DBJスタートアップアクセラレーションアワード2024のご報告
2025年6-7月号(Web掲載のみ)
1. はじめに
株式会社日本政策投資銀行(以下、DBJ)は、2011年に女性起業サポートセンター(現 スタートアップサポートセンター。以下、センター)を立ち上げ、女性経営者を対象としたビジネスプランコンペティション(以下、女性ビジネスコンペ)を2022年までに9回開催してきました。
この度、女性ビジネスコンペを刷新し、募集対象に性別の制限を設けずスタートアップ全般に拡大し、スケールアップを見据えてメンター機能を提供する「アクセラレーター」による支援を事後支援メニューに設けた「DBJスタートアップアクセラレーションアワード2024」(以下、アワード)を開催しました。(当アワード開催に至るまでの経緯や背景等の詳細は、『日経研月報 2024年10-11月号』をご覧ください。)
当アワードは2024年6月の告知以降、募集、審査を進め、2025年3月10日に審査結果発表・表彰式(以下、表彰式)を開催しましたので、本稿では表彰式の様子を中心にご報告します。
なお、一般財団法人日本経済研究所(以下、JERI)は、2017年に女性起業サポートセンター(現 スタートアップサポートチーム)を創設し、女性ビジネスコンペの運営事務局として、募集・審査・式典企画運営などの業務を担当してまいりました。当アワードについても、同チームは引き続き当センターと連携し運営業務を担っております。
2. 概 要
女性ビジネスコンペを刷新した当アワードでは、性別の制限を設けず、スタートアップを幅広く募集しました。
審査基準としては、①革新性、②経済・社会へのインパクト、③実現可能性、④ビジネスとしての成長性という4点を設け、業種は問わず、新しい技術やノウハウを活用し、日本または世界に経済的・社会的インパクトを与え、今後の発展を期待できるビジネスを高く評価することとしました。
受賞者としては、最優秀賞1社、優秀賞1社に加え、応募企業の中で特定の審査基準に優れた企業があった場合に特別賞を設けることとしました。後述のように、今回は社会的インパクトに優れたスタートアップとして、特別賞1社を選定しました(表1)。
受賞者には、DBJから事業奨励金を提供するほか、最優秀賞受賞者には、事後支援としてソニーグループ様が提供する、スタートアップ支援のための伴走支援サービスを1年間受ける権利を付与します。また、ファイナリスト全社に対して、DBJグループが持つネットワークを活かした協働先・提携先の紹介やPR機会の提供などを通じて、スタートアップの成長をサポートします。
関係機関にも周知にご協力いただいたおかげで、業種、エリアなど多岐に亘る238件の応募が寄せられ、前身の第9回女性ビジネスコンペの応募数を上回りました。
当アワードのスケジュールは次の通りです(表2)。
約2か月間の募集期間の後、1次審査(書面審査)を行い、2次審査の対象として20社を選定しました。2次審査では、当センター職員を中心とした事務局メンバーが20社に往訪・面談し、経営者のプレゼンテーション・質疑応答に加えて、事業の現場を拝見したうえで厳正な協議を重ね、8社のファイナリストを選定しました。
最終審査会は、外部の有識者で構成された審査委員4名(表3)に対して、ファイナリストの経営者からそれぞれ10分間プレゼンテーションをいただいた後、20分間の質疑応答を実施しました。質疑応答では審査委員からファイナリストに対して、多くの質問と指摘に加えて、多角的な視点からのアドバイスも寄せられました。
3. 表彰式
今回は、ファイナリスト、審査委員、DBJ役職員などの関係者に加えて、起業支援機関、ベンチャーキャピタリスト、金融機関、事業会社の新規事業担当者などスタートアップの取組みに関心の高い方々にもお集まりいただきました。
当日は来賓の玉塚元一氏(株式会社ロッテホールディングス代表取締役CEO)のご挨拶、ファイナリストのプレゼンテーション、審査結果発表、受賞者スピーチ、審査委員長講評という流れで進みました。
(1)ファイナリストのプレゼンテーション
