済だけでできることではなく、政治や文化・社会が相互に作用してはじめて、今の非常に困難な状況を乗り越え、日本を繁栄に導くことが可能になると思います。その意味で、まさにウェルビーイングに基づく考え方が個人の人生における幸福だけではなく、政治・経済の発展に繋がっていくことが今後の重要なポイントになると考えており、そのことに政治・経済のリーダーの方々にはぜひ耳を傾けてほしいと思います。サンデルのような哲学的ないし論理的な対話と同時に、ポジティブな心理を踏まえた「ポジティブ対話」を企業・組織でしっかりと導入し、それが日本全体に広がっていくことが、非常に重要だと考えています。
ポストコロナ時代において、政治哲学でいえば、リバタリアニズムのような個人の私的利益を中心に考えるアプローチに比べ、倫理性や共通の善を重視するコミュニタリアニズムが大事であることがあらためて自覚されるようになってきました。世界は今、「複合的な危機(感染症・戦争・経済の危機)」に直面していますが、それを乗り越えて「栄福社会」をつくっていくための非常に重要なアプローチが「ポジティブな対話」から始まるのではないかと考えています。
聞き手 「ポジティブな対話」を起点にした「ポジティブな働き方改革」を行うことで、組織も、経済も、社会も発展させることが出来るし、それによって「栄福」な社会と経済を目指そうというビジョンですね。本日は誠に有難うございました。

(注1)功利主義:個々人の幸不幸という結果を基準にし、全員について集計することによって、行為や制度の正しさを決めることができると考える思想。

著者プロフィール

小林 正弥 (こばやし まさや)

千葉大学大学院社会科学研究院 教授、研究院長

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学法学部助手・千葉大学助手・助教授を経て現職。1995~97年、ケンブリッジ大学客員研究員。千葉大学大学院社会科学研究院教授、千葉大学公共研究センター長。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授兼任。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。NHK教育テレビ「ハーバード白熱教室」(2010年)で解説を務め、ポジティブ心理学と公共哲学とを架橋する試みを行っている。
専門分野 公共哲学、政治哲学、比較政治
主な著書 『サンデルの政治哲学』(平凡社新書、2010年)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版、2011年)、『対話型講義―原発と正義』(光文社新書、2012年)、『人生も仕事も変える「対話力」―日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書、2013年)、『アリストテレスの人生相談』(講談社、2015年)、『武器となる思想』(光文社新書、2018年)、『ポジティブ心理学―科学的メンタル・ウェルネス入門』(講談社、2021年)