情報通信産業のグローバル展開と日本のデジタル戦略

2022年9月号

関口 和一 (せきぐち わいち)

株式会社MM総研 代表取締役所長/元日本経済新聞社 論説委員

※本稿は2022年6月14日に東京で開催された講演会(会場兼オンライン)の要旨を事務局にて取りまとめたものである。
1. 米軍事技術がインターネットに
2. 日本におけるデジタル戦略
3. 「IT革命」から「DX革命」へ
4. Web3.0が促す新たなデジタル変革

1. 米軍事技術がインターネットに

ロシアによるウクライナ侵攻で改めて気付かされたのはIT・ICTの重要性です。ロシアよりウクライナのほうが情報通信技術を上手に活用しています。ウクライナのドローンがロシア軍の戦車の列を攻撃して破壊した映像は記憶に新しいかと思います。神風ドローンなるものも登場しました。ウクライナのゼレンスキー大統領はソーシャルメディアを活用して国内外に情報発信し、世界の世論を味方に付けました。さらに米国SpaceX社の衛星通信技術「スターリンク」を導入し、ウクライナ軍は手元の通信端末と低軌道衛星上の基地局との間で情報を交信できる体制を敷きました。

インターネットは「DARPA」という米国防総省の研究所が1969年に開発した軍事技術が発祥です。従来の電話回線は中央にある交換局が各端末に繋がっている中央集権型の通信網ですが、インターネットは各端末が相互に繋がっています。従って仮にAとBを繋ぐ回線が切られても、情報をデジタルの小包に分けて送信することでAからCを経由してBに情報を届けることができます。

ところが1989年の冷戦終結に伴い、米国はインターネットを国防目的として使う必要がなくなったため、政府はインターネットの技術を世界に公開し、商用目的で使えるようにしました。その技術に真っ先に目を付けたのがスイスの欧州原子核研究所(CERN)の研究員、ティム・バーナーズ=リー氏です。彼は分散したデータベースをインターネットで複数のコンピュータに繋げ、情報にリンクを貼りつけることで他のコンピュータと情報を共有できるハイパーリンクの仕組みをつくりました。この技術が世界に開放され、電子商取引や情報配信などに応用されることでインターネットは全世界をまたぐ一大情報通信インフラになったのです。

2. 日本におけるデジタル戦略

1990年代の日本はインターネットに関心は持ちつつも動きは活発ではありませんでした。日本は従来型の通信技術を活用するというのが政府やNTTのスタンスでした。一方で韓国は経済破綻のなかで1998年に発足した金大中政権が経済を改革するためにはインフラである通信技術も見直さなければならないとADSLを推進しました。インターネットに対する韓国の出足は日本より遅れたのですが、2年足らずで日本を追い越しました。
そこで日本政府も韓国には負けられないと情報通信政策に本腰を入れ、2000年に「IT戦略会議」(議長:出井伸之ソニー会長、当時)を立ち上げ、翌年から「e-Japan戦略」をスタートしました。従来の電話回線上にインターネットを使うためのデータ通信サービスを載せることを認め、日本全国にADSLを張り巡らせました。光ファイバー網の敷設にも力を入れ、日本は韓国や米国をも追い抜く世界最先端のブロードバンド大国になったのです。
そうした政策を後押ししたのが当時の小泉純一郎首相や経済財政担当大臣の竹中平蔵氏です。次の戦略としては2006年、ITを医療や教育などに活用していくことを目的に「IT新改革戦略」を立ち上げ、ブロードバンドの利活用を打ち出しました。ところが小泉氏の後を受けた第1次安倍内閣では安倍首相自身が政権を放り出したことから、政策が宙に浮いてしまいました。さらに2011年の東日本大震災により、日本のIT政策は迷走状態に陥ってしまったのです。



ところがコロナ禍の到来によってデジタル変革が一気に進みました。オンライン診療やオンライン教育、タクシーの宅配代行、株主総会のオンライン開催などです。同時にあぶり出されたのは、実は日本のデジタル化は諸外国と比較してそれほど進んでいないということでした。定額給付金の申請手続きやコロナ陽性者のトレースなどはうまく機能しませんでした。日本はFAXをいまだに多用しているために、保健所や医療機関との間でコロナ患者に対する情報のやりとりも迅速にできませんでした。

