『日経研月報』特集より

欧州における木質バイオマス利用

2023年10-11月号

酒井 秀夫 (さかい ひでお)

一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会 会長

1. はじめに

循環再生資源である森林には、生物多様性や環境保全機能も含めて木材利用の選択肢の拡大と持続的発展のための政策が求められている。日本は冷温帯から亜熱帯までを含む森林国家である。スギ、ヒノキは特産であり、広葉樹の種類も欧米に比べて桁違いに多い。国内需要約7,000万㎥に対して、近年、人工林と天然林あわせて年間1億6,000万㎥の蓄積量が増加している(林野庁森林生態系多様性基礎調査)。森林に新たな価値を見出し、森林資源の正しい知識の普及が問われている。
昨年、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の調査でスイス、イタリア、フィンランドを訪問する機会があった。フィンランドは主要な資源といえば森林と人材である。アルプスに抱かれたスイスは澄んだ空気と景観が財産である。イタリアは自治が発達している。本稿では、木質バイオマス利用を切り口に各国の知恵を紹介しながら、林業の新しい形について考えてみたい。なお、聞き取り箇所の文責は筆者にある。

2. バイオエコノミーという概念

20世紀は鉱物資源をめぐる世紀、21世紀は生物の世紀と言われている(図1)。バイオエコノミーという用語はChristian Patermann博士が提唱し、欧州バイオエコノミーの父と呼ばれている。

フィンランドでは、2000年の石油価格高騰により公共施設を中心に木質エネルギーへの変換が取り組まれた。その頃石油ボイラーは普及から20年を経過して修理時期を迎えていた。木質ボイラーの設置、管理を代行するビジネスモデルが考案され、このビジネスモデルは、スコットランド、アイスランド、カナダにも採用されていった。フィンランドのエネルギー構成において、木質が占める割合は2021年には30%で最も高い(図2)。ロシアからの木材輸入停止により、燃料用材の価格も高くなっており、林業が良いビジネスになりつつある。フィンランドでは、一般家屋などの小規模建築の約80%、公共建築の約30%が木造である。ほとんどの加工業者は地方にあり、地元素材を利用して高層建築などにCLT(直交集成板)やLVL(単板積層材)、パネルなどの木質建材を多用し、森林と建築を結ぶ木材のバリューチェーンができている。

ちなみに、フィンランドでは年間約7,800万㎥の木材生産を行っているが、択伐と皆伐の面積は1996年にはほぼ同量の約20万haであった。しかし、その後皆伐面積は変化がないのに対して、択伐面積は2倍以上に増えており、択伐によって森林の活力を高めている(LUKE(Natural Resources Institute Finland)資料)。この背景として、740万haの植林地が成熟してきたことも一因と思われる(FRA2020)。わが国人工林の更新と経営管理にとって参考になる傾向である。
また、欧州の共同プロジェクトEUウッドサーカス(WoodCircus)は、欧州における循環型バイオエコノミーに向けて木材ベースのバリューチェーンを促進しようとしている。研究機関も、木材保護、長寿命化、耐火、防火、耐災害に取り組み、木材の音響、健康、心理的効果の活用や、美的、安全、エコデザイン、BtoB、BtoCなども進めている。

3. 多様な木質バイオマス利用

木質バイオマスによる発電、熱利用の燃料として、破砕したチップと、おが粉を高温高圧で圧縮して作られるペレットが一般的である。これらは森林から容易に入手できるが、買取り価格が安いため、輸送費をかけてまでの広域利用はふさわしくない。この点が石油とは大きく異なる。そのかわり経済は地元に還元され、持続的な利用により森林の活力を高めていくことができる。
木質バイオマスの集荷範囲は、フィンランドでは約50㎞、スイスでも約35~60㎞、大型発電所で約100㎞である。スイスでは、木質バイオマスは発電だけでなく、熱電併給(以下、CHP)にしなければならない。イタリアはCHPにしなければならないというきまりはないが、バイオマス発電に補助金があり、熱利用をすれば補助金は加算される。いずれにしても、熱利用がまずありきで、スイスの共同体では2MWの設備が多い。
地元熱利用の事例は枚挙に暇がないが、森林を所有し、自社完結で収益を上げている例として、スイスBrügger HTBホテルがある。自社林で生産したチップをホテルで熱利用し、さらに学校、スーパーマーケット、約2,000世帯に熱供給している。木工所も所有し、ホテルの家具の他に、合板や木質断熱材も生産している。
フィンランドでは、製造にコストとエネルギーがかかるペレットよりも、チップの地元利用を優先させている。ペレットにしても、地域熱利用には地元のペレットを使用し、大型ボイラーでは低価格の輸入ペレットを使用している。ペレット用の原料が余れば、長さ8㎜の大きめなペレットサイズにして、圏外の発電所に販売している。
イタリアのLa TiEsse社は1994年にイタリアで初めてのペレット生産を開始し、年間約10万トンを生産しているが、製材工場や家具工場などの市街地で発生する廃材を利用することで、輸送コストと乾燥コストを節減している。ペレット原料のおが粉もオーストリア、スロベニア、イタリアから自社のトラックで搬送している。製造過程で必要な電力はチップを使ってORC(有機ランキンサイクル)発電を行い、約20%を自社利用し約80%を売電している。大気汚染に関するデータを毎月指定検査機関に報告し、環境面でも認証を取得している。

