国際情勢の現状と展望

2022年12月号

鶴岡 公二 (つるおか こうじ)

一般財団法人国際情勢研究所 所長/元在英国日本国大使館 特命全権大使

(本稿は2022年9月13日に東京で開催された講演会(オンラインWebセミナー)の要旨を事務局にて取りまとめたものである。)
1. 戦後秩序の基本
2. 世界情勢の不安定化
3. インド太平洋の将来
4. CPTPP、RCEP、IPEF
5. 中国との経済関係
6. 経済安全保障の確保

1. 戦後秩序の基本

国際関係は、これまでどのような秩序を基本として構築されてきたのでしょうか。第二次大戦後の秩序は、大戦前の秩序とは性格が異なります。大戦後は国際法が徐々に確立しはじめた時代で、米国が大戦で勝利を収めたことが、国際秩序の大きな基礎となりました。
大戦終戦前から米英二ヵ国が主導し、二度と世界大戦が起こらないようにすること、さらに経済的貧困格差が紛争の元になっていたという認識のもとで国際的な協調と繁栄を実現する枠組みを作る流れが起きていました。ルーズベルト米大統領とチャーチル英首相は、ナチスドイツとの戦いが終了した後の国際秩序の組立方について会談を行い、大西洋憲章として両国の目標を声明しました。結果、政治面では「国際連合」を設置、経済面ではIMF・関税および貿易に関する一般協定(以下、GATT)をもとにする「ブレトンウッズ体制」を敷き、それによって世界の平和を確立させ、繁栄していく世界を構築しようとしたのです。
しかしその後、世界平和が訪れたわけではありません。自由主義陣営と社会主義陣営の対立が激化し、東西冷戦が続きました。1989年、故ゴルバチョフ元ソ連共産党書記長とブッシュ米大統領の間で冷戦の終了が確認され(マルタ会談)、その後ソ連が崩壊しロシアに変わりました。東側社会主義陣営に対し、西側自由主義陣営が勝利を収めたのです。
東西冷戦の終了により、民主主義と自由経済が世界の基本となり、発展していく基礎ができたと多くの人たちは考えました。ソ連の崩壊で、民族や宗教を中心に自国を運営する国々が独立し、国家の数が飛躍的に伸びました。しかし、経済的に恵まれていなかった地域を中心に、民族間抗争や宗教的対立があり、コソボ紛争、中東シリア、アフガニスタン、アフリカ等で多くの紛争が頻発しました。先進国においても、宗教団体系の過激派テロが数多く頻発しました。
そのなかでも世界は経済的繁栄を続け、特に中国が世界第二位の経済大国となり、軍事・政治的にも世界秩序に大きな影響を与えるまでに成長しています。世界の力関係のなかで、米国の国力の相対的低下が示されるようになりました。
1995年、あらゆる経済活動の国際秩序をつくるために世界貿易機関(以下、WTO)が設立され、大戦後のブレトンウッズ体制を支えてきた柱の一つであるGATTはWTOに引き継がれることになりました。

2. 世界情勢の不安定化

世界情勢が不安定化してきたのは、ここ20年間での徴候です。これまで前提としてきた法に基づく国際秩序は危機に瀕しています。大きな原因は、米国の国際社会への関与が弱まりつつあること、もう1つは、中国等の最大貿易国が強大な経済力に持つようになったことです。しかし、中国は専制国家であり、自由主義の民主国家ではありません。国際法違反を繰り返しています。その流れのなかで起きている最も深刻な問題はロシアのウクライナ侵略で、これは紛う方なき国際法違反です。国連では常任理事国の行うこれらの行動を止める力を発揮できません。安全保障理事会の決議は採択不可能となっています。制度として拒否権が与えられているのは、米、露、中、仏、英の主要5ヵ国です。この5ヵ国に特権を与えた理由は、国際連盟の失敗を繰り返さないことでした。国際連盟は普遍的な国際機関としての機能が果たせなかったのです。居心地が悪くなると、加盟各国は簡単に脱退していきました。大戦後、主要5ヵ国として認められた国々には、脱退しない仕組みを組み込むことで特別な地位を与え、常任理事国として国際連合の運営に重い責任を担ってもらう、ということを憲章の条文の中に定められました。ただ、そのときの想定は、5ヵ国は立派だからということでしたが、見通しは甘かったのです。各国間の協力や経済活動が発展していく、その一番基礎になっている国際法、国際秩序が、いま、不安定化しています。
深刻なのは、先ほど述べたロシアのウクライナ侵略です。領土主権は国際法が最も重視するものですが、相手国の領土主権を踏みにじっている現実があったとしても、それを制圧することが難しい状況にあります。また、南シナ海の島々の軍事基地化の問題では、中国があたかも自国の内海であるかのような扱いをしています。加えて、中国は経済的強国になると、その力を用いて相手に強制しています。喫緊の例では、豪州政府が、武漢から始まったコロナについて原因と対策をしっかり調査すべきであると国際社会に求めたことに対し、中国は豪州への仕返しとして、重要な対中輸出品目である石炭やワインを禁輸しました。経済力を使って相手の意思を変更させるという、あり得ないことが起きているのです。

