『日経研月報』特集より

農産物物流が直面する課題と改革

2022年4月号

矢野 裕児 (やの ゆうじ)

流通経済大学流通情報学部長 教授

全国の生産地から卸売市場を経由して、全国の消費地に供給されるのが、農産物流通のもっとも一般的なルートである。全国で生産される豊富な農産物を、年間を通して全国の消費者が安定的に手に入れることができる現在の状態は、卸売市場流通が機能していることによる。しかしながら現在、卸売市場流通を支える物流が、ドライバー不足等により危機的状況となっている。卸売市場流通は大きな転換期を迎えており、これを支える物流、ロジスティクスの改革が求められている。

1. 卸売市場流通の動向

全国の卸売市場の数は、政府の卸売市場再編の方針もあって、1998年度に中央卸売市場が87ヵ所、地方卸売市場が1,465ヵ所であったのが、2019年度にはそれぞれ64ヵ所、1,009ヵ所にまで減少している。さらに卸売市場を経由して取り扱われる青果(野菜、果実)の金額は、中央卸売市場は1998年度が2兆7,143億円であったのが、2008年度には1兆9,960億円にまで減少した。その後は微減傾向となっており、2019年度は1兆8,112億円である。
このように卸売市場の数、取扱金額は2000年代に大きく減少し、2010年代以降も縮小傾向にある。この動向に合わせて、卸売市場での青果取扱量も、1989年度が1,956万トンであったが、減少傾向が続き、2008年度には1,430万トン、さらに直近の2018年度は1,184万トンとなっている。卸売市場での青果取扱量が減ってきている理由として、青果全体の流通量が減っていること、さらに卸売市場経由率が下がっていることが挙げられる。青果の流通量が減るというのは、消費量が減るということを意味する。野菜でみた場合、1人・1年当たり消費量(供給純食料)は、1968年の124.3㎏をピークに減少傾向にあり、1968年に比べて2019年は27.6%減となっているが、特に若い人の野菜摂取量が少ない傾向があり、さらに野菜の摂取の仕方として、他のメニューに比べて野菜を多く使わないサラダによるものが多くなっていることも影響しているといわれている。
そして大きな問題となっているのが、卸売市場経由率の低下であり、卸売市場経由の流通が崩壊しつつあるという指摘さえある。野菜の卸売市場経由率は1985年度が88.0%であったが、2000年度には78.4%、2010年度には73.0%、2018年度にはさらに減って64.8%となっている。このように卸売市場経由率が大きく下がっているのは、直売所、小売業による産直といった市場外流通が増えているためという指摘がある。実際に大手小売業による産地からの直接仕入れの動向が伝えられ、増えている。ただし、その一方で産直だけでは、品ぞろえが限られてしまうということから、大手小売業は依然として卸売市場経由が主要なルートとなっている。また、道の駅等の直売所の伸長も顕著ではあるが、全体の取扱量からみれば限られている。このような市場外流通の取扱量は、全体からすれば現段階ではわずかであると推測される。さらに、消費者の外食、中食比率が高まり、加工・業務用向けの取扱量の増加傾向がみられること、輸入品割合が増加していること等により、市場外流通が増えていると考えられる。
一方、国産青果物の卸売市場経由率は、高い傾向にある。2002年度は93%であり、2000年代に入り減少傾向となり、2010年度は87.4%、2018年度には79.2%となっている。このように国産青果物については、減少傾向にはあるものの、依然として8割弱が卸売市場経由である。
卸売市場は農産物の安定供給という意味で、重要な役割を果たしてきたのであり、市場外流通だけでは、豊富な品ぞろえが確保できないということも考えると、今後も卸売市場が農産物流通において、主要な流通ルートであることは間違いない。その一方で、経由率が下がっているという現実を見据えて、卸売市場流通の改革が求められている。また、卸売市場法の見直しも行われ、2020年6月に施行された。従来、中央卸売市場が開設できるのは都道府県や人口20万人以上の市だけであったが、民間業者の開設も可能になった。さらに従来、第三者販売の原則禁止(卸売業者は、市場内の仲卸業者、売買参加者以外に卸売をしてはならない)、直荷引きの原則禁止(仲卸業者は、市場内の卸売業者以外から買い入れて販売してはならない)、商物一致の原則(卸売業者は、市場内にある生鮮食料品等以外の卸売をしてはならない)とされていたが、原則、廃止された。これらの見直しは、卸売市場流通を今後大きく変革することにもつながる。