4. 進化しているバイオマス燃焼技術

ボイラーも日進月歩で技術開発が進められている。例えばスイスSchmid社では、炉のコンクリートの温度と燃料の水分を感知してボイラーを自動調節するコントロールユニットを開発している。出力は熱量に換算されて、熱量をベースに燃料納入業者に精算される。完全にエネルギーとしての取引であり、生枝でも乾燥材でも対応できる。ボイラー内の酸素が多いと燃料の消費も早いので、残存酸素濃度を常に6%に抑え、排ガスも再循環させている。
イタリアUniconfort社は、農業廃棄物の燃料化を目指し、アフリカのカカオ豆やナッツの殻など、クリンカー(塊状化した燃焼灰)が発生して燃料に不適とされていた素材を利用する技術を開発し、顧客の要望に応じた大型ボイラーを個別に設計している。高品質なチップやペレットは小型ボイラー用にすれば良いという考えである。
フィンランドでは、2024年にトレファクション(半炭化)システムを導入してバイオチャーを製造し、土壌改良剤に使用することでカーボンキャプチャー(炭素回収)に貢献しようとしている。また、排熱の潜熱を利用するヒートリカバリーシステムの普及も進められている。そうなるとチップの水分が多いほうがヒートリカバリーも多いことから、将来はチップの水分率に対する評価が変わってくるかもしれない。

5. チップの品質認証とボイラーからの排出規制

木質燃料は生物由来であり、エネルギーとしての品質評価と流通過程での品質管理は重要な検討事項である。品質の確かなチップの使用は、ボイラーの性能を発揮、維持し、環境を守ることになる。チップやペレットの品質は「国際標準化機構(以下、ISO)」によって水分とサイズなどが規定されており、ISOに準じてEU内の「EN」規定、イタリアならば「UNI」規定がある。さらにISOに則って、ISOよりも高い品質を証明する「ENプラス」(ペレット)、「Biomassプラス」(チップや薪、ブリケット)認証がある。その国の事情に応じて運用できることがISOでも認められており、各国ごとの運用実態がある。ISOが共通の物差しとなって、相対取引が行われている。

【スイス】

スイスでは、1970年代のオイルショックをきっかけにHolzenergie Schweiz(スイス木質エネルギー協会)が発足した。会員は約600名で、コンサルタント、広報、専門教育、ロビー活動、国際対応などの活動を行い、木質バイオマスの普及推進に務めている。健康や環境を守る必要条件を満たしてボイラーを燃焼させるために「バイオマス地域暖房プラント向けの品質管理システム:QM Holzheizwerke(以下、QM)」を20年前に作成した。QMは非常によくできた指針であり、スイス、ドイツ、オーストリアが採用し、後にイタリアも参加した。日本でも(一社)日本木質バイオマスエネルギー協会が翻訳して公開する権利を得てホームページに日本語で紹介するとともに、QMを参考に『木質バイオマス熱利用(温水)計画実施マニュアル』を2022年に刊行している。
スイスでは、不完全燃焼に由来する一酸化炭素排出量の測定を地域認定の民間業者が2年ごとに行っている。出力2MW以上のボイラーは窒素酸化物の排出上限がスイス法により定められている。州が抜き打ちで測定を行い、測定結果が芳しくなければ行政指導が入る。測定の確認は、州に登録された公認検査機関が行う。Holzenergie Schweizも公認検査機関である。使用機械の認定は州が行い、測定機械は国際的に認定を受けたものを使用する。ばいじんも2年ごとに測定され、2007年からフィルターを設置することが義務化された。強制ではないが古いボイラーを排除するねらいがあり、500kWまでならば0.05gまでという性能規定がある。フィルターがなくても規制値を実現するには価格が高い良質なチップを使用しなければならない。
スイスはEUに加盟してはいないが、国営の企業や団体のボイラーでは、チップ供給者と需要者側の間でチップのEN認証が必要になる。スイス政府の暖房施設は、5年ごとに契約更新されているが、前回の更新から証明と書類が必要になっている。それ以外はISOやENに準じて同等の品質のチップを使用しているが、品質が確かであれば、認証費用が発生する品質証明書がなくても、地域暖房に直結している場合のみ、書類提出で国から補助金を受けることができる。20社ほどのチップ事業者がQualischnitzel(品質チップ)と呼ばれる品質規格のラベリングを作成し、販売に役立てている。一方、ペレットは法律でA1、A2クラスを使用することになっており、スイス・プロペレット協会が、ENプラスに準じて管理している。

