『日経研月報』特集より

地方創生政策による人口動態とポストコロナにおける地域創生

2022年6月号

宮下 量久 (みやした ともひさ)

拓殖大学政経学部経済学科 教授

1. はじめに

総務省によると、2021年の人口は1億2550万2千人であり、前年度からの減少が前年に比べ64万4千人になり、1950年以降で過去最大となった(注1)。千葉県船橋市の人口が約64万5千人(注2)であるから、2020年から2021年にかけて、船橋市1つ分の人口が消滅したことになる。直近の大幅な人口減少の背景には、新型コロナウイルスの感染拡大により結婚や出産を控える影響もあるかもしれないが、人口減少はコロナ前から続いており、日本の社会における重要課題のひとつとして位置付けられてきた。
実際、政府は人口の減少抑制と経済成長を実現するため、地方創生政策を2015年から本格的に推進してきた(注3)。2015年から2019年が地方創生政策の第1期として位置付けられ、現在は2020年から2024年までの第2期に入っている。各地方自治体は第1期の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を総括したうえで、第2期の地方創生政策を推進している。地方創生政策が始まって以降、各地の人口動態はどのように変化したのだろうか。宮下(2018)では、財政の古典的理論である、Tiebout(1956)の「足による投票」を踏まえると、半ば強制的な人口減少抑制策は地域間競争を減退させてしまう恐れがあると指摘している。また、川瀬(2020)では、第1期の地方創生政策について、「集権型国家システムのもとでの集約型国土再編」と指摘している。ただ、これらの先行研究では、地方創生政策による各地の人口動態への影響について定量的かつ包括的な検証が行われていない。
そこで本稿では、これまでの地方創生政策の効果を検証するため、第1期を主に分析期間として、各地の人口動態の変化について定量的に分析していく。続く第2節では、第1期の地方創生政策の予算を整理し、地方創生関連交付金における各地への配分状況を確認する。第3節では、第1期の5年間における人口関連データを地方創生政策前の5年間と比較して、地方創生政策が各地の人口動態に与えた影響を検証する。第4節では、都道府県別の合計特殊出生率における地方創生政策前後とコロナ禍の変化について確認していく。第5節では、これらの人口動向などを踏まえて、ポストコロナの地域創生に向けた論点を整理していく。

2. 地方創生関連予算の概要

地方創生関連予算は2014年度補正予算から2021年度までで約21兆円にのぼる。このうち、都道府県と市町村に交付される「地方創生関連交付金」は第1期の2015~2019年度で合計7,700億円程度にのぼる。これらは各地方自治体にどのように配分されたのだろうか(図1)。

図2は各都道府県について地方創生政策前の人口増減率と一人当たり地方創生関連交付金(第1期)の関係を示している。横軸には地方創生政策前の5年間(2010年から2014年)の人口増減率の平均値、縦軸には地方創生政策第1期の5年間(2015年から2019年)の1人当たり地方創生関連交付金の平均値をとっている。この図をみると、各都道府県の分布や近似線が右下がりであり、回帰係数もマイナスである。地方創生政策前の5年間(2010年から2014年)の人口増減率の平均値が低い都道府県ほど、地方創生政策第1期の5年間(2015年から2019年)の1人当たり地方創生関連交付金の平均値が高い傾向にある。つまり、各都道府県の1人当たり地方創生関連交付金は地方創生政策前に人口が減少傾向にあった都道府県に手厚く配分されてきたことがわかる。
ただし、図2では地方創生関連交付金における配分の地域差があることも示している。例えば、鳥取県は2010年から2014年の人口増減率がマイナス0.5%であり、1人当たり地方創生関連交付金は約1.9万円である。その一方、新潟県も人口増減率がマイナス0.5%ほどであるが、1人当たり地方創生関連交付金は約0.6万円であった。鳥取県と新潟県は地方創生政策前に同程度の人口減少に直面しているにも関わらず、1人当たり地方創生関連交付金には約1.3万円の差異が生じている。地方創生関連交付金の配分要因は人口減少以外にもあると思われるが、地方創生政策によって新たな地域間格差が生じぬように、第2期では地方創生関連交付金の配分要因やその効果を詳細に検証する必要がある。

3. 第1期における地方創生政策の人口への影響

表1は第1期地方創生政策前後の市町村における人口増減についてまとめたものである。地方創生政策前(2010-2014年)では、自然増減率が増加(プラス)の市町村は249、減少(マイナス)の市町村は1,314、社会増減率が増加の市町村は594、減少の市町村は969であった。人口の社会減の市町村が分析対象市町村のうち62.0%であるのに対し、自然減の市町村は84.1%に上っているため、人口の社会減よりも自然減が進んでいた市町村が多いことがわかる。この結果、地方創生政策前(2010-2014年)の人口増減率でみると、減少である市町村は1,162、分析対象市町村の74.3%であった。