3. インド太平洋の将来

話を進めて、インド太平洋の将来を考えてみます。安倍政権下では、アジア太平洋をインド太平洋とより広く捉えたうえで、自由で繁栄してきたインド太平洋を今後も維持しようという構想が固まり、アジア太平洋経済協力(以下、APEC)では、アジア太平洋の経済共同体を目指しました。その後、自由貿易構想をさらに進めるべきであると、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想が作られ、環太平洋パートナーシップ協定(以下、TPP)、地域的な包括的経済連携協定(以下、RCEP)を含む、法的拘束力のある協定が締結されました。
ここで自由貿易協定(以下、FTA)について説明します。日本は、実は、世界の主要貿易国で唯一、主要貿易国と間でFTAを交わしています。さらに、米国、中国、EU、ASEAN全てと経済連携協定(以下、EPA)を交わしています。現在は、物的貿易だけではなく、投資、知的財産、人交流等の経済活動が国境を越えるので、さまざまな活動を合意する場合にはEPAが必要となります。貿易をさらに促進させるため、国境措置を自由化し、円滑な貿易活動ができるようにする仕組みづくりがEPA・FTAの目指すところです。日本は各国との交渉を積極的に進めた結果、今、発効している協定に基づいた貿易総額が全体の約8割に上り、相当な貿易の割合で優遇措置が行われていることがわかります。
振り返ると、大戦に繋がった1つの原因は、ブロック経済による対立でした。相手を選別して貿易し、恩恵を享受することが頻繁に起き、世界経済のブロック化が進んだのです。GATTの大原則は、最恵国待遇であり、全ての国を平等に扱うことでした。日本がGATTに入ることで日本の製品は差別されないことが保証され、日本は再び貿易立国の道を歩むことができました。世界が等しく平和に発展していくためには、どの国も差別されず、平等な条件で競争することが重要です。日本は長らくこの大原則を守り、小規模貿易国とのFTAは締結していたのですが、大規模貿易国とは、多額の貿易額を優遇することにより他国との貿易の公平さを損ねることを懸念して、EPA・FTA交渉を回避してきました。しかし韓国は、世界中の国々と多くのFTAを締結しました。結果、日本製品が韓国製品の劣勢になっています。例えば、自動車関税が挙げられます。韓国は自動車関税の撤廃を10年以上前に実現しました。ヨーロッパで走る韓国車は輸入車ですが、日本車のほとんどは現地で生産されています。関税の壁があるため輸出車ではないのです。日本政府は、競争相手が優遇されるのを見ているだけでは日本の国際経済問題を解決できないとして、10数年前、主要貿易相手国に対しEPA・FTAを進める方針に変更しました。

4. CPTPP、RCEP、IPEF

CPTPP

この流れのなかで最も自由化の度合いが高く、各国が活用することで経済共同体をともに発展させることが可能な枠組みが、TPPです。TPP交渉は米国主導で開始されたのですが、提唱した米国は国内の自由貿易への反発から脱退しました。その後、日本が米国抜きで取りまとめ、名称は、カナダの提案で環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(通称TPP11。以下、CPTPP)となりました。CPTPPが実現できたことは、日本の外交交渉、通商交渉の成果といえます。
CPTPPの特徴は、地域を限定しないことです。ルールに従って貿易をする国であれば、どんな国でも歓迎します。基本はAPECの国々が入ることを想定していましたが、それ以外の国でも条件さえ満たせば歓迎するという生きた協定であるといえます。実際に、英国、中国、エクアドル等の国々が加盟申請をしてきています。また、経済主体として独立している場合は主権国家でなくても加盟できるため、台湾からも加盟の申請がきています。
この仕組みができると貿易がしやすくなりますが、特に利益を得られる可能性を持てるのは、通常は国際的活動をしないような中小規模の企業です。大企業は世界市場について詳細な調査研究をし、世界で活動ができますが、国内の企業活動が中心の企業にとって、海外との商談には戸惑うこともあるでしょう。例えば、インターネットを通じた通販等の電子商取引については、売り手は消費者に確実に情報を届け、支払が確実に行われることを確保したい、買い手は確実に物が届くことを確認したいわけです。即ち、情報の流通の自由化、金融取引、物・サービスが国境を越えて行われるための確実性と信頼性の担保、これら全てが実現することで、はじめて取引が成立するわけです。中小企業はこれらを容易に行うことは難しいでしょう。CPTPPでは、外国企業にサーバ等のコンピュータ関連設備の国内設置を求めることも禁止されています。関税、通関手続きも協調して簡易化されています。海外進出を考えていなかった中小企業の方々も、CPTPP加盟国間であれば安心して取引ができるのです。
大企業にとってのメリットの一つに、迅速かつ効果的な紛争処理規定があります。例えばWTO協定では、EUの大型民間航空機開発への補助金問題が競争規定に反すると米国が訴えましたが、違法判断が下されるまでに10年以上かかりました。CPTPPには、迅速かつ効果的に紛争処理を行うことが含まれています。

