『日経研月報』特集より

World View〈ヨーロッパ発〉シリーズ「ヨーロッパの街角から」第36回

持続可能な社会への道しるべ~スマホと新EUエネルギーラベル~

2023年3月号

松田 雅央 (まつだ まさひろ)

在独ジャーナリスト

2022年12月半ば、ドイツ経済気候保護省(経済省)のロバート・ハーベック大臣が新しいEUエネルギーラベルの導入決定を発表した。彼のコメントは次のように始まっている。「多くの消費者は、もはやスマートフォンやタブレットのない生活を想像することができません」。
特にスマホは、SNS、オンラインバンキングや各種証明にも使われるようになっており、生活と切り離せない存在だ。ただ、近年の製品はバッテリーを交換し修理しながら使えるような、持続可能な仕様になっていない。
経済相のコメントは続く。「重要なのは、消費者が購入を検討する際、将来に配慮した信頼のおけるサポートを得られることです。一方、新しいEUエネルギーラベルによりメーカーは持続可能な方法で生産するインセンティブを得ます。これにより、資源の利用が効率的になります」。
本稿では、消費者とメーカーの行動に変革をもたらすであろう新EUエネルギーラベル(以下、新EUラベル)の話題をお伝えする。併せて、ドイツで圧倒的な支持を得ている消費者情報誌「test」を取り上げ、持続可能な社会と循環経済(CE)へ繋がる取組みをレポートしたい。

EUエネルギーラベルとは

テレビ、冷蔵庫、洗濯機などの白物家電、あるいはエアコンやボイラーなどエネルギーを多く消費する電化製品には、省エネルギー性能を示すEUエネルギーラベル(以下、EUラベル)の表示が義務付けられている。最低レベルのG(赤)に始まり、最高レベルのA(緑)までクラス分けされ、その製品がどこに位置するか、一目で確認できる(写真1)。


1998年に導入されたEU(欧州連合)の同制度は、改定を重ね、省エネルギー性能の尺度として定着している。クラスが高いほど製品価格は上がるが、電力消費が少なくなるため、ライフサイクルで考えればお得。さらに消費者の環境意識にも訴えかけ、購買行動を上位クラスへ誘導する。
メーカーにとっては、より高いクラスの製品を製造する動機付けがされ、結果として社会全体の省エネが進む。
今のところ、スマホとタブレットはEUラベルの対象になっていない。2025年導入予定の新EUラベルには加わり、さらにこれら製品に修理の容易さの表示が義務付けられる点が画期的だ。

冷蔵庫を買い替えるなら

私事になるが、1年前に20年近く使ってきた冷蔵庫が壊れ、急遽買い替えた。EUラベルのクラスが何なのか覚えていないほどの古い製品だった。購入当時、AやBの製品は珍しく、あったとしてもかなり高額だったから、バランスを考えて、おそらくCかDの製品を購入したと思う。そういう時代だった。
それに対し、新しい冷蔵庫はクラスAで、しかも価格帯は中級。ウクライナ紛争の影響でエネルギー価格が高騰しているため、おそらく10年内に元が取れそうだ。ならば、故障を待たずに買い替えればよいのだが、そこが庶民の悲しさで、踏ん切りがつかなかった。
EUラベルは節電効果を直感的に理解する助けとなり、しかも公の基準なので説得力がある。消費者にとって、購入を検討する際の不可欠な情報になっている。

修理のしやすさ

本題のスマホの修理に話を移そう。
携帯電話を使っていた時代は、裏ブタを開け、自分でバッテリーを交換したものだが、今使っているスマホは、交換できない仕様になっている。消費者情報誌「test」のモーリス氏によれば「傾向として、ケースの糊付けが進んでいます。理由の一つは防水。そして、なるべくネジを使わず、スペースを削り、製品のケーシングを薄くしています」。
道具があればバッテリー交換は可能だが、ネットで情報を探りながらの作業となる。ありていに言って、特別な興味と情熱を持つ人向けの趣味の世界だ。
バッテリーさえ交換できればもっと使えるのにと、残念な想いで買い替えを迫られることが少なくない。ディスプレーの損傷しかり。修理して長く使うより、使い捨てを前提とする、垂直型経済に基づく消費モデルの典型だ。
新EUラベルは、そこに切り込んでいる。メーカーはバッテリーを含めたスペアパーツのストックを義務付けられ、修理に関する情報も提供しなければならない。結果として、メーカーは修理し易い製品の開発を迫られる。

