PPP/PFIにおけるEBPM第2回 ~PFIの効果~

2023年6-7月号

鳥生 真紗子 (とりう まさこ)

株式会社日本経済研究所公共デザイン本部PPP推進部 主任研究員

藤井 隆行 (ふじい たかゆき)

株式会社日本経済研究所公共デザイン本部PPP推進部 副主任研究員

筆者らは前稿において、PPP/PFIの効果に関する「論理」と「根拠」は必ずしも明らかではないということを論じた(注1)。本稿では、前稿の調査結果を踏まえ、まず「PFI事業の効果」は「公共事業自体の効果」と「PFI手法の効果」に分かれることを示したうえで、PFI手法の特徴と、当該特徴により導かれる「PFI手法の効果」を整理する。
そして、PFI事業の評価の構成について見解を述べ、最後に「PFI手法の効果」を検証するための新たな方法の可能性を示す。

1. 「PFI事業の効果」と「PFI手法の効果」

「PFIの効果」という言葉は、「PFI事業の効果」を意味する場合と「PFI手法の効果」を意味する場合があると考えられる。「PFI事業の効果」は、「公共事業自体の効果」と「PFI手法の効果」によって構成される。このうち「公共事業自体の効果」は、手法の如何を問わず施設の設置・運営・移転・複合化等によって生じる効果である。「PFI手法の効果」は、PFI手法を採用したことによって生じる効果である。「PFI手法の効果」はさらに、公的財政負担の縮減とそれ以外の多様な効果に分かれる。多様な効果は、公共サービス水準の向上、経済的価値及び社会的価値に分類される(図1)(注2)。

たとえば、もともと空き地であったところに市民文化拠点施設が新たにPFI手法により整備及び管理運営される場合、これまで当地でゼロだった利用者数がプラスになることは「公共事業自体の効果」である。一方で、PFI事業者の創意工夫により整備費・運営費等の財政負担が縮減し、また市民文化拠点施設の運営に関する公共サービス水準が向上することは「PFI手法の効果」である(注3)。
「PFI手法の効果」を明らかにするためには、効果を生み出す要因となるPFI手法がどのような特徴を有しているかを明らかにする必要がある(注4)。
PFI手法は、しばしば挙げられる性能発注、包括発注、長期契約、リスク分担、民間資金調達等のほか、表1に記載した特徴を有する。個別のPFI事業がこれらの特徴すべてを備えているわけではない。他方で、指定管理者制度等の他のPPP手法や従来方式(注5)の場合であっても、同様の特徴が取り入れられることがある。

これまで、「PFI手法の効果」として、表2及び表3に示す内容がしばしば挙げられてきた。効果の発生の要因となるPFI手法の特徴(たとえば性能発注、包括発注等)によって生み出される公的財政負担の縮減や公共サービス水準の向上等が、「PFI手法の効果」である。EBPMの本質を、政策等の「論理」と「根拠」を丁寧に検討することであるとすると、「PFI手法の効果」は、主に「論理」を中心として説明されてきたといえる。
「PFI手法の効果」を判断するための指標として、PFI手法にしたことにより関連する業務について減少させることができた行政職員の工数や、附帯事業として整備した民間収益施設の利用者数等が考えられる。しかし、PFI手法の多様な効果に関する表3で挙げた指標の多くは、「PFI手法の効果」ではなく「PFI事業の効果」に関する指標となることが多いと考えられる。たとえば、施設の利用者数という指標は、「PFI手法の効果」ではなく「PFI事業の効果」の指標にとどまる場合がある。これまでゼロだった利用者数が10万人になったとしても、そのうち何万人が「PFI手法の効果」によるものであるかを明らかにするのは容易ではないからである。
もっとも、「PFI事業の効果」として把握される指標が、必ずしも「PFI手法の効果」にとって無意味であるわけではない。事業者がPFI手法の特徴を生かした取組みを行い、その取組みが「PFI事業の効果」に貢献している可能性が高いと考えられる場合、「PFI手法の効果」があったと評価することは可能であろう。たとえば、包括発注の特徴を活かして事業者が魅力的なサービスを提供したことが10万人の利用者数の達成に貢献した可能性が高い場合に、「PFI手法の効果」があったと評価する場合が考えられる。

2. PFI事業の評価の構成(注6)

事業の開始前(事前評価段階)において、「公共事業自体の効果」は、「目指すべき姿」等の形で基本構想または基本計画で示される。「PFI手法の効果」は、民間活力導入可能性調査・特定事業の選定等で示される。これに対して、事業の開始後(事後評価段階)において、「PFI事業の効果」あるいは「PFI手法の効果」は、PFI事業の中間評価または事後評価の中で明らかにされる。
たとえば、市民文化拠点施設の整備・維持管理・運営を行う事業が行われる場合を想定する。事前評価段階で、基本構想における目指すべき姿が①地域の文化活動拠点、②市民が集う広場、とされる場合、これらが実現されることが「公共事業自体の効果」である。財政負担の縮減等は「PFI手法の効果」である。市民文化拠点施設の公共サービス水準が向上する点は、「公共事業自体の効果」と「PFI手法の効果」が重なり合う(図2)。

PFI事業の事後評価を適切に行うためには、事業者の募集・選定までの段階において、期待する「PFI手法の効果」を具体化し、モニタリングで把握すべきKPIや取組内容の考え方を整理しておくことが望ましい(図3)。さらに、今後のPPP/PFI事業の推進という観点では、個別のPFI事業の事後評価に関する情報は広く開示されることが望ましい。