2. 物流が直面する課題

近年、物流においては、ドライバー不足が深刻であり、物流危機といわれる状況が続いている。ドライバー不足の問題は、高度経済成長期、あるいはバブル期にも発生しているほか、2014年4月の消費税率引き上げに伴い、2013年後半から、貨物需要が急増し、物が運べないという事態が発生、運賃も高騰した。これらのドライバー不足問題の発生要因に共通するところは、景気拡大等による需要増加に対して、供給が間に合わないという需給バランスによるものである。しかしながら、近年顕在化しているドライバー不足は、従来のドライバー不足とは大きく違った構造となっている。すなわち需要増加というよりは、ドライバーがいないために対応できないという状態である。ドライバーの有効求人倍率をみると、2015年は1.72倍と全産業の1.11倍を上回っていたが、その後さらに上昇し2019年は2.82倍となっている。新型コロナウイルス感染拡大により、ネット通販関連の宅配貨物が急増する一方で、一般貨物の輸送については停滞がみられる。そのため、ドライバーの有効求人倍率は若干下がり、運賃も低下傾向がみられるが、今後、一般貨物の輸送量が回復すれば、ドライバー不足が再燃する可能性が高い。人手不足問題は、ドライバーだけではなくサービス業等さまざまな業種で顕在化している。ただし、他の業種の場合は、求人数が増える一方、求職者数が減少しているのに対して、ドライバーの場合、求人数は変化していないのにもかかわらず、求職者数が激減しているのである。さらに求職者の年齢構成も50代以上が67.4%と大半を占め、ドライバーになりたいという若い人がほとんどいないという状況である。そのためドライバーの高齢化も急速に進行している。
今後のドライバー数について、複数の機関が将来予測している。鉄道貨物協会によると、2028年度に必要なドライバー数は117.4万人なのに対し、供給可能なドライバー数は89.6万人であり、不足ドライバー数は27.8万人としている。日本ロジスティクスシステム協会によると、2015年のドライバー数は76.7万人なのに対して2030年には51.9万人にまで減少するとしている。同じ需要貨物量があるとすると、約3割の貨物が輸送できない。大型貨物車は特に深刻であり、鉄道貨物協会によると、2005年が46.4万人だったのが、2020年に31.7万人、2030年には25.9万人になるとしている。大型貨物車のドライバー数が足りないということは、特に中長距離輸送に与える影響が大きくなる。特に若い人にとって、ドライバー職は3K(「きつい」「きたない」「危険」)という職業であり、さらに他業種に比べて労働時間が2割長く、賃金が2割安いといわれている。時間当たり賃金は、2018年度において全産業が3,602円/時間なのに対して、物流従事者は2,025円/時間である。このように若い人にとって、トラックドライバーは魅力があまりない職業となっている。
また現在、自動車の運転業務の労働時間は、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」により規定されている。ドライバーの1日の拘束時間は13時間以内を基本とし、休息期間は継続8時間以上、1日の運転時間は平均で9時間が限度運転時間と定められている。しかしながら現状において、この規定を違反している場合も多くなっている。さらに、政府は「働き方改革」を進めるなかで、ドライバーの労働時間を大きく見直すことを決定している。労働基準法が改正され、2024年4月から時間外労働時間は年間960時間が上限となる。これは「2024年問題」ともいわれ、長距離輸送を中心として、大きな影響を与えると考えられる。