次に、地方創生政策後(2015-2019年)では、自然増減率が増加の市町村は153、減少の市町村は1,410、社会増減率が増加の市町村は455、減少の市町村は1,108であった。人口の自然減の市町村は分析対象市町村の90.2%、社会減の市町村は70.9%に上っている。これらの結果、人口増減率が減少の市町村は1,274、分析対象市町村の81.5%を占めている。地方創生政策後でも人口減少は加速している。
第1期の地方創生政策前と地方創生政策後の人口増減率の差分がプラスになれば、地方創生政策の第1期では人口動向が改善、マイナスになれば悪化とみなすことができる。そこで、地方創生政策前後で増減率の差分がプラス(改善)の市町村は、自然増減率で195、社会増減率で515であることがわかった。その結果、338の市町村が地方創生政策前よりも第1期の地方創生政策後において、人口動態を改善できていた。
それでは、地方創生政策の第1期で人口動態が改善した市町村とはどのようなところであろうか。
表2は第1期地方創生政策前後の人口増加率の差分が上位の都市、表3は第1期地方創生政策前後の人口増減率の差分が上位の町村をまとめたものである。都市では、京都府向日市の人口増減率の差分が1.298ポイントでトップであった。京都府向日市の人口増減率の平均値は地方創生政策前(2010年から2014年)でマイナスであったが、2015年から2019年の地方創生政策第1期でプラスに転じている。沖縄県宮古島市、福岡県糸島市、石川県かほく市も京都府向日市と同様の傾向にある。
また、表2では大都市圏や政令指定都市に近接している都市がほとんどである。2015年から2019年の社会増減率が自然増減率よりも顕著に高い都市が多いことから、これらの上位の都市は大都市近郊のベッドタウンとして居住地選択されている傾向がうかがえる。

表3でも、2015年から2019年にかけて社会増減率の高い町村が上位にあることがわかる。町村では北海道勇払郡占冠村がトップであり、人口増減率の平均値の差分は6.043ポイントであった。町村の上位は都市の傾向とは異なり、離島などの条件不利地域が多い。また、町村の人口増減率平均値の差分は都市よりも顕著に高い。この背景には、2015年から2019年の人口増減率の平均値、社会増減率の平均値が一部の町村を除けば、都市よりも高いことから、小規模な町村に域外から居住者が5年間で転入した影響があると思われる。2010年から2014年の人口増減率平均値がすべての町村でマイナスであることから、これらの町村では地方創生政策第1期の期間に、従来にはなかった転入増加があったといえる。
ただ、表1では1,225市町村(78.4%)が地方創生政策第1期に地方創生政策前よりも人口減少を悪化させていた。第1期の地方創生政策では、人口動態を改善できた市町村が約2割であるため、政策目標のひとつである減少傾向の歯止めは一部の市町村に有効であったかもしれないが、その政策効果は限定的であったと思われる。

4. 各都道府県の合計特殊出生率の変化

図3は都道府県別の合計特殊出生率における地方創生政策前後と2020年(コロナ禍)の変化を表している。都道府県別の地方創生政策前後の合計特殊出生率の差分は、2015年から2019年(地方創生政策第1期)の合計特殊出生率の平均値から2010年から2014年(地方創生政策前)の合計特殊出生率の平均値を差し引いた値である。静岡県、山形県、岩手県、和歌山県、新潟県以外の都道府県は、合計特殊出生率を地方創生政策第1期において上昇させた。特に、富山県と東京都が地方創生政策第1期の5年間に0.1ポイントほど合計特殊出生率を上昇させている。表1では自然増減率では1,368市町村(87.5%)が地方創生政策前よりも悪化していたが、地域によっては出生率の改善がみられていたと思われる。また、国が待機児童の解消や女性の活躍しやすい環境を整備してきたことも、合計特殊出生率の上昇に寄与しているかもしれない。
ただ、コロナ禍の影響がある2020年と2015年から2019年の合計特殊出生率の差分では、全都道府県がマイナスであることがわかる。また、ほとんどの都道府県では2020年と2015年から2019年の合計特殊出生率の差分は地方創生政策前後での差分よりもマイナス方向に大きい。新型コロナウイルスの感染拡大による合計特殊出生率の低下が全国的にみられるとともに、地方創生政策による上昇分を相殺する恐れがあることがうかがえる。2021年以降も合計特殊出生率の低下傾向が続くならば、わが国の人口減少は加速するかもしれない。合計特殊出生率の低下傾向は最新のデータ整備を踏まえて、その要因を慎重に検証するとともに、今後も注視していく必要があるだろう。

