Well-beingの現在と未来

2023年1-2月号

前野 隆司 (まえの たかし)

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授/ウェルビーイングリサーチセンター長

(本稿は2022年10月17日に東京で開催された講演会(オンラインWebセミナー)の要旨を事務局にて取りまとめたものである。)
1. はじめに
2. 世界人口の超長期推移
3. 経済成長から心の成長へ
4. 幸福学とは
5. Well-beingのための4つの方法

1. はじめに

最初に、HappyとHappinessとWell-beingの違いについてご説明します。
Happyというのは「感情の幸せ」を表す言葉です。楽しい、うれしい、またはニコニコしているような心の状態です。例えば、“美味しいお昼ご飯を食べて幸せな気分だね”といったような時を、Happyと表現します。つまりHappyは、数分間、数時間の心の状態を表します。これに対してHappinessは、数十年という相当長い人生の幸せを表すときに使います。例えば、“私の人生は辛いことも苦しいこともあったけれど幸せな人生だったな”としみじみする時、Happinessを感じていると表現します。このようにHappyとHappinessでは、心がそのように感じる対象としてのタイムスパンが異なります。
一方でWell-beingは、欧米人にとっては非常にわかりやすい言葉です。Wellは「よい」という意味でBeingはその状態を表すため、「よい状態」ということです。この言葉は、1946年WHO(世界保健機構)が定めた憲法草案の健康の定義として登場しました。「健康とは、身体的にも精神的にも社会的にも良好な状態であり、単に病気や虚弱でないということではない」とされていて、この「良好な状態」がWell-beingの和訳です。最近では「満ちたりた状態」と訳されることも多いようです。身体的に良好な状態が狭義の健康であり、精神的に良好な状態が幸せであり、社会的に良好な状態をつくるのは福祉ですから、Well-beingとは、健康、幸せ・幸福、福祉の3つを包み込む概念なのです(図1)。ちなみに、SDGsの目標3は「Good-health and Well-being(すべての人に健康と福祉を)」であり、幸せとは訳されていません。

Well-beingの研究では、理念や夢があることは幸福度と関係するという結果が出ています。例えば、会社の理念を理解している人は幸福度が高いということになります。働くうえでチャレンジ精神を持つこと、エンゲージメント(深い関わり合いや関係性)を高めて仕事に没頭することがWell-beingといえます。さらに、先述の通り、HappyとWell-beingでは言葉の広さが違うため、ただ単にHappyな状態でニコニコして働くだけではなく、会社の理念を理解し、歯を食いしばって一生懸命に働くことも、Well-beingなのです。
幸せの研究は、哲学、医学、工学、心理学、あらゆる分野を繋ぐ学問であり、予防医学の学問でもあります。この中では、身体の医学が最初に発展し、その後、心の医学、いわゆる精神医学や臨床心理学が発展しました。「胃が痛くなる前にストレスを受けないようにすれば胃が痛くなりにくい」という観点で生活習慣を心がけ、健康に気を付けようという予防医学は、その次に発展した学問です(図2)。幸福学というのは心の予防医学でありながら、遅れている学問です。体が悪い状態になった人は外科的、内科的に治療し、心が悪い状態になった人は精神医学で救いますが、予防医学は緊急度が低かったこともあり、一番遅れて発展しました。

このように幸福学は比較的に新しい学問ですが、エビデンスはたくさん出てきています。Well-being はエビデンスに基づく倫理学でもあるのです(図3)。幸せに働くと、創造性が持つことができ、生産性が高まり、健康長寿になるということがわかっています。これからは、心の予防医学としての幸福学を研究すべき時代だと考えます。予防倫理(Preventive Ethics)とは、不正、ワイロ、改ざん、捏造、隠蔽等をしないようにする、つまり悪いことを予防する倫理学です。逆に、誠実さ、利他性、貢献、責任のある行動、高い志を持とうという、志向倫理(Aspirational Ethics)がありますが、科学(evidence-based)の観点からみると、予防倫理より志向倫理のほうが不正を起こしにくいことが分かっています。I ll-Being(I llとは悪いの意)の人は、心の状態が悪く不幸せであり、Well-beingの人は、人格者で器が大きく悪いこともせず、病気にもなりにくいのです。「我々は幸せに生きるべきである」という文言は、幸福追求権として憲法に記載されています。我々は良い状態で生きる権利を持っているのですから、Well-beingを目指すべきです。