【イタリア】

イタリアでは、木質バイオマス熱利用とCHPの促進などを目的として21年前にアグロフォレストリーエネルギー協会(Associazione Italiana Energie Agroforestali:AIEL(以下、AIEL))が発足した。当時、ほとんどの農家はバイオマスについて何も知らなかった。活動内容は、補助金政策などのロビー活動、書類作成、Bioenergy Europeなどの他の協会やEU各国との調整、経営や品質管理など多岐にわたる技術サポートである。活動資金は、約500人の会員の会費と、セミナーなどの活動から得ている。認証について教育や広報を行い、認証制度を浸透させていった。認証の必要性が理解されてきてはいるが、チップの認証については法で定められてはおらず、認証料金や申請書類の煩雑さもあり、チップ認証制度の普及速度は緩やかである。低品質の産業用チップは認証の必要がないが、熱利用目的では、使用するボイラーのためにチップの品質に対する信頼が欲しいという消費者からの要望に応えるために、7年前からチップ認証を始めた。AIELはBiomassプラスのブランド所有者であり、認証チップの継続利用証明を付けることにより、州や自治体での補助金申請ポイントが加算されて補助金申請が有利になるので、結果的にチップ認証が利益を導くことができる。チップをA1+、A1、A2、Bの4つの品質クラスに分けている。AIELはENプラスを認証する機関としてイタリアでの国家ライセンスを有するが、資金援助は受けていない。ENプラス認証ペレットは2011年に発足し、約50カ国が参加しており、約80%のペレット製造業者がENプラス認証を取得している。ロジスティクスも含まれており、輸出のための規格ともいえる。フィンランド産ペレットは高品質であるが、6㎜規格ではなく8㎜と大型サイズなので認証されていない。有償の認証制度を採用するよりも、実務重視といえる。
全国農業機械化協会(Ente Nazionale Meccanizzazione Agricola:ENAMA(以下、ENAMA)) はAIELとパートナーシステムを組んで、一年に一度、企業を監査し、認証を発行している。国から公認を受けているが、政府機関ではない。AIELにBiomassプラス審査申請があると、ENAMAに検査依頼し、ENAMAは登録された認定検査機関に試料を送り、その検査結果を確認し、AIELに通達する。AIELは結果を監査した後、Biomassプラス認証のグレードを発行する。このように第三者認証のスキームが存在し、それを必要とする業者は実務において活用している。認証機関や認証を検査する機関は、ISOの認可を得た第三者機関(私企業)でなければならない。他の欧州諸国ともネットワークができている。

6. 品質管理とサプライチェーン

【スイス】

燃料用チップは、一般的に伐採現場で丸太や枝を1年から1年半乾燥させてから、チッパーで破砕して需要者に搬入する。丸太は樹皮付きのまま破砕工場に運んで破砕することもあるが、枝の付いた嵩張る梢端部や枝は破砕して体積を小さくしてから運搬する。いずれも水や空気を運ばないためである。このようなチッピング会社はスイス全体で70~80社あり、地域では競合関係にある。顧客に応じて品質をカスタマイズしているが、品質はENに準じている。新しいボイラーが設置されると何社かの入札になり、中型~大型ボイラーは何年かの長期契約を結ぶ。Holzenergie Schweizが定めている価格等の指標を目安として交渉にあたる。