RCEP

RCEPには非常に多くの国々が加盟しています。APEC内での自由貿易協定を目指して交渉が開始されました。RCEPの加盟各国間に経済格差が存在するために、協定内容は高い水準の協定とはいえません。米国は当初から不参加で、インドは離脱しています。しかし、WTOを一歩進めたかたちで多国間をまとめたことは有意義です。

IPEF

次に、インド太平洋経済枠組み(以下、IPEF)についてみてみます。バイデン政権はインド太平洋での経済推進を模索し、最終的にインド太平洋の経済枠組みとしてIPEFを提案しました。昨秋、東アジアサミットとAPEC首脳会合において正式に提案されました。今年5月、東京で13ヵ国が参加する首脳会合が開催され、正式な構想として立ち上がりました。翌6月に各国の閣僚間で議論され、最終的には14ヵ国が参加しています。
IPEFには4つの柱があります。貿易、サプライチェーン、クリーンエネルギー脱炭素化、公正な取引としての税・腐敗防止の管理です。
まず、貿易で伝統的に議論されるのは関税です。関税による差別をやめることが、FTAの重要な貿易促進措置ですが、関税を交渉対象にしていません。そして、さまざまな世界的共同作業による製造業の広がりを確実に発展させていくためには、サプライチェーンの強靱性を高める必要があり、その点が柱の一つとなっています。3点目は、環境保全、気候変動対策のための技術開発を協力して行うことが掲げられ、4点目は、不透明な形で行われる取引は不公正な結果を招く恐れがあるとして、腐敗問題を取り上げています。
いずれにしても、米国が主導して行うことはほとんどありません。米国がこれまで世界経済を牽引してきた最大の原動力は、米国の市場力です。米国市場は大変魅力ある市場で、日本経済にとっても重要です。米国が米国市場をさらに開放するのか、内外差別がなくしていくのかについては、特に新興国にとって極めて重要です。
米国の連邦憲法上、通商に関する権限は議会の専権事項であり、その最たるものが関税の決定権限です。行政府は交渉した結果を議会に承認してもらわなければ実現できません。また、米国は三権分立が徹底しているゆえ、行政府として交渉がしにくくなっています。大統領が共和党だからといって、議会が共和党になる保証はありません。このねじれは決して珍しくなく、予算も法律も、議会が承認しないことには行政府は政策を実施できません。通商権限を背景に、議会が大きく立ちはだかる状況となっています。
日米貿易摩擦が激しかった時代、「米国はいつも外国に出し抜かれている、いい思いをしているのは外国ばかりだ」という不満が米国国民にありました。結果、国内における階層間格差が拡大しました。医療、教育にも影響が及び、中産階級が上下に分かれるような形で米国の分裂が起きてきています。バイデン大統領は就任時、中産階級のためになる経済を訴えました。その貿易版がIPEFなのです。国民の不満層から国際経済への関与について評価してもらうために提案したわけです。TPPでは、予め米国の行政府が議会と相談して作った基本政策を条文化して提示し、交渉が行われましたが、IPEFにおいては、まだ何も進められていません。抽象的な問題点を指摘し、さまざまな課題について皆でともに取り組んでいこうと言っている状況に留まっています。議長は米国が続けていくにしても、加盟各国も当事者として参画することが期待されており、共同作業によって作られていく枠組みになる点においては、歓迎されています。
日本はCPTPPをまとめた国ですが、IPEFに対しても積極的に参画し、日本経済にとっての利益、地域の繁栄に繋がる仕組みとして立ち上げることが好ましいでしょう。