3. 「PFI手法の効果」を明らかにするための新たな方法の可能性

「PFI手法の効果」については、これまで述べたように、「論理」を中心とした説明が行われてきた。ある事業をPFI手法で実施した場合、PFI手法ではない手法で実施した場合の実績を想定することは容易ではないからである。しかし、「論理」を中心とした説明のみならず、適切な「根拠」をもって「PFI手法の効果」を説明することができれば、PPP/PFIを推進する方針がより説得力を持ちうることになる。この「根拠」を提示することができるかが、筆者らの今後の検討課題である。
以下では、「PFI手法の効果」の「根拠」を検証する方法として、現時点でのアイデアを少し記述する。
筆者らは、「PFI手法の効果」の「根拠」を検証する方法には二通りの方向性があると考えている。まず一つは、PFI手法を導入する自治体を対象に、当該自治体がPFIを導入したことの効果を検証するという方向性である。もう一つは、PFI手法を導入した事業(施設)を対象に、当該事業(施設)にPFI手法を導入したことの効果を検証するという方向性である。
用いられる因果推論の方法としては、差分の差分法(注7)や合成コントロール法(注8)等が想定されるが、いずれの場合においてもいくつかの課題点が残るものと考えている。
まず、自治体を対象とする場合には、処置群の想定として、特定分野においてPFI手法を導入している自治体とするか、幅広い分野においてPFI手法を積極的に導入している自治体とするか等が考えられるが、前者の場合であれば、対照群(注9)の選定において課題があるものと想定される。処置群を「特定分野」においてPFI手法を導入している自治体に限定するがゆえに、対照群は、特定分野においてPFI手法を導入して「いない」自治体となるが、そういった自治体がどの程度存在し、またそれらが対照群として取扱い可能かどうかということも検証が必要であり、結果としてPFIの効果検証において十分な対照群が得られるかどうかという点に課題があるように思われる。後者の場合には、対照群としてPFI手法を導入していない自治体を選択することが考えられるが、PFI手法導入が推進され、多くの自治体においてPFI手法が導入されている実態を踏まえれば、処置群とすべき自治体の選定においても課題があると想定される。
次に事業(施設)を対象とする場合には、処置群の選択に課題が残るものと考えられる。たとえば、上述のように差分の差分法や合成コントロール法等の適用を想定した場合、処置群においてPFI手法導入前後のデータを入手できることが望ましいと考えられるが、これまでの多くのPFI事業は新規事業が多く、PFI手法導入前の状態というものがそもそも存在しない。そのため、処置群となりうる事業(施設)は、いくつか種類のあるPFI手法の中でも、コンセッション方式(注10)やRO方式(注11)等を採用したブラウンフィールドの事業に限定される可能性がある。
今後はこうした課題の整理とともに、具体的なケースを想定した「PFI手法の効果」の検証が進んでいくことを期待したい。

※アイキャッチ画像に使用している写真は、PFI事業で整備・運営されている横浜市の「戸塚区民文化センターさくらプラザ」のホール。利用者からの評価も高い。

(注1)鳥生真紗子・藤井隆行「PPP/PFIにおけるEBPM」『日経研月報』527号、2022年
(注2)内閣府民間資金等活用事業推進室(「PPP/PFI事業の多様な効果に関する事例集」、令和5年4月)
(注3)これに加えて、PFIの事後評価の場面では、「PFIの効果」といわれるものの中に、「外部要因による効果」が紛れている場合がありうる。たとえば、ある年度から市民文化拠点施設の利用者が急増した理由が、施設の周辺に高層マンションが建設されたことである場合である。
(注4)PFI法にはPFI手法の実体的な要件は定められていないため、「PFI手法の特徴」を法令の文言解釈によって明らかにすることはできない。
(注5)いわゆる直営または直営に請負もしくは業務委託を組み合わせた手法として理解される。
(注6)公共事業自体の評価に関する手法については、ここでは割愛する。
(注7)処置群と対照群において平行トレンドの仮定と共通ショックの仮定が成立していることを前提に、処置前後における処置群と対照群のデータの差を用いて効果を分析する手法。
(注8)処置前のデータを用いた重みづけにより合成した対照群と処置群を比較することで効果を分析する手法。
(注9)処置を受けていない群のことであり、本稿では、特定分野においてPFI手法等を導入していない自治体等が想定される。
(注10)PFI手法のうち、利用料金の徴収を行う公共施設を対象に、当該公共施設の所有権は公共主体が所有したまま、その運営権を民間事業者に設定する方式のこと。
(注11)PFI手法のうち、施設の改修・修繕、維持管理、運営を一括して事業者が実施する方式のこと。

著者プロフィール

鳥生 真紗子 (とりう まさこ)

株式会社日本経済研究所公共デザイン本部PPP推進部 主任研究員

東京大学文学部行動文化学科社会学専修課程卒業、東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了後、株式会社日本経済研究所入社。2017年より現職。

藤井 隆行 (ふじい たかゆき)

株式会社日本経済研究所公共デザイン本部PPP推進部 副主任研究員

2014年、京都大学経営管理大学院卒業後、株式会社みずほ銀行入行。同行プロジェクトファイナンス営業部を経て、2017年株式会社日本経済研究所入社。2019年より現職