義務をチャンスに

メーカーは新EUラベルをどう受け止めているのだろう。やはり、コストがネックになるのではないか。「もちろん価格の問題があります。400ユーロのスマホを買って、修理費用が300ユーロでは、システムとしてほとんど意味を成しません。また、セキュリティーのアップデートも大事です。これまで、アップデートの頻度や、そのサービスを何年間提供しなければならないか、それを表示する義務はありませんでした」(モーリス氏)。
メーカーにとってはコストと手間のかかる挑戦になるが、認識は変わってきているという。「実際、アップル社は修理サービスの提供をはじめました。修理で収益を上げるビジネスモデルも作れるはずです。重要なのは考え方を転換し、(義務や規制を)チャンスに変えることです」(モーリス氏)(写真3)。

test誌

test誌は「商品テスト財団(Stiftung Warentest)」が発行するドイツの情報誌で、製品の安全性・経済性・環境性などを中立の立場でテストし、結果を一般公開している。同財団は、消費者保護の観点から、1964年に国の主導で設立された。新EUラベルが、上からの働きかけならば、test誌は消費者側、つまり下から持続可能な社会の実現にアプローチする。
例えば同誌は、2020年12月に、スマホ9機種とタブレット4機種を対象として、どれだけ簡単に修理できるかをテストしている。まさに新EUラベルを先取りする内容だ。
評価の比重は「修理し易い設計」が60%で、「スペアパーツと消費者向け情報」が40%。「修理や交換手順をメーカーが提供しているか」、「スペアパーツの入手のし易さ」などを指標とし、「消費者が修理を試みると保証が失われる」ような規定は、評価を下げる。

持続可能な取組みに光を当てる

評価値の範囲は0.5~5.5で、「とても良い(0.5~1.5)」の評価を得たスマホは、わずか1機種だけ。残りの8機種は「4.0~4.4」と、その差は歴然だった。
最高評価を得たのはオランダに本社を置くFairphoneの製品で、同社は人と環境にこだわり、持続可能な事業をモットーとしている。
例えば、同社の製品はドライバー1本でディスプレーを交換できるが、iPhoneは8つの道具を使い接着材を溶かすために加熱が必要だった。分解してもメーカー保証が有効なのはFairphoneに限られるなど、他社製品とはコンセプトに根本的な違いがある。同社は、新EUラベルが生み出すであろう潮流の先を進んでいる。
ちなみに、同社が意図する持続可能でフェアな社会には、原料の生産段階も含まれる。スマホの利用者は、意図せずとも、1日1ドルの低賃金で、健康を害しながらコバルトを採掘するアフリカの子供たちを生み出している。CEは、現行のシステムで虐げられている彼らを置き去りにしない、フェアな変革でなければならない。

メーカーにも多大な影響

ただし、同社の製品が万能というわけではなく、防水性はiPhoneが勝り、部品の交換によって製品のパフォーマンスが落ちるという結果も出ている。test誌のアドバイスは「Fairphone以外のスマホを自分で修理したい方は、専門のワークショップ受講をお勧めします」とのこと。
スマホを購入する際、価格、性能、環境への配慮など、何を優先するかは人それぞれだが、いずれにしてもtest誌の情報は消費者の大きな助けとなる。
ドイツでの同誌の知名度は抜群で、「とても良い」の評価は、メーカーにとって魅力的な宣伝材料になる。次のクラス「良い(1.6~2.5)」でさえ、多くのメーカーが広告に好んで利用するほど、信頼は絶大だ(写真4)。