【フィンランド】

ヘルシンキに近いポルヴォー市の小規模チッピング事業者は、原料を森林所有者から購入し、年間4万~5万㎥のチップを現場で生産し、家庭、農家、小規模事業者向けの小型ボイラーに供給している。小型ボイラーはチップの品質に影響を受けやすいので、丸太は少なくともひと夏は乾燥させ、スクリーンにかけることで、安定した品質のチップを供給している。枝等から作られる低品質チップは20㎞離れた大規模発電所に納入している。発電所の買い取り価格が安くても、庭園整備などいろいろな現場から原料を安く仕入れている。
チップが地元消費であり、他社と競合せずに相対で顔の見える取引がされているので、ISO規格は品質のよりどころではあるが、実務には供されていない。品質に信頼が得られているので、体積(㎥)価格で取引され、湿度も測らないが、高水分だと納入量を嵩増しして誠意を示したりしている。原料の出処について記録義務があったが、今はその義務が無くなった。保護森林で伐採しない事だけが重要となっている。フィンランドのヨーエンス市ウイマハリュ集落にある2MWの地域暖房施設Eno Energy協同組合でも、チップの品質に信頼が得られているので、水分は測らずに体積で取引されている。森林所有者もそれまでの原木価格競争を考え直して小径低質木を熱資源に変えている。
一方、ポルヴォー市地域にある数社はチップ生産能力200㎥/時の大型チッパーを数台使って、年間20万㎥の低品質チップを生産し、半径100㎞以内の大型発電所に納めている。価格競争があり、量を安定して確保するために比較的高い価格で原料を仕入れている。発電所では重量で取引し、サンプルを採取して熱量計算している。

7. イタリアの燃料材サプライチェーン

イタリアでは燃料材のサプライチェーンに新たな工夫がされている。イタリア北部ヴェネト州の森林所有者は零細で、経営は非効率であった。そこで、伐採からボイラー管理運営までの全エネルギーチェーン最適化を考え、森林所有者を協会加盟させ、行政や共同体も含めたプラットフォームを構築して効率を上げ、相互の利益を高めている。Ecodolomiti社はプラットフォームと呼ぶ1万㎡の中間土場を経営し、平均40㎞以内で森林資源を地産地消している。製材所も所有し、素材を製材用材とチップ用材に分別しながら、熱利用者には品質管理されたチップをエネルギーとして販売している。チップ年間販売量は3万㎥で、主な樹種はドイツトウヒとブナである。チップ材が含まれるため、立木をトン単位で購入し、伐採した木のうち良いものは製材所に99€/トンで販売し、工場で産出された背板を30€/トンで買い戻してチップにしている。立木の枝葉部分は現場でチッピングし、大型発電所に売っているが、チップ用丸太はプラットフォームに運んでチッピングする。チップの価格はプラットフォーム渡しで25€/㎥(55€~65€/MWh)とし、輸送費は100㎞まで27€/㎥で固定している。これにはボイラーのメンテナンス費用等も含まれる。チップは自社所有のトラックで運んでいる。トラックの自社所有は品質管理にとって重要とのことである。顧客はチップを出力換算で購入し、代金は年に一度出力換算で支払われる。エネルギー効率の良いチップを販売すれば少ない量ですみ、運送量も少ないので、経済効果も高い。プラットフォームでは適宜保管チップの湿度を測定し、一連の原料の流れを管理している。発熱量の注文を受けて、水分を計ってチップ販売量を決めている。毎年UNIのチップ認証を取得している。取得は義務ではないが、品質に価値を付与するためである。
グラッパ市の地域熱供給施設Seren del Grappaは、Ecodolomiti社からチップを購入しているが、ガス価格が73~75€/MWhと1年で倍以上に値上がりしたので木質ボイラーの経済効果に期待している。これらのメリットは市民にも浸透している。ちなみに同市は面積75㎢のうち50㎢は森林で、森林の20㎢は自治体(共同体)所有である。EUの公共建造物排ガス減少プロジェクト認可を得て、イタリアの公的資金を受けることができたため、図書館、薬局、老人ホーム、小中学校等の公共施設へ熱供給をしている。長さ300mの熱管と出力500kWボイラーの設置コスト65万€はすべて補助金で賄われた。
イタリアのBiomass Green Energy社は、プラットフォームと呼ぶ自社の土場で製材所から購入した針葉樹背板などをチップにし、ペレットを燃料にした乾燥機で乾燥させてからペレット製造会社に良質チップとして販売している。ペレットを使ったガス化発電をし、得られる電力と熱で乾燥機の燃料となるペレットを作り、ペレットが余れば販売している。電力も自社利用する。また、川原に自然に生育するポプラやヤナギは、市の依頼を受けて10年ごとに伐採して、河川の機能維持に貢献している。移動式チッパーで現地で破砕してからプラットフォームで自然乾燥させた後、大型ボイラー用に販売している。チップの品質管理は、簡易水分計をチップの山に差し込み、適時測定して目安としている。厳密な水分計測をするときは、サンプリングしたチップを自社と検査機関で検査している。チップの品質の価値と顧客からの信頼度を高め、料金を支払う価値があるとして、AIELからBiomassプラス認証を積極的に取得している。2018年はA2認証であったが、2022年にA1+を取得している。認証は製品と製造プロセスに対して発行される。ちなみに上記のEcodolomiti社はAIELメンバーであるが、Biomassプラスのチップ認証は受けていない。
なお、イタリアでは、早生樹造林の取組みとして、ポプラのクローン植林や、アカシア、プラタナス、ヘーゼルナッツなどの植栽をしたりしたが、これらの試みはデモレベルで終わっている。早生樹の植林をするよりも、身近に十分にある木を利用する方が手っ取り早く、土地と気候、環境に適した植林をした結果、木質バイオマス素材が得られるという考え方になっている。