3. 農産物物流が抱える課題

農産物は、非常に多品種であり、かつ季節、天候等によって取扱量が大きく変動する。小ロットの輸送の場合が多く、出荷元である生産地が季節等によって移動していく等、平準化が難しく、計画的な物流が難しい。さらに、鮮度が求められ、迅速な輸送も要求される。特に長距離輸送において、今後運べなくなるという問題が発生する可能性が高い。東京都中央卸売市場が取り扱っている野菜の輸送距離は、500~1,000㎞が重量ベースで16.9%、1,000㎞以上が22.9%と、両者で4割弱を占めている。2021年度に厚生労働省が実施した長距離運行に従事する自動車運転者の1年間の拘束時間別の自動車運転者数の調査によると、全体では「3,300時間未満」が68.2%、「3,300時間以上~3,516時間以下」が24.8%、「3,516時間超~3,840時間以下」が5.8%となっている。それに対して、発荷主が農業・水産品出荷団体の場合、図1のように「3,300時間未満」が46.3%、「3,300時間以上~3,516時間以下」が35.8%、「3,516時間超~3,840時間以下」が10.5%、さらに「3,840時間超」が7.4%となっており、全体として拘束時間が非常に長いことが窺える。特に3,516時間超えが17.9%を占めており、現状の改善基準告示の規定を超えている。さらに、2024年4月からの労働基準法改正によって問題となる3,300時間超えが53.7%と、半数以上が時間外労働時間の上限規制を違反している状況となる。このことは、農産物の長距離輸送が困難になることを意味している。
さらに、ドライバーの1運行の拘束時間をみてみると、輸送品目別で、農水産品が12時間32分と最も長くなっている。その内訳は、点検・点呼等が28分、運転時間が6時間39分、荷待ち時間が39分(荷主都合が30分、ドライバーの自主的な行動が4分、その他の時間調整等が5分)、荷役時間が3時間2分、その他付帯作業等が13分、休憩時間が1時間21分となっている。他の品目に比べて、運転時間、荷役時間が長くなっている。荷待ち時間についてみると、国土交通省が2017年7月から義務付けた荷待ち時間等の記録を基に実施したサンプル調査によると、荷主の都合で30分以上の荷待ちが発生した件数を品目別にみた場合、加工食品、建築・建設用金属製品、紙・パルプ、飲料・酒に次いで、生鮮食品が多くなっている。卸売市場等において、車両が集中し、荷役をするための車両が長く待たされることが多いのが原因である。さらに青果物・米は、日用品・雑貨に次いで、手荷役作業が多い品目となっている。
このように、農産物物流は、拘束時間が長く、荷待ち時間が長く、さらに手積み手卸しの場合が多く、ドライバーからみると最も敬遠されるものとなっている。農産物物流はドライバー不足の深刻化等の影響を特に受けやすい特徴があり、このことが単に物流の問題というだけでなく、農産物流通の構造そのものを変えていく可能性が高い。

4. 農産物のロジスティクス改革に向けて

商取引が卸売市場で行われるということは、同時に物、そして情報が集中することを意味する。従来は、荷主企業あるいは生産地側からみれば、トラックはいつでも確保できるのが当たり前であった。必要な時に、必要なものを、安く輸送できるということが続いてきたが、これが難しくなっている。農産物流通において、物流がボトルネックとなりつつあり、卸売市場が円滑に機能しなくなることも予想される。また、従来のように運ぶことができないという問題は、全国から首都圏等の大消費地に向けての輸送の問題としてのみ認識されることが多い。東京都中央卸売市場は、輸送距離500㎞以上が4割弱を占めており、影響が大きいことは事実である。一方で、地方部の卸売市場においては、生産地が近くにあるという条件の場合が多いことから、短距離輸送で農産物を確保できると思われがちである。しかしながら地方部の中央卸売市場においても、1,000㎞以上が大都市の市場では3割以上、県庁所在都市の市場においても2割程度となっており、長距離輸送が難しくなることは、日本の卸売市場全体に多大な影響をもたらすのであり、取扱量が少ない地方部の卸売市場の方が、より深刻になる可能性が高い。
このような状況のなか、物流の問題を解決していくためには、単にトラック輸送を改革すれば良いというわけでなく、ロジスティクス全体として改革をしていかなければならない。その改革の視点として、大きくは以下の3点がある。

① 商物分離の推進

従来、卸売市場は商物一致の原則によって、卸売市場が取り扱う農産物は、卸売市場に実物が搬入されるのが一般的であった。そのため、特に大都市の拠点市場においては、多くの車両が集中、輻輳し、限られたスペースのなかで、混乱する状況が発生している。前述したように、卸売市場法改正によって、商物分離が認められるようになった。これによって取引上は、卸売市場が取り扱っても、生産地から卸売市場を経由せず届け先へ直接輸送するといったことも可能となる。商物が分かれて流れるということは、他の消費財においては、物流の効率化という視点から一般的に行われていることである。商物分離は、トラック1台を貸し切って行う貸切輸送の場合は、容易に可能である。しかしながらこの場合、出発地、目的地が同じ貨物だけでトラック1台分の貨物量を確保することが必要であり、このような大ロットの輸送は、限定的にならざるを得ない。そのため、積載量を上げるためには混載を進めていく必要がある。