3. 「IT革命」から「DX革命」へ

IT業界の株価の動向を端的に表す米国のNASDAQ100指数の動きをみると、1990年代後半にインターネットが登場してから最初のドットコム(.com)バブルの山があります。2000年に入るとAmazon株の急落をきっかけにITバブルが崩壊しますが、その後、Googleが検索キーワードに関係した広告を表示するサービスを開始し、インターネットのアクセスをマネタイズする仕組みをつくったことから、次のブームが巻き起こりました。さらに仮想化技術を用いたクラウドコンピューティングの技術により、誰もが情報発信できる時代、いわゆるWeb2.0の時代が到来しました。
ところがこれも2008年のリーマンショックで、ブームの終焉を迎えますが、新たな救済者が登場しました。AppleのiPhone 3GやTeslaの電気自動車、GoogleのWaymoに代表される自動運転技術などです。この流れはドイツでも「インダストリー4.0(Industri 4.0)」という産業分野のデジタル変革に発展しました。従来、ネット上の世界で起きていたIT革命がリアルの世界でも起き、NASDAQ100指数を再び押し上げました。
日本もようやくその動向に気付き、2016年に「第5期科学技術基本計画」を打ち出し、ロボットやAIを成長戦略の要と位置付けました。もちろん、日本もそれまでAIに着手していなかったわけではありません。1980年代のバブル経済の頃に日本発のAIを開発する「第5世代コンピュータ」プロジェクトが立ち上げられましたが、当時はインターネットすらない状況だったため、技術的にうまく進みませんでした。また、Googleの検索技術が台頭した後、その対抗策として2007年に「情報大航海プロジェクト」が立ち上げられましたが、これもうまくいきませんでした。

2008年のリーマンショックは世界規模の金融危機でしたが、デジタル変革や新しい情報通信技術を開発するという観点では大きなプラスでした。2008年にスマートフォンや電気自動車、ライドシェア、民泊サイト、Netflixといった新しい技術やサービスが登場したのはリーマンショックのおかげともいえます。Netflixは当時、経営危機に陥りましたが、生き残りをかけてビジネスモデルの転換を行い、ネット配信ビジネスを開始しました。

1990年代後半からWeb2.0までの動きをネット上でビジネス変革を促す「IT(インフォメーションテクノロジー)革命」と称するなら、2010年代以降はリアルの世界を変える「DX(デジタルトランスフォーメーション)革命」だといえます。ITの技術がリアルの世界を変えるという意味では、今後もDX革命の波は続くでしょう。実際にSpaceX社やGAFAなど、今まで大企業が手掛けていた宇宙や通信などのビジネスをベンチャー企業が提供できる時代になってきました。文字どおりのパラダイムシフトです。ライドシェアで成功したUberは1台も車を持たない世界最大の配車会社で、民泊サイトのAirbnbは1つも客室を持たない世界最大の客室予約会社ですが、時価総額はいずれも既存の自動車会社やホテルチェーンに比べ非常に高くなっています。Teslaも2019年後半から急激な株価の上昇を続け、現在の時価総額は100兆円に上ります。
そうした流れを受けて、トヨタの豊田章男社長は「Connected(接続)、Autonomous(自動運転)、Sheared(共有)、Electric(電気)」の頭文字をとった「CASE」という4つの流れが「100年に1度といわれるモビリティの変革を促している」と指摘しています。トヨタもこの方向での変革を目指し、EV(電気自動車)への本格参入を発表しました。Uberに象徴されるように、すでに市場にある車を借上げて第三者にモビリティを提供するビジネスモデルが登場したことで自動車のハードウエアよりもソフトウエアやサービスが占める付加価値の割合の方が高くなってきています。ものづくりとしての自動車産業から、ソフトやサービスの方に収益の源泉が移ってきているのです。