2. 世界人口の超長期推移

人類が誕生して以降、世界における人口増の波は大きく3回ありました。両対数グラフで見ると、1万、1000万、100億と等比級数であり、近年で一気に増えているように見えますが、人口増の波としては3回あることがわかります(図4)。

京都大学 広井良典教授の「人口減少社会」のグラフを見ると、世界の人口が最初に増えて止まったのは、狩猟採集社会の時代です。旧石器時代ですから、斧を作り、火を起こすといった生活の営みが脈々と受け継がれていきました。しかし、増えていた人口は止まります。食料と個体数が均衡したからです。
次の人口増加は農耕革命によって起きます。人類は、食物を自分たちで育てればたくさん収穫できることに気が付いたのです。地球の温暖化に伴い、単位面積当りの収穫量が増えて、住める人の数が増えていきました。農業の発展により、斧を作る人、農業をする人、米を売る人等といった役割に応じた分業が始まります。この分業の仕組みが、その後、工業、農業、商業へと分化していきます。また、医者、祈祷師、神職等といった職業も誕生しました。そして、蓄えられた食糧によって貧富格差が生まれ、支配階級ができ、人口は再び定常化します。
しかし、産業革命、動力革命で再び人口が増えます。トラクターで農地を広く開拓し、そこで収穫された食物は各地に輸送され、大都会で農業をせずとも生活できるようになりました。産業化(工業化)社会は、第一次産業人口が減少し、第二次産業、第三次産業人口が増加する時代でもあります。

3. 経済成長から心の成長へ

では、幸福学の観点からみると、人が幸せに生きられるのは、狩猟採集社会の縄文時代、次に農耕社会の弥生時代、そして現代のどの時代なのでしょうか。縄文人の平均寿命は、乳幼児の死亡率が高かったため15歳だったという話もあります。この時代と、約80年を生きることが平均の現代とを比べると、長生きすることが幸せだとすれば、現代のほうが幸せなのかもしれません。一方で、ユヴァル・ノア・ハラリの著書『サピエンス全史』によれば、狩猟採集生活のほうが生産性は高いとあります。食糧を育てるコストがかからないため、仕事量は少なくて済んだのです。例えばシカを一頭しとめれば、それを食料として1週間は何もしなくてよいし、毎日魚や貝を獲っていればよいわけです。縄文人はあまり戦争をしませんでした。ネイティブアメリカンも狩猟採集民族であり、富を蓄えることをしなかったため、貧富格差はありませんでした。平和な時代でした。
しかし農耕革命後に貧富格差が広がっていきました。紀元前5世紀、ブッダが出現します。ブッダは農耕時代のおかげで富裕な家系に生まれましたが、城の外は皆が貧しく飢えているということを疑問に思い、修行の旅に出て悟ったのです。人間はどう生きるべきかを一生懸命考えた時代が、枢軸時代と呼ばれるこの時代です。インドではブッダ、中国では諸子百家、古代ギリシャではソクラテス、プラトン、アリストテレス等といった世界の賢人が現れ、活躍しました。
このように人口が定常化すると、新たな思想が生まれるのです。歴史を遡ると、紀元前5世紀の枢軸時代より前の約5万年前には、心のビックバンが起きています。この時代は人類最初の成熟期であり、世界中の洞窟に壁画が描かれ、日本では縄文土器が誕生しました。神を信じたアート時代ともいえます。
現在の日本は少子高齢化、つまり3回目の定常化が始まっています。経済も約30年間停滞しています。世界人口をみても、数十年で定常化するといわれています。また、世界的に環境問題や貧困問題は深刻化していますので、環境破壊をしない方法で産業化を進めていかないと生きていけない時代になってきています。図5でご説明します。人類の歴史を人類1、人類2、人類3に分けると、1は狩猟採集生活、2は農耕生活、3は産業化後の生活となります。「. 0」は増加期、「. 1」は定常期です。先述の通り「. 1」は、心が成長し思想やアートが生まれる、心の豊かさの時代です。