評価の妥当性

では、低い評価を受けた製品のメーカーは、その結果をどう受け止めるのか。メーカーはそれぞれの製品に自負を持っているはずで、不満を感じることが多いだろう。
どのような観点で、どのようなテストを行い、それをどのように評価するか。おそらく万人に公平で完璧な方法はないと思うが、だからこそtest誌は中立性と独立性に注意を払い、業界の専門家、消費者団体、研究機関と協働しながらテストを実施している。
それでも、納得のいかないメーカーによる訴訟は起きる。公表されている情報によると年間数件の訴えがあるが、裁判でtest誌側が負けることは稀だという。
一つ言えるのは「(日本のJISのような)公的規格をクリアしているのに評価が低いのはおかしい」というメーカー側の訴えは認められないということ。規格の準拠は当然で、それより上の次元での評価になる。

廃棄物削減のインセンティブ

今回、CEというテーマをいただいたが、執筆にあたり、リサイクルと環境意識に関わる、ちょっとした経験を思い出した。
ドイツでは90年代初め、廃棄物を減らす必要性と環境意識の高まりを背景に、包装容器リサイクルの仕組み、いわゆる「デュアルシステム(2重回収システム)」が整備された。
メーカーは、包装容器にグリーンマークを印刷し、システムを運営するDSD社にマークの使用料を支払う。実際の収集・リサイクルを行うのは、同社と契約する業者である。メーカーには包装容器の回収とリサイクルの義務があり、DSD社と契約業者がそれを肩代わりする形だ。
マークの使用料は、環境負荷の少ない素材(例えばプラスチックより紙)ほど安く設定されている。当然、量も少ないほど安くなるから、メーカーは使用する素材を置き換え、より簡単・軽量な包装を工夫する。削減効果には目を見張るものがあり、ドイツで買い物をすれば、包装が極めてシンプルなことに気付くはずだ。
ひるがえって、日本の商品は過剰包装が多い。少なくとも20年前はそうだった。ドイツに続き、日本でも包装材にリサイクルマークを印刷するようになったが、残念ながら筆者の期待したような簡素化は見られなかった。制度は作られたものの、メーカーにインセンティブを与えることができなかったようだ。

環境意識と環境戦略

筆者はその背景に、両国の環境意識の差を感じる。
厳しい書き方になるが、政府、企業、消費者の環境意識が不充分だから、本来は手段であるはずのシステム構築が目的にすり替わり、目指すべきゴールが霞んでしまう。何のためにシステムを作るのか、環境意識が明確なら、別の結果が得られたはずだ。
環境意識は、持続可能な社会と、その上に築かれる環境経済の土台のようなものだ。しっかりした環境意識がなければ、持続可能な社会は砂上の楼閣のように安定しない。CEについても、同様のことがいえると思う。
ドイツにも数々の問題がある。ただ、日本より優れている点は、社会の環境意識を刺激しながら、同時に経済的な利益を生む仕組み、すなわち「環境戦略」の制度設計に長けていることだ。付け加えるなら、環境戦略の効果を評価し、問題があれば大胆に改善してゆく柔軟性が挙げられる。
そしてtest誌の挑戦は、我々に重大な示唆を与えてくれる。消費社会のあり方をメーカーの都合に合わせるのではなく、消費者の視点から働きかけることの大切さを示しているのではないだろうか。

著者プロフィール

松田 雅央 (まつだ まさひろ)

在独ジャーナリスト

1966年生まれ、在独27年
1997年から2001年までカールスルーエ大学水化学科研究生。その後、ドイツを拠点にしてヨーロッパの環境、まちづくり、交通、エネルギー、社会問題などの情報を日本へ発信。
主な著書に『環境先進国ドイツの今 ~緑とトラムの街カールスルーエから~』(学芸出版社)、『ドイツ・人が主役のまちづくり ~ボランティア大国を支える市民活動~』(学芸出版社)など。2010年よりカールスルーエ市観光局の専門視察アドバイザーを務める。