5. ポストコロナにおける地域創生

前節までの分析結果を踏まえると、第1期地方創生政策の特徴とその効果には次の3点が主に挙げられる。第一に、都道府県と市町村に交付される「地方創生関連交付金」は地方創生政策実施前の人口減少地域に配分されていたが、人口以外の要因も配分に大きく影響した可能性があるため、第2期では地方創生関連交付金の配分要因やその効果を詳細に検証する必要がある。地方創生政策が新たな地域間格差や不公平さを生じさせてはならない。第二に、第1期の地方創生政策では、人口動態を改善できた市町村が本稿の分析対象市町村の約2割であるため、その政策効果は限定的であったと言わざるを得ないだろう。第三に、一部の地域を除いて合計特殊出生率は地方創生政策第1期において上昇していた。国が待機児童の解消や女性の活躍しやすい環境を整備してきたことが功を奏したと思われる。ただし、2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大による合計特殊出生率の低下が全国でみられるとともに、地方創生政策による上昇分を相殺する恐れがある。
これらの結果から、今後の地域創生に向けて何を実現すべきだろうか。まず、新型コロナウイルスの感染拡大は合計特殊出生率に顕著な負の影響を及ぼした可能性があるため、城戸(2018)で指摘されるように、少子化対策や子育て支援を地域政策として推進するのではなく、国がトップダウン型の人口政策として推進すべきであろう。子育て支援策が地域間競争の一環として位置付けられると、その支援策の違いは各地方自治体の財政力の差として顕在化すると考えられる。政府はポストコロナの少子化対策を国民全員で共有すべき課題として再設定したうえで、サンセット方式(注4)による新たな予算措置をすることも一案である。
また、大都市圏への女性の人口流出は続いている。2021年ではコロナ禍の影響もあり、男性は東京都から1,344人の転出超過になったものの、女性は東京都へ6,777人の転入超過であった(注5)。新型コロナウイルスの感染拡大の影響があっても、女性は東京などの大都市圏でのライフスタイルに魅力を感じている証左であろう。
地方創生政策の契機となった増田編(2014)では、「若年女性(20~39歳)人口の減少率(2010年から2040年)が5割を超える自治体」を消滅可能性都市として定義していた。政府は女性が地方から転出することを問題視していたものの、その傾向を大幅に転換することは難しいといえる。実際、地方創生政策のひとつである定住自立圏の中心市(圏域における定住自立圏形成に向けた中心的な役割を担う意思を表明した都市)へのアンケート調査では、他市町村と連携して「生活機能の強化」に成功したとの回答は85.1%にのぼるものの、「人口流出を食い止められた」との回答は10.5%であった(注6)。政府や地方自治体の取組みでは、各地域の生活機能を維持できたとしても、人々にとってそれが居住地選択において魅力的であるかは別な問題ではないだろうか。
今後の地域創生のターゲットを女性に限定するならば、地方創生政策は女性の活躍や子育て支援などの他政策との連携を深めつつ、女性がクリエイティブに働ける職場やストレスフリーに過ごせる場を官民の協働で各地から自発的に創出することが求められている。

参考文献

Tiebout, C.M.(1956) “A Pure Theory of Local Expenditures,” Journal of Political Economy, 64(5)、416-424.
川瀬憲子(2020)「第1期地方創生とは何だったのか―静岡県にみる『地方創生』の現実」『住民と自治』11月号、pp.18-21.
城戸宏史(2018)「政策としての『地方創生』への展望―矛盾点と可能性」『日経研月報』Vol.482、pp.6-15.
増田寛也編(2014)『地方消滅-東京一極集中が招く人口急減』、中央公論新社
宮下量久(2018)「地方創生を踏まえた地方財政の展望」『日経研月報』Vol.482、pp.16-23.

(注1)総務省(2020)「人口推計の結果と概要 II. 各年10月1日現在人口」〈https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2.html〉(2022年4月23日参照)
(注2)『住民基本台帳人口』によると、船橋市の人口は2022年4月時点で、645,972人である。
(注3)「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」(2014年閣議決定)では、「人口減少問題の克服」と「成長力の確保」が長期ビジョンの柱に掲げられていた。
(注4)サンセット方式とは、政府や地方自治体による事業に計画年限を事前に決めておくことで、既得権益の創出や行政組織の硬直化を回避する手法である。
(注5)総務省(2022)「住民基本台帳人口移動報告年報 2021年版」
(注6)総務省地域力創造グループ地域自立応援課(2019)「定住自立圏構想の推進に係る取組状況及び取組の効果に関する調査について」

著者プロフィール

宮下 量久 (みやした ともひさ)

拓殖大学政経学部経済学科 教授

1979年生まれ。法政大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。株式会社PHP研究所政治経済研究センター研究員、同主任研究員、月刊誌「Voice」編集部主事、公立大学法人北九州市立大学地域戦略研究所准教授などを経て現職。株式会社PHP研究所客員研究員、神奈川県相模原市緑区区民会議会長、福岡県岡垣町まち・ひと・しごと創生審議会会長、神奈川県川崎市都市計画審議会委員などを歴任。「平成の大合併」の政策評価や定住自立圏・連携中枢都市圏の形成要因など、地方財政に関する研究に従事。主な著書「「平成の大合併」の政治経済学」(勁草書房)共著[第26回租税資料館賞受賞]、「官僚行動の公共選択分析」(勁草書房)共著[第23回森嘉兵衛賞受賞]、「公共選択論」(勁草書房)共著「〈首都圏版〉住んで得する街ランキング」(PHP研究所)共著、「地域主権型道州制一国民への報告書」(PHP研究所)共著。