世界で最初にデジタルトランスフォーメーションの概念を唱えたのは、スウェーデンのウメオ大学の教授、エリック・ストルターマン氏で、2004年の論文「Information Technology and the Good Life」の中で提唱しました。ITで人々の暮らしを良くするという概念でしたが、それが産業分野にも及んだのです。ところで「DX」とアルファベット2文字で呼ぶのは日本だけの用語で、正しくは「デジタルトランスフォーメーション」です。DXの考え方は米マサチューセッツ工科大学(MIT)のマイケル・ハマー教授が1993年に上梓した書籍『リエンジニアリング革命』にも「古いビジネス構造を見直し、ゼロから業務を新しくすること」と説明されています。すなわち「Business Process Re-engineering 」略して「BPR」が日本でも話題になりましたが、それをデジタル技術で促すことがDXだといえます。
しかし日本の場合、古いビジネス慣行のままデジタル化を促そうとしているために、その成果がなかなか実感できないのではないでしょうか。米国におけるIT投資はこの20年間で3倍程度に伸びていますが、日本はほとんど増えていません。内訳をみると、投資の8割以上は既存システムのメンテナンス、維持、更新に使われ、デジタル変革を促す新しい投資には向いていません。これは問題です。完璧な商品を市場に出すことが日本の製造業の強みだったのですが、インターネットの登場により、商品が完璧でなくてもアップデートでソフトウエアの書き換えができるようになったため、機敏に製品やサービスを投入する海外の企業の方が競争力が高くなったのです。
日本の「通信・コンピュータ・情報サービス」の国際収支をみると、赤字額が1.5兆円にも上ります。つまり米国企業のクラウドサービスが日本にも広がったことで、Amazon、Microsoft、Googleなどのクラウドを使えば、その対価は米国にいくわけです。このままでは日本の情報通信産業は危機的な状態に陥ります。IT企業の20年間の売上高推移をみると、NTTグループはほぼ横ばいが続き、GAFAの合計売上高は20年前にNTTの10分の1だったのが、今ではNTTの10倍に上ります。つまりGAFAは20年で100倍の成長を遂げているわけです。このことが日本と米国における情報サービス関連の収支に反映されています。また日本のクラウド市場のマーケットは2012年にAmazon、Google、Microsoftの3社で約3割のシェアでしたが、2020年にはそのシェアが6割に上り、ほかの米IT企業のサービスも含めると7割以上を占めます。つまり日本のクラウド利用は7割以上を米国のシステムに依存している形になっているのです。

4. Web3.0が促す新たなデジタル変革

1990年代後半のドットコムブーム、すなわちWeb1.0の時代は電話線を使ったインターネット接続が中心だったので大量な情報のやり取りができず、サービスは一方通行でした。その後、クラウドが広がり、スマートフォンが登場すると、巨大なデータセンターに安いコストでデータを預けられるようになり、誰でも情報発信できる時代になりました。つまりソーシャルメディアが広がったのがWeb2.0で、双方向の時代を迎えました。2020年代以降はWeb3.0という分散の時代に入りました。ブロックチェーンという新技術の活用により、お互いに分散して監視し合うことでデータの信頼性を担保する時代です。決済、送金、保険、不動産、ファイナンス、ヘルスケア、選挙、教育、著作権管理、電子商取引、シェアリング、サプライチェーンなど、あらゆる分野がこのブロックチェーン技術で変わってきています。