表彰式当日の発表順に、ファイナリスト8社のビジネスプラン並びに審査委員から寄せられた評価および今後の期待をご紹介します。ファイナリストのプレゼンテーション動画は、当センターのサイトに掲載していますので、ぜひご覧ください。
(https://ssc.jeri.or.jp/award2024_finalist/)
①エゾウィン株式会社(大野宏 CEO)
農業用車両(トラクターなど)の電源に挿すだけで正確な位置情報をリアルタイムで提供可能なGPSロガー(レポサク)というプロダクトを開発されています。農作業の効率化を目指すとともに将来的には農場の自動化まで進めたいというスケールの大きさが評価され、北海道の農業を変革したいという思いが感じられました。
今後は、狭量な土地が多い道外に対して、他社に比べて高性能なGPSを活かした形での展開や、農業以外の横展開を目指し、独自性を磨き上げた広い事業展開が期待されます。
②SACMOTs(村上真哉 代表)
歴史ある九州大学作物学研究室と連携し、環境ストレス耐性を強化するエピゲノム技術と、農薬等を植物に取り込まれやすくする微粒子加工技術という独自開発の技術をビジネスにつなげる大学発スタートアップとして、新しい農業生産システムを生み出す取組みが評価されました。
研究開発要素が強い中で、今後は事業性の確立という難題に挑んでいかれるとのことですが、収益化に成功すればインパクトが大きいので、持続可能な農業生産という人類の大きな課題へのチャレンジが期待されます。
③SPACECOOL株式会社(末光真大 代表取締役CEO)
放射冷却現象に着目した、ゼロエネルギーで外気温より冷却可能な放射冷却フィルムを開発するクライメートテックで、類似商品に対して優位性の高い革新的な技術を、しっかりとビジネスモデルに落とし込めている点が高く評価されました。
今後は、本格的なグローバルでの事業展開に加えて、昼夜の熱膨張率の差を低減できるような効果が証明できれば、さまざまな場所への展開も考えられます。例えば宇宙空間で活用すると建築材が熱膨張の影響を受けにくくなるなど、地域・事業分野ともに拡大していくことが期待されます。
④ファーメランタ株式会社(柊崎庄吾 代表取締役CEO)
石川県立大学の研究成果をベースにした合成生物学のディープテックで、化学合成法による生産が困難で、収量が不安定な農業生産に依存せざるを得ない天然由来成分(医薬品原料等)を微生物により発酵・生産させるという、非常に高度な技術を開発されている点が評価されました。
今後は、技術レベルの高さと量産化の両立という難しい課題をクリアするハードルがありますが、非常に高度な技術があるので、経営面を支える社長と技術開発に長けた大学の先生方の強力なタッグで、ぜひスケールアップに成功して世界にインパクトを与えることが期待されます。
⑤株式会社コクリエ(髙﨑陽子 代表者)
自治体が悩む土木技術者不足という社会課題を解決すべく、全国の橋梁の80%を占める小規模橋梁に特化した点検業務支援アプリを開発中です。ともすれば「行政の問題」と認識されてしまう深刻な社会課題に対し、ビジネスでチャレンジする意欲が評価されました。
今後は、自治体と土木のステークホルダーをつなぐプラットフォームである「土木せんせい」に参加する建設コンサルタントに対するインセンティブ提供や土木事務所との協力体制の構築などビジネスとしての熟度を高めていくことが期待されます。
⑥株式会社Halu(松本友理 代表取締役)
「インクルーシブデザインで多様性を価値に変え、分断のない世界をつくる。」をビジョンに掲げ、子どもを持つすべての家族の多彩な外出機会を創出するためのプロダクト(IKOU(イコウ)ポータブルチェア等)を提供されています。社会的な意義が非常に高い領域に対して、補助金に依拠せずビジネスとして成り立たせるように野心的にチャレンジしている松本代表の心意気が評価されました。
今後は自社の強みを活かした商品ラインナップの拡充など、多様なニーズに訴え、市場に更なるインパクトを与えていくことが期待されます。
⑦株式会社AYUMI BIONICS(田脇裕太 代表取締役)
