地域の現場から

黒部宇奈月キャニオンルート

2024年2-3月号

田中 悟史 (たなか さとし)

株式会社日本政策投資銀行 富山事務所長

(冒頭、このたびの令和6年能登半島地震に伴う災害により被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。)

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2024年6月、いよいよ黒部宇奈月キャニオンルートが一般開放・旅行商品化されます。といっても、「キャニオンルート?」と思われる方もいるのではないでしょうか。
キャニオンルートは、黒部峡谷の欅平から上流の黒部ダムまで約18㎞に亘る工事用ルート。半世紀以上前、黒部川第三発電所・第四発電所建設のため、当時の日本電力や関西電力により整備され、現在も発電施設等の維持管理のために利用されています。2018年に関西電力と富山県との間で協定を締結し、新たな観光ルートとして一般開放が決まりました。これにより日本一のV字峡谷である「黒部峡谷」と、山岳観光ルートとして著名な「立山黒部アルペンルート」が結ばれ、周遊観光も可能となります。

昨秋、一般開放に向け準備が進む現場を見学する機会に恵まれました。黒部峡谷鉄道トロッコ電車の終点欅平駅から工事用トロッコに乗り換え、竪坑エレベーターで標高差200mを一気に上昇、蓄電池機関車で6.5㎞の上部専用軌道を進み、黒部川第四発電所(くろよん)に到着。発電所見学後、インクライン(勾配鉄道)で急傾斜を昇り、黒部トンネル内の電気バスに乗って、標高1,470mの黒部ダムに到達しました。宇奈月駅を出発して5時間ほどの行程です。
なかでも、上部専用軌道の終盤区間「高熱隧道」は、作家吉村昭の小説の舞台にもなった高熱断層地帯。掘削時に岩盤温度が160度を超えた難所として知られ、作業員に黒部川から汲み上げた冷水をかけながら掘り進んだといわれる場所です。今でも坑内は40度近くあり、通過時には機関車内でも熱気とともに硫黄臭を感じることができます。

ルートのほとんどは地下トンネル空間ですが、搬出トンネル横坑から展望台に出ると、登山者憧れの剱岳の裏側「裏剱」や極東最南端の雪渓(氷河)を望むことができます。これまで上級登山者など限られた人にしか目にすることができなかった絶景スポットです。

コロナが収束し、当地にもインバウンド旅行客が戻ってきています。弊行が公益財団法人日本交通公社(JTBF)と共同で実施している「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査 2023年度版」では、「立山黒部」の認知度は台湾や香港において「富山」を上回っており、立山黒部のブランド化が進んでいることが窺えます。キャニオンルートは、現役の工事用ルートとして利用されており、初年度の受け入れは8千人程度・1泊2日の行程で13万円の販売金額を想定しています。
通過型観光が主流の富山県において、キャニオンルートの希少性や知的好奇心を掻き立てる体験は、海外富裕層の誘客や滞在型観光の促進にも一役買うことでしょう。キャニオンルート始動にご期待ください。

著者プロフィール

田中 悟史 (たなか さとし)

株式会社日本政策投資銀行 富山事務所長