海外の現場から

変革の地、南アフリカ ~持続可能な未来と投資機会~

2025年6-7月号

品田 直樹 (しなだ なおき)

DBJ Europe Ltd. CEO

南アフリカ共和国はアフリカ最大級の経済規模を誇る一方で、同時に多くの課題を抱えている。エネルギー危機、通貨ランドの変動、投資環境の整備といった課題を克服しつつ、新たな成長機会を模索している。とりわけ、持続可能な開発とインフラの拡充に向けた取組みが注目されており、筆者は2025年2月にケープタウンで開催された「D20-LTIC Summit 2025」と「Finance in Common Summit 2025(FiCS)」に参加したが、そこでも長期投資の促進とサステナビリティへの取組みについて活発な議論が交わされた。

南アフリカの経済は現在、回復基調にあるものの、2024年は大規模な計画停電などエネルギー危機の影響で実質GDPは0.6%の伸び(注1)にとどまり、これはサブサハラ・アフリカの平均4.0%(注1)を大きく下回った。通貨ランドの価値は2024年に米国の金融政策の影響を受け大きく変動したが、政府はインフレ対策と金利政策を組み合わせ、安定した経済運営を図っている。また、同国の輸出は鉄鉱石やプラチナといった鉱物資源のウェイトが高いなか、中国やEUへの輸出拡大に向けた貿易協定の見直しが進められており、2025年は1.0%成長(注1)となる見通しだ。
一方、中長期的な成長を支える長期投資の呼び込みに関しては、公的な開発銀行セクター(Public Development Banks、以下PDBs)に大きな期待が寄せられている。今回、G20各国の長期投資家のネットワークであるD20-LTICや、グローバルなPDBsのネットワークであるFiCSが主催した会議でも、PDBsと民間資金によるブレンデッド・ファイナンスを活用したインフラ投資の促進や、持続可能な資金調達の仕組みが議論された。特に「金融仲介を通じたPDBsの気候影響の最大化」に焦点が当てられ、PDBsの資金を活用した気候変動対策と経済成長を両立させる方策が求められている。南アフリカは、特に再生可能エネルギー分野での投資を強化し、太陽光発電や風力発電の普及を促進している。一方、同国では慢性的なエネルギー不足に陥っており、2023年には計画停電が332日間実施された。こうした石炭依存からの脱却と電力供給不足の両方を解決するため、再生可能エネルギーの割合を現在の約1割から2030年までに約4割まで引き上げる計画を掲げている。また政府は2024年に、パリ協定に基づく排出量削減義務の達成を目的とした気候変動法を制定しており、野心的な取組姿勢を示している。
エネルギーの需要側についても成長が期待される分野がいくつか存在する。その一つがデジタルインフラであり、南アフリカはアフリカ全体のデータハブとしての地位を確立しつつある。ヨハネスブルグには既に多くのデータセンターが存在し、EquinixやDigital Realtyといったグローバルな企業やAfrica Data Centresのようなアフリカに特化した企業が相次いで新規投資を行っている。Equinixは2024年にヨハネスブルグに初のInternational Business Exchangeと呼ばれるデータセンターを開設した(注2)。また、マイクロソフトは既に首都プレトリアの南部に位置する地区でデータセンター・キャンパスの建設を計画しているが、更に追加で2億9,700万ドルのAI向け投資を行う計画も報じられている(注3)。
南アフリカのデータセンター市場が急成長する一方で、環境負荷を低減させる取組みとして再生可能エネルギーの活用が進められている。Africa Data Centresは、ケープタウンにあるキャリア・ニュートラルなデータセンターへ電力供給することを目的に、フリーステイト州で太陽光発電所を建設する計画を発表した(注4)。Digital Realty傘下で南アフリカのデータセンター企業であるTeracoは、2024年に同州に120MWの太陽光発電所の建設を開始する(注5)とともに、2025年に入り同国のエネルギー会社NOAとPPA(電力購入契約)契約を締結し、風力発電による電力を同社のデータセンターに供給することを決定した(注6)。
このように、南アフリカは経済の回復と持続可能な成長を両立させるため、多様な政策を推進している。特に、長期投資の誘致、再生可能エネルギーの活用、データセンターをはじめとするデジタルインフラの発展は、今後の成長を支える重要な要素であり、これらの分野での国際的な協力が深化することが期待される。南アフリカは、持続可能な未来へと進む道のりのなかで、新たな投資機会を生み出し、アフリカ全体の経済発展を牽引する存在となるだろう。

(注1)IMF World Economic Outlook April 2025
(注2)https://www.equinix.com/newsroom/press-releases/2024/10/equinix-reports-third-quarter-2024-results
(注3)https://www.bloomberg.com/news/articles/2025-03-06/microsoft-plans-additional-297-million-south-africa-investment
(注4)https://www.africadatacentres.com/africa-data-centres-and-dpa-sa-breaks-ground-on-solar-farm-in-free-state
(注5)https://www.teraco.co.za/news/teraco-commences-construction-on-120mw-utility-scale-solar-power-plant
(注6)https://www.teraco.co.za/news/teraco-signs-wind-ppa-to-power-data-centre-facilities-sustainably

著者プロフィール

品田 直樹 (しなだ なおき)

DBJ Europe Ltd. CEO