5. 中国との経済関係

中国は、われわれ西側民主主義諸国とは異なった政治経済制度です。10億の民を抱え、経済成長が著しい国であり、既に多くの国々にとっての最大貿易相手国です。日本も中国との経済関係を断絶できないでしょう。中国と経済関係を切り離すことは非現実的目標であり、中国との適切な関係は、日本人にとって非常に重要な課題です。一方で、中国内政の専制化は懸念材料です。もし中国が、経済、政治、軍事にわたり高圧的要求を行うことがあれば、極めて好ましくなく、日本として適切な対処が不可欠になることは言うまでもありません。

6. 経済安全保障の確保

最後に、先の国会で成立した経済安全保障推進法についてお話しします。WTOに象徴されている普遍性を維持し、日本がどの国とも等しく関係を持つためには、その大前提として、全ての国が日本との友好関係を持ち、日本が尊重されることにあります。しかし、全ての国は日本に対して必ずしも友好的ではありません。信頼できる国との経済的な相互依存関係を強め、そういった国を選別することが重要です。全面的に他国に依存することは、その国の機嫌を損ねたときに危機が訪れる恐れがあります。しかし、例えば製造業において日本国内で全てを行うことは非現実的です。他国を選別し、日本の能力・技術をしっかり守ることが必要です。また相手国が武力行使に使う恐れのある兵器や軍事技術、軍事転用可能な高度の技術については、慎重な管理が必要です。この法律は、そこをより明確に定めています。
サプライチェーンが世界中に広がることによって製造業の合理性が高まり、効率的生産が可能になることは極めて有益です。しかし、一国への全面依存は危険であり、その脆弱性について対応していく必要があることが、この法律に盛り込まれています。政府は工場を運営しているわけではありません。政府と民間との緊密な協議が不可欠なのは当然です。今後の具体的な措置を講ずるために、政府と民間企業、諸団体との連携が強化されてきていると理解しています。
この法律はIPEFと似ていますが、日本が自国で行うには限界がありますので、優位性・不可欠性を確保していくことが重要です。日本にしかない技術を活用し、守り、場合によっては攻めに使うこともありますが、国際秩序が維持されていなければ安定した取引はできません。実際に、具体性のある課題の特定として、サプライチェーン、基幹インフラ、官民技術協力、特許の非公開制度の導入が定められています。皆様も、ぜひ、現場の立場から積極的に発信していただければ、より現実的かつ実効性のある法律として、着実な実施に繋がるのではないかと考えます。

