明日を読む

第4次AIブーム呼ぶChatGPT

2023年6-7月号

関口 和一 (せきぐち わいち)

株式会社MM総研代表取締役所長

対話側AI(人工知能)の「ChatGPT」がこのところ大きな話題を呼んでいる。GPTは「Generative Pre-trained Transformer(生成可能な事前学習済み変換)」の頭文字で、人間と同じような自然な受け答えができる高性能チャットボットを意味している。
人気は急激な利用者の増加に表れている。昨年11月にネットで無償公開されると、わずか5日間で100万人がアクセスした。ツイッターが100万人に達するのに2年、フェイスブックが10カ月、インスタグラムが2カ月半かかったことを考えると驚異的なスタートだ。
開発したのは米ベンチャー企業のOpenAIで、CEOのサム・アルトマン氏が4月に岸田文雄首相を訪ねたことでも話題を呼んだ。サイトは英語だが日本語にも対応しており、100万人を超す利用者が日本にいるという。チャットだけでなく、音楽やプログラムも作成できるため、1億人を超す利用者が世界に広がっている。
一方、ChatGPTは試験問題の解答や論文作成にも使えることから、教育への影響や著作権侵害といったことも懸念され、イタリアなどでは利用を規制している。アルトマンCEOが岸田首相を訪ねたのも5月のG7サミットを控え規制の輪が広がらぬよう議長国の日本に働きかける狙いもあったようだ。
ではChatGPTはどんな点が優れ、どこに問題があるのだろうか。それを知るにはAIの歴史から振り返る必要がある。
AIの概念を1950年に最初に提唱したのは英数学者のアラン・チューリング氏だといわれ、50年代後半から60年代にかけ、第1次AIブームが登場した。しかし迷路やパズルなどは解けても用途が限られたため下火となった。
第2次AIブームは80年代から90年代に起きた。専門家の知識や知見をコンピューターに覚え込ませる「エキスパートシステム」という手法がとられたが、結局は人間が情報を提供し続ける必要があり実用化には至らなかった。日本でも通産省が「第5世代コンピューター」の名でAI計画を主導したが十分な成果を出せず、「AI=タブー」となってしまった。
第3次AIブームはトロント大学のジェフリー・ヒントン博士らが2006年に「ディープラーニング(深層学習)」を提唱したことに始まる。コンピューターが自己学習する機械学習のひとつで、人間の神経系に似ていることから「ニューラルネットワーク」とも呼ばれた。
AIの利用がこれまで進まなかったのは大量のデータを扱えるコンピューターや記憶装置、通信回線などがなかったためだが、クラウドやスマートフォンなどの登場により、AI活用が大きく進んだ。それを巧みにビジネスにしたのが「GAFA」などの米大手IT企業だ。
ChatGPTも深層学習機能をベースにしているが、成功した最大の要因は多額の資金を集め、優秀な人材を集めたことだ。もともとグーグルなどにいたAI研究者らが研究目的で起ち上げ、そこにテスラのイーロン・マスクCEOらが参画した。マイクロソフトも始めに10億ドルを投じ、今や1兆円規模に膨れ上がっている。
OpenAIは2020年に「GPT-3」を発表し、一般向けに改良したのがChatGPTだ。一部の研究者のものだったAIを誰でも使えるようにし、有料版の「GPT-4」も公開している。
AIに詳しい東京大学の松尾豊教授は「AIブームはもはや第4次に入った」と指摘するが、世界中の利用者が毎日、ChatGPTに多くの情報を寄せることから、自己増殖的にAIが進化し始めているというわけだ。
問題はそうした最新のAIを使いこなせる研究者や技術者が日本に少ないことだろう。第5世代コンピューター計画の失敗から日本では研究者が離散してしまい、政府が2016年に「第5期科学技術基本計画」で再びAI振興を掲げるまで研究がなされなかった。その間に情報通信リソースがエクスポネンシャル(指数関数的)に拡大したのにチャンスを生かせなかった。
ChatGPTの登場に対しグーグルは「Bard(バード)」と名付けた新しい対話型AIを投入、マイクロソフトもChatGPTを自社の検索技術に組み込むなど第4次AIブームはすでにビジネス競争に入っている。日本はその流れに乗れるのか、今また大きな正念場を迎えている。

著者プロフィール

関口 和一 (せきぐち わいち)

株式会社MM総研代表取締役所長