実体経済とは別にサイバー上のデジタル経済が広がっていますが、それを支えているのが「NFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)」と呼ばれる技術です。世界に1つだけのものであるということをブロックチェーン技術によって証明するプラットフォームです。このプラットフォームにデジタル資産、暗号通貨、デジタルアート、ゲームアイテム、音楽の著作権などを載せることで様々な取引ができるようになりました。現在、NFTの市場規模は約7億円ですが、急速に拡大しています。
このようなブロックチェーン技術を応用したサービスなどの広がりを指す言葉がWeb3.0です。こうした技術によってインターネットを介したシェアリングも広がっています。移動、宿泊、施設、洋服、物流、知識、資金などがインターネットを介してお互い融通し合えるようになりました。その信頼性をブロックチェーン技術を用いて証明できるようになったのです。これまでは金融機関がそうした金融サービスを全部仕切っていたのですが、その形式が崩れつつあります。
知識のシェアリングの例では、上場会社のビザスクは、経験豊富なその道のプロに1時間からピンポイントに相談できるようにした日本最大級のプラットフォームです。簡単に言えば知識の時間売りをサービスにしました。弁護士やコンサルタントをネット上に登録しておき、顧客とのマッチングによって、1時間単位で専門家のアドバイスや意見を聞くことができます。サービスを受ける側は少額の負担で済み、また知識を社会に提供したい人たちも顧客と結び付くことができます。
シェアリングエコノミーに加え、さらにソーシャルエコノミーも広がっています。企業は単なる儲けではなく、社会にどれだけ貢献したかというところで判断されるようになりました。今後はこうしたWeb3.0の流れを担保するための法制度、会社の仕組み、政府の政策が問われています。米国のユニコーン(時価総額が10億ドル以上と想定される未公開企業)のランキングでは、決済サービスのStripe社 、SpaceX社、Epic Games社(ゲーム配信)、Instacart社(食料品購入)など、リアル世界のデジタル変革に先進的に取り組む企業が評価されています。
歴史を振り返ってみても、新しい技術は常に新しい市場を生んできました。航海技術の進化によるコロンブスの新大陸発見は米国大陸との貿易による国際市場を生み出しました。エジソンが電球を発明したことで夜の市場が広がりました。フォードによる自動車の大量生産でダウンタウンでない郊外型市場が拡大しました。今はインターネットで地球の裏側の店にもオーダーができるようになっています。
そうした意味では今後の情報通信産業で注目すべき分野は宇宙とメタバースではないでしょうか。SpaceX社は1万2,000基の低軌道衛星を打ち上げ、衛星を使った通信システムを提供しようとしています。海の上や山の中などこれまで通信が困難だった場所でも、衛星により通信が可能になるわけです。一方、メタバースはネット上の仮想空間の中にビジネスを置く世界です。米国のベンチャー企業、Oculus社はゴーグルを着用することで3次元の仮想空間に作り、そこで人とのコミュニケーションが図れるサービスを提供していましたが、同社をFacebook社が買収しました。仮想世界にチャンスを見出したFacebook社は社名をMeta社に変更してメタバースの世界を広げようとしています。今後は5Gの広がりにより大量のデータを迅速に送ることが可能になるので、メタバースは大きく広がることでしょう。

2021年9月、日本政府はデジタル庁を新たに設置しました。日本のブロードバンドの普及を促した「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)」は2000年に制定されましたが、当時はクラウドもスマートフォンもない時代だったため、この法律は今の状況にはマッチしなくなりました。時代遅れとなった法制度やインフラを見直し、政府のバラバラなデジタル戦略を一元化し、行政システムを標準化して安く調達できるようにするのがデジタル庁設置の目的です。通信インフラの再整備としては、5G、ローカル5G、Wi-Fi6、6Gなどの高速通信技術を整備していく必要があります。行政のデジタル化は待ったなしでしょう。
中でも最も重要なのは新しい発想を持った若いデジタル人材の育成です。デジタル庁は「デジタル田園都市国家構想」を掲げ、2026年度末までにデジタル人材を100万人から330万人に増やすことを目標としています。さらに「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル社会」を実現するために高齢者らに携帯端末の使い方などを指導する「デジタル推進委員」の制度を設け、2万人を任命する計画です。また日本の政府は何かを始めるときにすぐ規制をかけようとしますが、まずは走らせてみてから規制を考えることも大事だと思います。
日本の情報通信産業で新たに期待される技術として、NTTが提供する「IWON(Innovative Optical and Wireless Network)」があります。通信だけでなく、コンピュータ処理も光信号のまま行う技術で、熱を発生せず、電力消費が100分の1になります。メタバースなどの3次元処理も低消費電力で高速な処理が可能になります。この技術を日本から世界に提供できれば、GAFAもそれを使えるようになり、ウィンウィンの関係を築くことができます。情報サービスではGAFAに負けても、インフラのレイヤーで日本が世界の情報通信産業に貢献できる新しい体制を構築できるかもしれません。さらにNTTには「宇宙データセンター構想」があります。地球上の気候観測データなどさまざまな情報を処理するデータセンターを宇宙につくる構想です。ドローンビジネスもようやく日本で動き出しました。日本政府はデジタル化を促す規制緩和を進めながら、うまく舵取りをしていく必要があります。

英国の経済学者、クリストファー・フリーマン氏が「危機の時こそ新しいイノベーションが起き、それが大きなうねりになる」と発言した通り、コロナ禍により新たな技術革新、イノベーションが起きました。リーマンショックの時にも様々なイノベーションが起き、危機が去った後に大きな産業になりました。日本政府としては新たな技術革新を阻むような規制をつくらず、新しいイノベーションを生み出す方向に持っていくために、今こそデジタル戦略に力を入れていく必要があるでしょう。