② ネットワークの再構築

全国の生産地、卸売市場、小売間を結び付け、新鮮な野菜を安定的に供給するためには、短距離、中距離、長距離を組み合わせ、リンク(輸送経路)とノード(結節点)で構成されるネットワーク全体の再構築が必要となっている。しかしながらこれまでは、生産地と卸売市場を結び付けるリンクのトラックをいかに確保するかといった議論だけであった。しかしながら今後は、商物分離という視点から生産地と小売を直接結び付けるリンクを組み合わせる、さらにリンクだけでなくノードを介することにより、中長距離輸送について、混載等により農産物を束ねて、積載量を大きくする仕組みの構築が重要である。そのためには生産地側も単位農協ごとに出荷するのではなく、選果場等も含めて複数地域の農産物を集約する、あるいは地方部の卸売市場について、地方の農産物を集約するノードとして機能させることを考える必要がある。同時に、消費地側でも、混載等により束ねられてきた農産物を、複数の卸売市場あるいは小売物流センター向けに仕分けるノードを整備する必要がある。例えば首都圏のノードは、圏央道沿い等の外周部に立地させ、中心部への貨物車流入を減らすことによって、ドライバーの拘束時間を短縮させると同時に、交通混雑を避け、計画的な輸送を可能にすることにもつながる。長距離輸送については、鉄道、船舶へのモーダルシフトを積極的に展開すべきである。輸送日数が、トラック輸送より長くなる場合があるが、温度管理を徹底することによって、解決すると考えられる。以上をまとめると図2のようになる。さらに中距離輸送において、日帰り運行が難しい場合は、今後ドライバー確保が困難になる可能性が高い。その解決策として、中継輸送の導入も検討すべきである。
一方で、短距離の地産地消型に対応したきめ細かなネットワーク構築も欠かせない。地域に密着した新しい短距離輸送サービス、例えば、鉄道、バスを利用した貨客混載、「やさいバス」等が生まれてきている。これらのサービスに共通していることは、卸売市場経由ではない、生産と消費が直接結び付いたものであることである。卸売市場向けの短距離輸送については、輸送手段が確保しやすく、かつ商品価格に対する物流コスト比率も比較的低いことから、これまではあまり問題とされてこなかった。そのため、各生産地が個別に輸送することが多かった。今後、需要に合わせた小口多頻度輸送がますます求められるなか、地域での混載、貨客混載等を進めることが重要である。また、生産地側が卸売市場に輸送するのではなく、卸売市場側主導の巡回集荷型のミルクラン方式の導入も考えられる。

③ パレット化、標準化の推進

農産物物流において、ドライバーが確保しにくい理由の1つとして、手荷役が多いということが挙げられる。10トン車等では、手積み、手卸しをした場合、作業にそれぞれ2時間程度かかり、大きな負担となる。解決策として、パレット化の推進が欠かせないが、パレット、さらに段ボール箱のサイズが標準化されていないという問題がある。また、各生産地では、保管用に独自のパレットを利用していることが多く、一貫したパレチゼーション(貨物をパレットに積付けしたままで輸送機関に積込み、輸送、及び荷降ろしを行う方法)を目指すべきであるが、難しいという問題がある。さらに、パレットを導入しても卸売市場での回収率が悪く、パレット・プール・システムの仕組みがうまく機能しないことも多い。このように課題も多いが、パレット化、標準化の推進は、積み替えを容易にし、混載を進めるうえでも重要であり、物流改革において欠かせない。
全国で生産されたさまざまな農産物を、全国どこででも、比較的安価に手に入れることができるためには、卸売市場流通にかかわる物流システムの見直しが欠かせない。そのためには、卸売市場の物流機能の強化だけでなく、ノード(結節点)を絡めたネットワークの再構築が必要である。農産物のサプライチェーンを今後どのように展開するか、国全体での早急な議論が必要となっているのである。

参考文献

厚生労働省(2022)「トラック運転者の労働時間等に係る実態調査事業報告書」
国土交通省(2017)「トラック輸送状況の実態調査結果」
国土交通省(2019)「荷待ち時間調査の結果について」
鉄道貨物協会(2019)「トラックドライバー不足の中期的見通しと対応策の検討と提案」
日本物流団体連合会「手荷役の実態アンケート調査」2017年
日本ロジスティクスシステム協会(2020)「ロジスティクスコンセプト2030」
農林水産省「卸売市場データ集」
農林水産省「食料需給表」
洪京和(2022)「農産物物流における中長距離輸送の現状と課題」物流問題研究No.72

著者プロフィール

矢野 裕児 (やの ゆうじ)

流通経済大学流通情報学部長 教授

工学博士。日通総合研究所、富士総合研究所を経て、1996年より流通経済大学。専門は物流、ロジスティクス。国土交通省、経済産業省等各種委員会委員を歴任。共著書『物流論』『現代ロジスティクス論』『現代流通変容の諸相』『現代リスク社会と3・11複合災害の経済分析』等。