World View〈ヨーロッパ発〉シリーズ「ヨーロッパの街角から」第37回

欧州発、緑の波~若い力が時代を創る~

2023年4-5月号

松田 雅央 (まつだ まさひろ)

在独ジャーナリスト

欧州において、緑は環境保護のシンボルとなっている。欧州委員会は、2050年までのカーボンニュートラルを目指して行動計画を作成しているが、その名は欧州グリーンディール。そして、若者発の気候保護運動、Fridays For Future(以下、FFF)のシンボルカラーもやはり緑である。
近年、欧州社会を覆う環境保護運動の波は、さながら緑の大波のようだ。本稿では、気候保護を訴える若者の活動を取り上げ、運動の新しい流れを浮き彫りにしてみたい。

国の取組みに不満

一口に環境保護といっても、分野は多岐に渡る。2019年に発表された欧州グリーンディールのテーマは、生物多様性、建物のエネルギー改修、食品の安全、公共交通の利用、クリーンテクノロジー、さらには持続可能な仕事のスキルや競争力のある産業育成まで網羅している。
EUは、カーボンニュートラルな欧州大陸を目指しており、これらのテーマを横断的にカバーするのが温室効果ガス排出削減と気候保護だ。
各国とも、その重要性に異論はなく、何らかのアクションを起こしている。しかし、各国政府の対策が不十分であるとする世論は根強く、不満を募らせた若者が立ち上がった。

気候キャンプ

2021年初夏、筆者が住むカールスルーエの城址公園に、気候キャンプが開設された。これは、気候保護の必要性を社会に訴えかけるため、若者が始めた運動のひとつだ。2000年代半ば、イギリスのドラックス石炭火力発電所近くで行われたのが最初とされ、欧州各地に広がっていった。
色とりどりのテントが並ぶカールスルーエのキャンプを、大学生のオリバー(写真1)が案内してくれた。区画の広さはテニスコート1面ほど。日替わりで催しを開き、子供向けの園芸教室を開催するなど、積極的に外部と交流しながら、情報を発信する場になっていた。

公園の一角には、ドイツの最高司法機関である憲法裁判所が建っている。不測の事態が決して起きてはならないこの場所で、設置の許可が下りること自体が、ちょっとした驚きだ。
キャンプ設営には条件があり、夜間も含め、必ず誰かが留まっていなければならないそうだ。警官が頻繁に見回る場所なので、トラブルが起きる可能性は低いが、それでも宿泊は自己責任となる。
写真の黒板に書かれた数字は、キャンプの継続日数。この日が69日目で、最終的に125日間続いた。

参加者は多種多様

FFFの運動は、2018年8月に当時15歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリが、気候変動に対する行動の欠如に抗議するため、スウェーデン国会前に座り込みしたことをきっかけに始まった。彼女の行動は、世界の若者の共感を呼び、なかでもドイツの動きは活発だ。FFFと気候キャンプは、緩やかな横の繋がりを持っている。
今年の3月3日に全国各地で展開された催しの参加者は、主催者発表で計22万人。そのうちの一つ、シュトゥットガルトのデモと集会を取材した。

それまで筆者が持っていたイメージは、若者による、若者のための催し。確かに大学生や高校生が主催し、その姿も目立つが、中高年の方が断然多い。また、多様なグループが参加しており、社会を大きく巻き込んだムーブメントになっていることが分かる。
この状況を初めから予想していたのだろうか。ドイツ全体の広報を務めるスメジャ・ディズダレビッチがインタビューに答えてくれた。
「FFFは学校のストライキから始まりましたが、当初、大規模な抗議行動という意識はありませんでした。考えていたのは、自分たちのことと、将来の世代のこと。すべての世代がデモに参加してくれているのは、とてもうれしいことです」。
特筆すべきは、多くの科学者がFFFの活動に賛同し、理論的にサポートしていること。IPCC報告書に関わっているような科学者がサポートしている事実は、外部からの反論に対する盾にもなっている。

授業より大切なこと

活動手法がユニークであるがゆえ、批判にさらされることもある。若者がデモに参加することを良しとしない大人は少なくないし、学校の授業を休んで参加するというのだから、なおさらだ。
「若者は、通り(外)へ出なければなりません。自分の未来に関わることであり、行動を起こすエネルギーと時間があります。デモから沢山のことを学ぶことができますし、社会の注目を集めることにも成功しました」。
家族連れで来ていたトムさん(40代)に同じ質問をしたところ、「コロナで授業が少なくなりました。(いまさら)授業を休んでも大した違いはないでしょう」。ここだけ切り取ると投げやりに聞こえるが、彼が言わんとしたのは主体的な社会活動の大切さだ。
勉学第一の日本的感覚をひっくり返す価値観だが、何が人生の本質で、何を為すべきかという、問いかけなのだろう。ちなみに、最近のデモは授業が終わった午後の時間帯に開催されているそうだ。

大人の責任

スメジャはヨーロッパ民俗学を学ぶ22歳の学生だが、今はFFFの活動で忙しい。
筆者の目から見て、若者の社会運動に冷たく反応する大人は珍しくない。自らが維持する既存のシステムへの異議申し立てに、生理的な不安を感じるということか。
しかし、若者は大人世代の残した環境破壊のツケを背負っていかなければならない。自らの意思で立ち上がった彼らの行動を押さえつけるのは筋違いだ。逆にサポートするのが、大人にとっての最低限の責任というものではないだろうか。

著者プロフィール

松田 雅央 (まつだ まさひろ)

在独ジャーナリスト

1966年生まれ、在独27年
1997年から2001年までカールスルーエ大学水化学科研究生。その後、ドイツを拠点にしてヨーロッパの環境、まちづくり、交通、エネルギー、社会問題などの情報を日本へ発信。
主な著書に『環境先進国ドイツの今 ~緑とトラムの街カールスルーエから~』(学芸出版社)、『ドイツ・人が主役のまちづくり ~ボランティア大国を支える市民活動~』(学芸出版社)など。2010年よりカールスルーエ市観光局の専門視察アドバイザーを務める。