〈質疑応答〉

質問A 日本はデジタル面で競争力が低下してきましたが、Web3.0時代に逆転する可能性はありますか。
関口 率直な印象では逆転は厳しいでしょう。Web1.0、Web2.0は米国が主導し、その延長線上で米国はWeb3.0に走り出しています。一歩先に行く米国を追い越すためには日本から類い希な人材を生み出し、FacebookやMetaを翻すものをつくらなければなりませんが、残念ながらそこまでは見えていません。日本政府は余計な規制をかけずに新しいベンチャー企業を育成支援し、国際競争ができる環境を整え、民間企業やメディアなどを含めてWeb3.0の戦略推進について考えていく必要があります。
質問B デジタル化推進のためには政府が半導体産業の再興とデジタル通貨を推進する必要があると思いますが、いかがでしょうか。
関口 1980年代当時、日本は半導体産業が強かったのですが、半導体摩擦で日本政府は米国の言いなりになり、政策的にシェアを狭めてしまいました。これは大失敗です。そうした反省から、経産省は台湾のTSMCと組み、九州に半導体の新工場を建てることを決定しました。その成果はまだわかりませんが、政府は民間企業とともに半導体やソフトウエアのサプライチェーンを新たに構築していく必要があります。
デジタル通貨はまだ発展段階ですが、NFTが開花しようとしています。海外ではデジタル通貨を政府として発行する動きが進んでいます。日本も日本銀行が自ら仮想通貨を発行すれば信頼性もあるので、取引の効率性が高められると思います。マネーロンダリングも避けることができるかもしれません。
質問C 日本人の行動変革も走りながら考える価値観に変えていかなければいけないと思いますが、明るい兆しはないでしょうか。
関口 DXとはまさに考え方を変えることです。これまでの日本はフェイス・トゥー・フェイスのコミュニケーション文化でしたが、今はデジタルの時代です。移動ができないためにこれまでビジネスに直接参画できなかった体の不自由な方や子育て中の方などがリモートで参画できるようになれば、経済の生産性を高め、組織の人事制度の変革を促すこともできるでしょう。しかし、人間はあくまで生命体として物理的に存在していますから、そこで培った人間界のルールを無視してはなりません。重要なことはそうしたルールをバーチャルの時代にも合うように変えていくことでしょう。
質問D 産業が衰退する理由として、既存のものが固定費として負担が大きいために技術革新についていけないことがあると思いますが、GAFAにそういった現象はないのでしょうか。
関口 GAFAはすべてデジタルなところが強みです。しかし多くの企業ではアナログからデジタルへの移行は一足飛びには行けず、一定期間は両方を併走させる必要があります。企業や経営者はこれをうまく乗り切らなければなりません。重要なのは自己否定してみることです。ものづくり分野で強い企業であれば、そのことを自社の体力があるうちにあえて否定し、新しいソフト分野への転換を進めてみるといったことも必要でしょう。

著者プロフィール

関口 和一 (せきぐち わいち)

株式会社MM総研 代表取締役所長/元日本経済新聞社 論説委員

1982年一橋大学法学部卒、日本経済新聞社入社。1988年フルブライト研究員としてハーバード大学留学。1989年英文日経キャップ。1990~1994年ワシントン支局特派員。産業部電機担当キャップを経て、1996年より2019年まで編集委員を24年間務めた。2000年から15年間、論説委員として情報通信分野などの社説を執筆。2019年(株)MM総研代表取締役所長に就任し、客員編集委員。2008年より国際大学グローコム客員教授を兼務。1998年より日経主催の「世界デジタルサミット」の企画運営を担う。2009-2012年NHK国際放送コメンテーター、2012-2013年BSジャパン『NIKKEI×BS Live 7PM』メインキャスター、2015-2019年東京大学大学院客員教授、2006-2021年法政大学ビジネススクール客員教授を務めた。著書に『NTT 2030年世界戦略』(日本経済新聞出版)『パソコン革命の旗手たち』(日本経済新聞社)『情報探索術』(同)、共著に『未来を創る情報通信政策』(NTT出版)『日本の未来について話そう』(小学館)など。