日本は今、世界に先駆けて「人類3. 1」の時代に突入しました。縄文時代を振り返れば、日本は定常化の時代(心の時代)が長く続きました。イギリスで始まった産業革命時代、日本は鎖国を行っていたために江戸時代後半は定常期でした。日本で産業革命が始まったのは明治時代であり、イギリスから約100年遅れたことになります。つまり、日本は定常化の時期が長く、成長期が短いのが特徴なのです。他国より農耕革命、産業革命が遅れたにも関わらず、定常化が早まっていますが、定常化は心の豊かな時代でもあるため、日本はさまざまな豊かさを長く感じられる国であるともいえます。これからの日本は、Well-Being産業が広がり、経済成長から心の成長へとリードすることでよりよい生き方の時代に変わっていき、美しい心や美しい社会の時代になるのではないかと考えています。
産業革命期から、宗教を信じる人が減りました。理由は科学の進展です。資本主義は美しい心の時代ではありません。市場経済において、各個人が自己の利益を追求すれば、結果として社会全体において適切な資源配分が達成されるとアダム・スミスは考えました。それが資本主義です。日本では戦後、国家神道が廃止され、政治から宗教が分離されました。つまり美しい心になるための宗教というメカニズムを弱めて、資本主義を推し進めたのです。いわゆるエコノミックアニマルでした。
人類3. 1は、科学に基づいた倫理学であるWell-Beingの時代と考えます。幸せになりたいのであれば、利他的になり、誠実になり、よい人になることです。これは宗教ではありません。幸せについての科学です。“いい人になるために、みんなで美しい心になろう”ということを目指していく時代になるべきだと思っています。今はその過渡期です。ユヴァル・ノア・ハラリ、トマ・ピケティ、斎藤幸平さんなど、さまざまな分野の人が、経済成長ばかりではなくポスト資本主義になるべきだと論じています。
トランプ元大統領の政策、ロシアによるウクライナ侵略、中国の台湾を巡る動き等は自国中心主義であり、時代に逆行しています。今は非常に不安定な時代ですが、時代はいつでも、国家のトップが国を守るために自国中心主義にならざるを得ず、それに対して学者は“それは違うのだ”と言い均衡を保っています。その結果、どちらへ行くかということです。
明治維新から終戦までが、約77年です。今年で終戦から約77年が経ちます。つまり、江戸時代の歪みが高まったときに明治維新が起きたことでオールクリアされ、新しい国が作られました。再び歪みが溜まり、戦争が起き、終戦を迎えることで、それまで作り上げてきたものがオールクリアされました。拡大した貧富格差がオールクリアされるサイクルが77年毎に起きていることになります。今年はその年に該当します。今年、革命が起きるとは言いませんが、それほどに歪みが溜まっている時代なのです。新型コロナは、環境破壊も影響しています。加えて、戦争やテロ等、さまざまなことが起きていますが、今後はどのような時代になっていくのでしょうか。私は、ソフトランディングの方法を示していきたいと思っています。

4. 幸福学とは

幸福学についてお話しします。ハーバード・ビジネス・レビュー(2012年5月号)によると、幸福感の高い社員は、そうでない社員と比較して、創造性は3倍あり、生産性、売上はそれぞれ31%、37%高く、欠勤率、離職率はそれぞれ41%、59%低く、業務上の事故も70%少ないということです。幸せな心の状態はモヤモヤしていません。穏やかで、視野を広くしていられます。そして、心が整っていると健康なのです。幸せだと、うつや大腸ガン等の多くの疾病になりにくいといったエビデンスがあります。笑顔を作っただけで免疫力が高まるという研究結果もあります。
幸せと健康の研究は、産官学、民間でも広まってきています。日本でもようやく10年程前から始まりました。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏は、お金があれば幸せになれるという仮説が間違いであると論じています。限界効用逓減の法則に則り、カーネマン氏は、年収75,000ドルを超えると、感情的幸福と年収に相関はないと結論付けています。大金持ちになっても幸せにはならないということです。この変曲点がいくらかということは研究者、母集団によって異なります。例えば、都会で元SEとして生計を立てていた人がIターンで農業を始め、年収はSEの頃の3分の1に減りながら幸福度は100倍だと感じられるようなケースもあります。
金、モノ、社会的地位といった他人と比べられる財を「地位財」といいますが、地位財を得ることによる幸せは長続きしません。金銭欲、物欲、名誉欲の強い人は幸せにはなりにくいのです。しかし、産業革命以来、社会はこれをずっと続けています。
では、これからの低成長時代において、どのようにすれば幸せになれるのでしょうか。それは、安全を確保し、身体的に良好な状態にして、精神的に良好な状態にする「非地位財」型の幸せを目指すことです(図6)。