スマホで手軽に中高年従業員の心身能力を簡易に測定し、従事中/予定の職種の体力基準に適合しているか評価できる心身機能測定システムを開発されています。転倒労災リスク予測や最適配置にデータを活用できることは、高齢化が加速する日本社会の中で意義が非常に高い点を評価されました。
今後はデータ活用を更に進化させ、他社との比較優位性を確立して、高齢化社会における人材活用という社会課題の解決に取り組むことが期待されます。
⑧株式会社KAMAMESHI(小林俊 代表取締役社長)
設備部品の予備品調達に課題を有する中小製造企業間で部品を融通し合う仕組みを展開されていることに加え、既設品の現物調査や社内在庫管理システムの構築も手掛け、一気通貫での中小企業のサポートを目指すという心意気が評価されました。
今後は、プラットフォームとして「つなげる」機能をより充実させていくとともに、中小製造業に対するコンサルティング業務も強化していくことで、日本のものづくりを根底から支える存在としてのスケールアップが期待されます。
(2)審査結果発表・講評
審査結果が発表され、以下のファイナリストが受賞されました。なお、今回は社会的インパクトに優れたスタートアップとして、特別賞に株式会社Halu様を選定しました。
〈最優秀賞〉株式会社KAMAMESHI
小林代表取締役社長のスピーチ(要旨)
「製造業の中小企業は多くの課題を抱えていますが、今後の製造業の勝ち筋をつくるためには多様な中小企業の技術が必要と確信しているので、まずは守りの部分で中小企業を支えつつ、将来に亘っては世界に日本の技術力を展開できるインフラに成長するまでの展望を描き、しっかりと事業を進めていきます。」
〈優秀賞〉SPACECOOL株式会社
末光代表取締役CEOのスピーチ(要旨)
「放射冷却素材が広まるほど地球温暖化の抑制、カーボンニュートラルにつながると信じております。ディープテック、カーボンニュートラル、カーブアウト型のスタートアップという今後の日本のイノベーションを支えるキーワードを持った企業ですので、今後も皆さんのご支援賜りながらしっかり成長してまいります。」
〈特別賞〉株式会社Halu
松本代表取締役のスピーチ(要旨)
「社会的なインパクトを評価いただいたことに感謝いたします。私たちが目指しているインクルーシブデザインの社会実装によって、マイノリティの課題解決と社会における新たな価値の創出を両立していくアプローチが評価されたものと受け止めています。今後は社会課題解決とビジネスとしてのスケーラビリティの両立に邁進してまいります。」
最後に、水越豊審査委員長からファイナリストのビジネスプランの評価について、1社ずつ詳細なご説明がありました。全体を通じては、全てのビジネスプランが日本の社会課題の解決策を模索するものであり、スケールアップによって世界にも経済的・社会的なインパクトを与えられるような、まさに今回のアワードの趣旨にかなったファイナリストが集まったことと、各社に対して今後の発展が期待されるとの講評があり、閉会を迎えました。
表彰式の後には名刺交換会を開催し、ファイナリストと来場者との間で活発な交流が行われました。
4. 今後の活動
当アワードを振り返りますと、業種、性別、地域を問わず多くの意欲溢れるスタートアップに応募いただきました。
今回、最優秀賞を受賞された株式会社KAMAMESHI様には、DBJから提供する事業奨励金に加え、1年間に亘ってソニーグループ様の提供する伴走支援も受けていただきます。また、KAMAMESHI様はじめファイナリストの皆様には、DBJグループが持つネットワークを活かした協働先・提携先の紹介やPR機会を提供いたします。
このように当センターでは、JERIや関係者の方々と連携し、スタートアップが直面する、シーズの事業化やスケールアップに焦点を当てた事後支援の取り組みにより、日本そして世界の課題解決に取り組むスタートアップを支えてまいります。
今後も当センターの業務に関し、一層のご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い申し上げます。