「起業家が創り出す新しい未来」第4回 小倉織物製造株式会 社代表取締役 築城弥央氏

2022年1月号

築城 弥央 (ついき みお)

小倉織物製造株式会社 代表取締役 

「DBJ 女性新ビジネスプランコンペティション」(以下、DBJ コンペ)は、これまで8回開催され、70名を超えるファイナリストを選出しています。本シリーズは、その起業家たちによる新しい未来へ向けたメッセージ等をご紹介する企画です。今回は、第7回DBJ コンペのファイナリスト、小倉織物製造株式会社代表取締役 築城弥央氏にオンラインでインタビューした内容をお伝えします。


■事業概要

弊社は「小倉織」の企画~染め~紡績~織り~プロダクト製作~販売まで、一貫して監修を行うことで、高品質の織物を提供しています。私自身、株式会社 小倉縞縞で小倉織ブランドの国内外での展開に10年間従事していましたが、高品質、小ロット、そしてオリジナルデザインで多種多様なオーダーに応えることがこの時代には必要であると実感し、2018年に織物工場の弊社を設立しました。

組織 小倉織物製造株式会社
本社 福岡県北九州市小倉北区紺屋町13-1毎日西部会館2階
設立年月日 2018年7月2日
HP https://www.kokuraorimono.com/

(2021年12月現在)

 

「小倉織」は江戸時代から豊前小倉藩(福岡県北九州市)で織られ、明治時代には男子学生服の素材として全国に広まりましたが、昭和初期に生産が途絶えてしまいました。その後北九州市は繊維業から工業の街となり、織物工場は全滅しましたが、1984年に手織りの染織家により復元・再生されました。その後、どうにかして北九州市の産業としても「小倉織」を復活させたいという強い願いで、地元小倉の地で80年ぶりに織物工場を復活させました。弊社は、伝統的な特長を活かしつつ、現代的な新しいデザインで、世界に通じるテキスタイルを創出しています。現在工場には、手織作家、小倉織販売経験者など多種多様なバックグラウンドを持ったスタッフが勤務し、多方面からの知見を持ち寄り、新しい可能性を探しながら日々製造しています。

最近の新しい取組みとしては、「KOKURA DENIM」という工場独自のファクトリーブランドを立ち上げました。「槍をも通さぬ小倉織」といわれていた程の丈夫で地厚な「小倉織」の特長を生かし、かつ現代にマッチした新しいものを、とデニムの生地開発を行いました。生地自体を見せるだけではその良さや特長が伝わらないと考え、若者に人気で、世界的にも有名なデザイナーにデザインを依頼しました。「小倉織」のルーツである袴からインスピレーションを得た「ハカマデニム」として展開しています。「過去と現在が混ざりあう」というデザインのテーマ通り、表情豊かな霜降(しもふり)と呼ばれる、まるで地面に霜が降りたかのような美しいグレーの生地は、高密度な仕上がりで使い込むうちに生まれるなめらかさと風合いが大きな魅力です。まずデニムの本場であるアメリカでテストマーケティング販売を行い、大好評を得た後、2021年9月に国内で限定販売すると瞬く間に完売、現在追加生産を行うほど人気のある商品になっています。

また、回収したリサイクル衣料から「再生糸」を作り出す企業と手を組み、「SDGs×小倉織」というコンセプトで、経糸に綿、緯糸にはその「再生糸」を使った生地も手掛けています。SDGs のシンボルカラー17色で構成した生地には、カラフルな美しい色合いを楽しみながら、古いものが新しいものに生まれ変わる「再生」や「循環」に気づいてもらいたいというメッセージを込めています。また、2021年10月に北九州市で開催された「2021世界体操・新体操選手権北九州大会」でのメダルリボンにも同じ素材が大会オリジナル柄の小倉織で採用され、サステナブル素材の生地は多くの方々に注目していただきました。

更に、工場設立当初から導入している最新整経機で高度な技術を用い、光と影を表現した美しいグラデーションの生地を作成しています。これは細い縞をリピートしている一般的な縞柄とは異なり、海外の文化や現代の生活にもマッチするダイナミックなデザインのため、壁紙やソファーなど広い面積でインパクトを与えるインテリア業界で好評を博しています。

 

■目指す企業の姿

弊社が設立当初から重視しているのは、大手企業では出来ない、お客様ごとのオリジナルなオーダーにお応えしてきめ細やかなサービスを提供する、ということです。今や大量生産、大量消費の時代ではありません。これからも高度な技術で、労力や手間を惜しまず、お客様にご満足いただける「デザイン」を意識した工場にしたいと思っています。現在「小倉織」を産業として工場で製造しているのは弊社1社のみであり、唯一無二の存在だと自負しています。今後も私たちにしかできない、細い経糸を高密度に織る技術力で、難易度の高い織物を提供していきたいです。また、工場は小倉駅から徒歩10分、街の中心地にある旧新聞社のビルをリノベーションしました。通常、工場といえば郊外にあるものですが、中心地にあれば工場見学もしやすいため、国内・国外を問わず、多くの方にモノづくりの現場をご覧いただき、弊社の技術を直接感じていただきたいと思います。また、働くスタッフにとっても利便性が高く、女性が製造部門へ積極参加しやすい環境となっています。