8. 燃料チップの品質評価の実際

大規模発電所では、例えば1日100台ものチップ車搬入があるので燃料サンプルの分析量は少なくない。チップ納入業者にしても、サンプリングの誤差による収入への影響が大きい。両者ともサンプリングの重要性を認識している。サンプリングにコストをかけることよりも、いかにして精度を高めるかが重要となっている。
簡易水分計やトラックの積載重量から水分を測る方法もあるが、簡易水分計はチップ間の湿度を測っていることになり、チップそのものの水分ではない。厳密にはISOで定めている採取した試料を乾燥炉で乾燥する方法が必要である。フィンランド、ヨーエンス市のCHP発電所Savon Voima社は、手動サンプリングで測定しても5%程度の誤差があり、しかも乾燥側に振れる結果となり、発電所側の費用負担が増えることになることから、試料の自動採取システムを導入している。このシステムはどこでも採用しているわけではないが、フィンランド・テクニカルセンター、PTTフィンランド、デンマーク・テクニカルセンター等の認証を受けている。採取したチップの品質評価は発電所側で行っている。第三者評価ではないが、協定を交わしている。燃料は調達組織Itä-Suomen Biomassa社が一括して納めており、熱量払いであるが、クレームに備えて発電所は一定期間サンプルを保存している。

9. おわりに~林地残材収集システムの確立を目指して~

バイオマス利用に関して、欧州では技術開発、投資に勢いがある。現場も創意工夫で事業を社会の中で持続させようとしている。一方で、行政は環境への影響に配慮したブレーキも忘れていない。ISOやEN規格も品質評価の共通の物差しとして存在し、関係者のコスト負担やボイラーの性能維持、流通等、バランスをとりながら業界に寄り添った見直しが常に図られている。品質評価には醸成された市民の理解があり、とくにスイスでは消費者が森林認証も含めてふさわしい燃料かの保証を求めたがる傾向が強い。
日本でも、森林資源を有効利用する方向で、まずは林業活動で発生する林地残材の収集システムを確立する必要がある。図3にそのイメージを例示すると、タワーヤーダと呼ばれる移動式架線集材装置や、路網が開設できるところではスキッダ(車輪式トラクタ)を用いて、伐倒された木を枝付きのまま搬出し(全木(ぜんぼく)集材)、その事業規模によって小型チッパーやトラック搭載の大型チッパーによって枝部分も含めてチップにする。破砕作業を集材した事業体が行うのかチップ専門業者が行うのか、また、チップの輸送は3PL(サードパーティーロジスティクス)が行うのかチップを購入したチップ専門業者が行うのか、地域の状況に応じていろいろな作業主体の選択肢があり得る。いずれにしても流通過程でのバイオマス原料の品質評価システムが必要になってくる。量を確保するためには小規模森林所有者も参画できるようにするとともに、生材乾燥期間の立替分をファイナンスするシステムも必要である。木質バイオマス利用のビジネスモデルを地域で確立し、事業参入者を育成・確保することにより、発電だけでなく熱需要が生まれ、地域振興とカーボンニュートラルに貢献することになる。

著者プロフィール

酒井 秀夫 (さかい ひでお)

一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会 会長

東京大学農学生命科学研究科名誉教授。2017年より現職。専門は森林利用学、林業工学。2002年に文部科学省在外研究員としてデンマーク森林・景観研究所およびスイス連邦工科大学でバイオマス研究に従事。現在JAPIC(日本プロジェクト産業協議会)森林再生事業化委員会委員長などを務める。著書は『作業道-理論と環境保全機能-』、『林業生産技術ゼミナール』、『世界の林道上・下』(共著)(以上、全国林業改良普及協会)、『木質資源とことん活用読本』(分担執筆、農文協)、『森林列島再生論』(分担執筆、日経BP)など。