日本は世界一安全で健康長寿国ですが、心の幸せは、国連の『World Happiness Report』では、先進国中で最下位という結果が出ています。しかしこれからは、幸せになることを目指せばいいのです。目指せば、日本の順位は一気に上がるでしょう。ドイツは、10年前の同ランキングでは低かったのですが、「Well-beingだ」と国をあげて頑張った結果、世界トップ10に入りました。健康経営、働き方改革、人的資本経営は、日本のビジネス界でのトレンドですので、上位を目指すには今が狙い目です。社員が幸せになるためには何をしたらいいのかといった観点からさまざまなことに取り組めば、人的資本への投資対象として、株主からも期待してもらえます。

5. Well-beingのための4つの方法

では具体的に、何をどのようにすればいいのでしょうか。幸せの心理的要因を分析すると、4因子が得られます。この4つを満たすように生きていると、幸せになりやすいということが確かめられています。
1つ目は、「自己実現」と「成長」です。成し遂げたい夢のために頑張って成長しようと働く、あるいは仕事をやってみるぞと主体的に働くことは幸せなことなのです。物的な豊かさではなく、やりがいを持つことです。そして、環境問題や貧困問題は待ったなしですから、“俺は勝つ”というところから、“みんなでいい世界をつくろう”というマインドに変えて、各人がやりがいを持って積極的に取り組まないと、人類は終わってしまいます。やる気を持つためには、視野を広くして、“私の仕事は世界を変えている”と思って仕事に向き合い、理念も持って取り組むことが大切です。また、権限を委譲する考え方も重要です。例えば、80%は目の前の仕事にきちんと向き合い、20%は自由度のある創造的な仕事をしてよいとするような、チャレンジを推奨する風土づくりも必要です。そのためにできることとして、まず挨拶があります。目を見て挨拶をする人は幸福度が高い人だという研究結果もあり、日常的に大きな声で挨拶することの重要性は明確になっています。
2つ目は、「繋がり」と「感謝」です。この仕事は社会に貢献するという目的のためにあるのだと、仲間と夢を語り合うことです。縄文時代の働き方は、きっと今より幸せだったのでしょう。「今日はみんなでアサリを獲るぞ」とみんなで協力して獲って仲よく食べる生活は、役割分担で視野が狭くなり繋がりも希薄化している現代の生活とは全く異なります。“ありがとう。あなたのおかげだよ”といった会話が行き交うことで人と人が繋がると、やる気も出るのです。現代は約80億人が役割分担され過ぎて、一人ひとりの視野が狭くなっています。コンクリートジャングルの中でひとりぼっちで孤独感を感じる人が増えています。
3つ目は、「前向き」と「楽観(なんとかなる因子)」です。この2つを持って“未来は明るいぞ”と思えば、創造性は3倍になります。日本は少子高齢化で先が暗いと思うのではなく、人口が増えているアジアやアフリカに市場があるのだと思うことです。日本人は、今、過渡期です。先が暗いと思ってシュリンクするのか、“これからまたやるぞ”と新たなチャレンジをするのか。どちらが幸せになれるのでしょうか。
4つ目は、「独立」と「自分らしさ」です。自分軸をしっかり持ち、自分らしく働く人は幸せです。先が読めない時代だからこそ、100人いたら100通りの個性で、いろいろなことを考えられるのです。
知恵を使い、自分らしさを発揮し、新たなことにチャレンジし、人と繋がり、やりがいを持って生きる、というこれらの幸せの条件は、企業が生き残る条件でもあります。また、これらの幸せの条件に投資し、新しく活気のある会社にできるかが、今、試されています。人類史において、農耕革命、産業革命に次ぐ転換点である今をいかに生き抜くのか、これによって将来が変わってきます。皆さん自身が幸せなら、家庭も、地域も、会社も、世界も幸せになっていきます。幸せの輪を広げていただきたいと思います(図7)。