 

写真1 小倉織物製造株式会社 本社工場
(出所:小倉織物製造㈱)

 

このコロナ禍、緊急事態宣言により工場の稼働をストップせざるを得えませんでした。しかし、「今できることは何か?」とすぐに発想を転換し、新たな生地開発のアイディアをじっくり練る時間にしました。これまでは目の前のことに追われ、考えをまとめる時間がほとんど取れませんでしたので、とても貴重な経験となりました。「KOKURA DENIM」などの新たな発想もこの時に生まれました。戸惑いや試練は、全て明日へつながっているのだと思います。

弊社が目指す未来のことをお話ししたいと思います。「小倉織」は地元である北九州市内で、ある程度上の年代層には知られているものの、残念ながら若者や子供たちにはそれほど知られていません。そこで学校教育として、例えば工場で出た端切れなどを、美術や家庭科の授業で使うことはできないか? と考えて少しずつ取組みを始めています。現代の小中学校の授業では、SDGs について学ぶ機会が増えていますので、そのカリキュラムの中で「小倉織」の伝統を伝えながら、同時にSDGs の取組みを体感できるようにしていきたいと思います。

また、海岸に漂着したゴミを分別しながら拾い集めるビーチクリーン活動や、まちなかをジョギングしながらクリーン活動を行う「プロギング」で回収したプラスチックやペットボトルなどのゴミを原料に使った再生糸を使い、地球の為の活動をアウトプットした循環型のサステナブルな生地・プロダクトを作る取組みも進めているところです。

これからの製造業は、単純にモノを作って売るだけでなく、そのモノの背景にも共感してもらえるよう努めることが重要だと思っています。多様性のある幅広い取組みのノウハウも各産地に伝えることで、衰退化しつつある生地の産地と連携していきたいと考えています。

写真2  緯糸に再生糸を使用し、SDGs シンボルカラー17色に織り込んだ生地
(出所:小倉織物製造㈱)

 

■日本社会へのメッセージ

製造業の中の伝統工芸は、今や後継者不足で技術伝承もできず、ビジネスとして成り立ちにくい危機的状況にあります。しかし、伝統を決して絶やしてはいけません。「小倉織」もかつてそうだったように、盛んだったものでも消えるときはあっさりと消えてしまいます。だからこそ伝統をそのまま残すだけではなく、新しい時代に合わせて、知恵を絞り、手を加え、新たな価値を加えて進化させていくことが必要です。
「小倉織」は丈夫で強いため、長く愛用することができます。昔の日本人は、一つの生地を大切に使い続け、最後には雑巾として活用してから処分しました。日本古来の、モノを大切にする「もったいない精神」こそ、今日のSDGs の精神につながっています。これからの私たちはより一層、使い捨てではない、持続可能なモノづくりをしていかなければなりません。その製造過程で、例えば布地となる綿花は、どこで誰が作っているのか? というトレーサビリティの観点から広く伝えることも大切だと思っています。

また 日本では、受け継いだ技術などは国内の限定した地域の中で留めていることが多いですが、これからは初めから世界を意識することが、持続可能なモノづくりのポイントだと考えます。もっと上手に世界に発信していくことも必要ではないでしょうか。伝統を多くの人に知ってもらい、次の世代にきちんと残していく、それこそが今を生きる私たちにとっての使命ではないかと考えています。

 

■インタビューを終えて

一度は消滅してしまった産業としての「小倉織」を復活させただけでなく、時代に合わせた新しいデザインや手法を取り入れた新しい「小倉織」で、国内はもちろん世界をも魅了する築城社長。夢は果てしなく続いています。「400年続いた歴史と伝統技術を基に次の100年へ」をモットーにされている通り、大切な技術を次の世代へつないでいきたいという思いが強く伝わってくるインタビューでした。「小倉織」は経糸と緯糸が織りなす縞模様の織物ですが、築城社長が手がけるものは、「伝統」という経糸と「革新」という緯糸で作られた、誰も真似することができない唯一無二
のものではないでしょうか。それは時代とともに更に進化し、織り続けられていくことでしょう。

 

著者プロフィール

築城 弥央 (ついき みお)

小倉織物製造株式会社 代表取締役 

1980年生まれ。福岡大学在学中に台湾留学、卒業後、台湾の日系企業に就職。海外で暮らす中で、日本文化、特に織物など伝統工芸の奥深さを知る。
帰国後、母と共に機械織による小倉織ブランド「小倉縞縞」を立ち上げる。10年間、企画・営業・生産管理など様々な業務を経験する中で、多様化するオーダーに応じられる製造ラインの必要性を痛感し、2018年7月小倉織物製造株式会社設立