明日を読む

ハイテク株復活を映す米IT見本市

2024年2-3月号

関口 和一 (せきぐち わいち)

株式会社MM総研代表取締役所長

米ラスベガスで1月初め、世界最大のIT見本市「CES」が開かれた。世界から約4300社・団体が出展し、来場者数は13万人以上に上り、コロナ禍前の勢いを取り戻した格好だ。それを反映するかのように一時期落ち込んでいたハイテク株も半導体関連を中心に大幅続伸し、米株価指数の「NASDAQ100」はCESを機に昨年末の最高値をさらにつり上げた。
「今年の最大テーマはChatGPTなどAIの活用だ」。見本市を主催する全米民生技術協会(CTA)のゲイリー・シャピロ会長は開会の場で真っ先に指摘した。今回は仏化粧品大手のロレアルや米小売最大手のウォルマートなどが初出展し、それぞれCEOがAIを使った「ビューティテック」やサプライチェーンの高度化などAIの広がりを基調講演で訴えた。
NASDAQには世界の新興企業が上場するが、NASDAQ100はその中からマイクロソフトやアルファベット(グーグル)、アマゾン・ドット・コムなど有力企業100社で構成する指標だ。世界のハイテク市場の動向を最もよく表しており、インターネットが普及した1990年代後半にも大きく上昇し、いわゆる「ドット・コム・ブーム」と呼ばれた。
ITバブルが2000年に崩壊すると同指標も大きく下落、SNSなどが登場する「Web2.0」ブームで盛り返したものの、2008年のリーマンショックで再び下落した。ところがこの時はスマートフォンや電気自動車、自動運転、ライドシェア、民泊サイト、ビデオストリーミングといった新技術が次々と生まれ再び上昇に転じ、既存のビジネスモデルを覆す「デジタルトランスフォーメーション」の流れが登場した。
その勢いを大きく加速したのが2020年春から世界に広がった新型コロナウイルスの感染拡大だ。NASDAQ100は当時すでにITバブルのピークの2倍の水準に高騰していたが、リモートワークやオンライン会議などでデジタル技術の活用が進むと指標はさらに急上昇し、ITバブル期の4倍近い水準まで達した。
米国のIT企業はこうしたデジタル変革を促すため技術開発や人材確保に多額の投資をし、NASDAQ100も2021年11月には史上最高値を記録した。ところがコロナ禍が収束すると、追い風は逆風へと変わり、シリコンバレーにもレイオフの嵐が吹き荒れた。指標もわずか1年で40%近く下落し、サンフランシスコ市内には路上生活者の姿が目立つようになった。
その流れを一変したのが2022年11月に登場した米OpenAIの生成AI「ChatGPT」である。ハイテク株復活を期待する投資家たちは一斉に買いに転じ、NASDAQ100も底入れして昨年のクリスマスには1年で2021年秋の最高値を更新した。その年明けにラスベガスで開かれたCESはまさに投資家たちの期待を裏付ける一大イベントになったというわけだ。
一方、日本の株価はどうか。日経平均は年明けに3万5000円代に上昇し、バブルのピークに迫る勢いだが、実は手放しで喜べる状況とはいえない。株価上昇の要因としては米国の利下げ観測や日本で今年から始まった新しい少額投資非課税制度(NISA)の影響などが見逃せないからだ。さらにハイテク株に沸く世界の投資マネーが半導体に力を入れ始めた日本にも流れてきたという外的要因が作用している。
実際、投資家の期待とは裏腹にCESでの日本勢の展示はやや残念な状況だった。家電分野ではサムスン電子やLG電子など韓国勢に水をあけられ、モビリティ分野では今年もトヨタ自動車など日本の自動車大手は出展を見送ってしまった。出展ブースを設け、新しいEVを発表したのはホンダ1社だけだった。ベンチャーの出展も欧米や韓国などの後塵を拝した。
家電や自動車に代わり化粧品の資生堂や「ダンロップ」のブランドを持つ住友ゴム工業などがCESに初出展したのは朗報だった。タイヤに装着した部品から道路情報などをセンシングする新しいデータ分析サービスを提案した。
今後、日本の株が継続的に買われていくには世界が買いたいと思う日本の製品やサービスがなければサステナブルな経済成長は描けない。名目国内総生産(GDP)で世界第4位に転落した日本としては、こうした見本市の場などを使い、日本が持てる技術やサービスの優位性を世界に訴えていくしか手はないだろう。

著者プロフィール

関口 和一 (せきぐち わいち)

株式会社MM総研代表取締役所長

1982年一橋大学法学部卒、日本経済新聞社入社。1988年フルブライト研究員として米ハーバード大学留学。英文日経キャップ、ワシントン特派員、産業部電機担当キャップなどを経て、1996年から編集委員を24年間務めた。2000年から15年間は論説委員として情報通信分野などの社説を執筆。2019年(株)MM総研代表取締役所長に就任。2008年より国際大学GLOCOM客員教授を兼務。NHK国際放送コメンテーター、東京大学大学院客員教授、法政大学ビジネススクール客員教授なども務めた。1998年から24年間、日経主催の「世界デジタルサミット」の企画・運営を担う。著書に『NTT 2030年世界戦略』『パソコン革命の旗手たち』『情報探索術』(以上日本経済新聞社)、共著に『未来を創る情報通信政策』(NTT出版)『日本の未来について話そう』(小学館)などがある。