〈質疑応答〉

質問A 全国には、Well-beingを推進している伊那食品工業(株)のような企業があります。ここに地域経済の活力へのヒントがあるような気がしますが、先生のお考えはいかがでしょうか。
前野 伊那食品工業さんには私も伺っていますが、社員は生き生きとしていて、Well-beingを推し進めているいい会社です。塚越社長は「これからも人を雇い、地域と繋がり、地域を活性化していく責任がある」として、社屋の敷地の隣に地域と繋がる拠点を作りました。同社の就職倍率は高く、全国の大卒生からたくさんの応募があり、地域活性化のコアになっています。
質問B パーパス経営を目指すなかで社員のWell-beingを高め、イノベーションや生産性向上を目指す動きがありますが、それを実現するための留意点や成功事例などがあれば、教えてください。
前野 理念や夢を持つことはパーパス経営と同義語です。トップダウンではなく、皆で考えることです。例えば西精工(株)さんは、毎朝1時間の朝礼でパーパスや理念、ビジョンについて皆で考え、各社員がそれに対して自分はこうするという考えを発表しています。またネッツトヨタさんは、パーパスを作り上げるとき社長にはアイデアがあったそうなのですが、社長はそれを言わずに社員に考えさせました。最終的には社長と同じビジョンだったようですが、社員自らが作ったパーパスと、社長から押し付けられたパーパスでは、社員のやる気が違ってきます。パーパス経営で大事なのは、いかにボトムアップで進めていくのかということです。そのうえで、トップダウンとボトムアップのバランスをうまく取っていくことが重要です。ピラミッドの下になりがちな人たちの意見も聞き、社員にやらされ感を持たせず、上意下達ではないようにすることが重要だと考えます。
質問C Well-beingでの利他性や誠実さは、他者との関わり合いの中で生まれるものだと思います。新型コロナやデジタル化が人々に与えた影響を幸福学の観点からみると、どのように考えられますか。
前野 二極化していると思います。オンラインを用いることで、特に遠隔地とのコミュニケーションが密に取れるようになったという会社もあります。もともと幸せだった会社は、コロナ禍でもオンラインで飲み会をしたり、ミーティングの10分前に集まり近況報告をしたりと、オンラインで会う機会を増やしています。オンラインのメリットを利用しているところは幸福度も効率も上がり、業績も伸びています。一方、オンラインを否定する会社は、オンラインでのコミュニケーションが不足しています。新入社員に帰属意識がなく、部課長レベルが仕事を過多に抱えて疲弊しているという会社もあります。社員の孤独感にも気を付けるべきです。オンラインで会議が終わればそこで繋がりが途切れるので、話ができずにいるとその人は孤独感を感じてしまい、幸福度は低くなります。必要な場合には、対面でコミュニケーションを取ることが大切です。リアルで会わなければ、明らかにコミュニケーション不足になるので、対応不足の人は取り残され、幸せ格差がさらに拡大してしまいます。コミュニケーション不足にならないようにすることは、ポストコロナにおいて非常に気を付けるべき問題でしょう。

著者プロフィール

前野 隆司 (まえの たかし)

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授/ウェルビーイングリサーチセンター長

1962年山口県生まれ。1984年東京工業大学工学部機械工学科卒業。1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。1986年キヤノン株式会社入社生産技術研究所勤務。1990年カリフォルニア大学バークレー校機械工学科訪問研究員。1993年東京工業大学博士号取得。1995年慶應義塾大学理工学部機械工学科専任講師。1999年慶應義塾大学理工学部機械工学科助教授。2001年ハーバード大学応用科学・工学部門訪問教授。2006年慶應義塾大学理工学部機械工学科教授。2008年慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。2017年慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任
主要著書 「ディストピア禍の新・幸福論」(プレジデント社、2022年)、「ウェルビーイング」(日本経済新聞出版、2022年)、「幸せな職場の経営学」(小学館、2019年)、「幸せのメカニズム」(講談社現代新書、2013年)、「脳はなぜ「心」を作ったのか」(筑摩書房、2004年)