〈質疑応答〉

質問A 英国と米国との関係は、英国のEU離脱でどのように変わり、今後どうなっていくのでしょうか。
鶴岡 キャメロン首相はEU残留派でしたが、政権与党の保守党が統一見解を持たず、英国中心主義の強硬な反欧州派が少なからずいました。他方、EU離脱について、実感として議論に参画できない人もいました。多数は残留を主張しましたがノイジーマイノリティが離脱を主張することで、EUへの参画によりどれだけ損をしているかという意見が支配的になりました。EUに対し支払っている会費を国内で自由に使えて、EUの規則はなくなり英国は自由になれると、多くの国民がその意見に流れました。
結果、EU離脱で直ちに影響が及んだ先は労働者です。英国には多くの外国人労働者が入ってきています。EUの一員であれば、労働者は国境を越えて移動が自由、福利厚生は英国人と同じように扱われました。また、ポンドのレートが高く、賃金も高かったのです。しかしEU離脱後、多くの外国人労働者はいなくなり、労働者不足は激しい問題を引き起こしています。また、通関という新たな国境措置の導入により、ヨーロッパから物が入りにくくなっている問題も起こりました。
コロナ禍は、英国が受けた悪影響が顕在化する原因にもなりました。EU離脱問題は英国経済にさまざまな悪影響を及ぼしていますが、コロナのせいか、EU離脱のせいか、よくわからない状況となっています。
英国は、隣国ヨーロッパ26ヵ国との貿易関係があります。これらは全世界貿易の半分以上を占め、優遇するEPA・FTAを上回る市場統合をしていたため、障壁を置かざるを得ないところに追い込まれました。その克服には、他の地域との自由貿易促進によって実現するしかありません。その1つがTPPへの参加です。しかし到底、ヨーロッパとの貿易を補う市場にはなり得ないでしょう。
英国は米国とFTAを締結したい意向がありますが、遺伝子操作した農産品が自由に販売できなければ米国とFTAを締結できません。英国は遺伝子操作には反対であり、米英のFTAが実現する可能性は非常に低いでしょう。英国がこれからどうするのかが宙に浮いている、非常に深刻な課題です。
しかし、英国経済はまだ底力があります。金融サービス業を重視し、サービス貿易に経済が切り替わったからであり、ポンドを維持したことは、英国の金融における力を維持するうえで大きく貢献しています。伝統大学をはじめとする極めて高い教育水準や研究水準が原動力となり、英国経済は今後も強い経済であり続けるのではないでしょうか。
質問B 日本はCPTPPに加盟申請している中国や台湾にどのように対処するか、また、今後の中国、米国との経済関係はどのようになっていくのでしょうか。
鶴岡 中国がCPTPPの規程を遵守し経済制度を改革していくことは、世界にとっても中国にとっても極めて好ましいことですが、中国はCPTPPの規則に従った改革を実現しなければCPTPPに加盟できません。中国の改革を促し、好循環に繋げていく加盟交渉に持っていくことは、日本が果たすべき役割でしょう。中国は台湾の加盟は反対していますが、CPTPPに加盟していない中国が反対するのは勘違いではないでしょうか。こういったことをきちんと指摘しながら、よい方向に議論を持っていくことが日本の基本的姿勢だと思います。
米国との経済関係の構築には、あくまでも米国との連携をしっかり行うことが重要です。米国の政権が替わっても米国の基本的方針は変わらないでしょう。米国が利益を得ることにどれだけ協力できるか。日米貿易摩擦の頃の日本企業の米国に対する投資は、米国国民に対する日本の重要な貢献という点で高く評価されていると思います。日米関係において、その基礎はありますから、これからも米国との連携強化は非常に重要です。
質問C エリザベス女王のご逝去に関して、コメントをお願いします。
鶴岡 2016年からの英国駐在の折には、女王は非常に丁寧に対応してくださり、大変お元気でした。その後も、女王とお話しする機会に恵まれましたが、女王は日本に大変関心があり、天皇家のことも気にかけてくださっていました。女王のおかげで日英関係が安定してきたことは大変感謝すべきです。
また、女王は、大戦後の自由主義圏を安定、発展させるうえで、静かな、かつ着実な貢献をされました。常に国民とともに歩むことを強く意識されている方で、戦時中も自ら進んで軍のトラック運転手をされました。王室の女性が陸軍に入隊することは稀です。即位後も、ラジオで国民に語りかける等、機会あるごとに国民と接触しておられました。
民主主義は世襲を排除しますが、英国では王制が残りました。民主主義社会の中で王制が国民に評価され、意義ある存在としてどうあるべきか、女王は常々考えておられ、それに則した活動を積極的にされてきたと思います。英国のみならず世界に愛される女王でありました。約70年間の治世を女王としてお勤めになられたことは、世界でも稀有でしょう。長く私たちとともにおられたことに感謝いたします。

著者プロフィール

鶴岡 公二 (つるおか こうじ)

一般財団法人国際情勢研究所 所長/元在英国日本国大使館 特命全権大使

昭和27年8月生まれ。昭和51年3月 東京大学卒業。昭和51年4月 外務省入省。昭和57年7月 条約局条約課 課長補佐。昭和61年7月 在ソヴィエト連邦日本国大使館 一等書記官。昭和63年12月 在アメリカ合衆国日本国大使館 一等書記官。平成3年11月 経済局国際経済第一課 企画官。平成6年8月 条約局法規課長。平成8年8月 北米局北米第二課長。平成10年2月 北米局北米第一課長。平成12年4月 在インドネシア日本国大使館 公使。平成14年6月 政策研究大学院大学大学院政策研究科 教授。平成15年8月 総合外交政策局 参事官。平成16年2月 同 審議官。平成18年8月 地球規模課題審議官。平成20年7月 国際法局長。平成22年8月 総合外交政策局長。平成24年9月 外務審議官。平成25年4月 内閣官房TPP政府対策本部 首席交渉官。平成25年7月 環太平洋パートナーシップ協定交渉に参加するための日本政府代表/大使。平成28年4月 在英国日本国大使館 特命全権大使。令和元年12月 退官。令和2年4月 一般財団法人国際情勢研究所 所長。令和2年10月 一般財団法人運輸総合研究所研究アドバイザー。令和3年2月 合同会社鶴岡事務所 代表社員。令和3年6月 一般財団法人運輸総合研究所理事。
専門分野 国際法、国際関係と外交関係一般