World View〈アジア発〉シリーズ「アジアほっつき歩る記」第111回
マレーシアからタイへ 鉄道で国境を越える
2025年8-9月号
2024年初めに船でタイからマレーシアに抜ける旅をしたが、10か月後には逆に鉄道でマレーシアからタイへ、国境をまたいでみた。最近刻々と変化するマレーシア事情と共に国境越えの様子をお伝えしたい。
自動化、キャッシュレス化に戸惑う
首都クアラルンプールの空港は広い。何とか入国審査場までたどり着くと、日本パスポートであれば自動ゲートを通過できると聞いており安心し切っていた。ところがパスポートをかざしてみてもゲートは開かず、係員から「あなたのパスポートは汚れているので読み取れない」と言われ、いつものように長蛇の列に並ぶ羽目になり、結局1時間近くかかってようやく入国できた。自動通過できなかった本当の理由は不明であるが、アジア旅ではたまにあることだと諦める。
そこから市内行きのバス乗り場までの距離も相当に長い。ようやくたどり着いたが、チケット売場は1つしか開いておらず、ここも長蛇の列。横を見ると自販機が数台並んでいるが、筆者の持つ日系クレジットカードでは購入できなかった。係員に伝えると「窓口もキャッシュレス」というので困っていると、何と係員は手作業でチケットを打ち出し、手数料を取って現金を受け取った。
バスの中で予約した宿からWhatsAppというアプリを通じて連絡が来ていた。この宿は普通のホテルではなく民泊。フロントはなく、何らかの方法で鍵を開けるのだが、その前に1泊分の保証金の入金が必要だという。だが決済方法は主にマレーシア人向け(使えるクレジットカードがあれば問題なかったのだが)のため、バスの中で窮してしまう。先方も一応外国人対応で保証金を取りに行く、とまで言ってくれたが、その時間は翌日11時にしか行けないと言われ、万事休す。まさかの予約キャンセル、返金不可。今後はホテル予約も慎重にしなければ損をする。
キャッシュレスに関しては、鉄道駅でも混乱した。KLからバスでイポーへ行き、そこから以前も紹介したタイピンまで来ていた。ここも2024年1月に来ているので慣れていると思って油断していたら、何とチケットカウンターが開いていない。係員に聞いてみると何と「この駅では今は自販機でしか切符は売っていない」という。え、1月は買えたのに、イポー駅でも問題なく買えると言っていたのに、どうなっているんだろう。
ここでまたクレカ問題が再発した。中国の銀聯カードも使えない。すると背の高い係員が、マレー人のお客さんに声を掛け始めた。何人か目で応じる人がいて、その人のクレカで国境までの切符を買ってもらい、現金を渡してチケット入手が完了した。係員に感謝すると「今日も朝から数人、あなたのようなお客がいて、自分のカードも残高不足だったので」と笑っていた。マレーシアの政策もまだ浸透している訳ではないようだ。
かなりのどかな国境越え
タイピン駅から列車に乗り込むとほぼ満員で、団体観光客が結構乗っていた。車窓の景色は基本的に変わらないが、途中で雨が降ると、その雰囲気は一変。結局予定時間をオーバー、2時間半以上かかって国境のパダンブサール駅に到着した。時刻は15時40分。実はここから国境を越えてタイのハジャイへ行く列車は1日2便しかなく、午後は15時40分発しかない。かなり焦って改札を抜けたが、何とマレーシアとタイには時差が1時間あり、タイ時間ではまだ14時40分だと分かり、ホッとする。
係員に聞くとまずはハジャイ行きの鉄道チケットを買って、それから出入国審査となるらしい。ところがそのチケット売場に人がいない。確かに1日2便だから、係員も完全にダレている。僅か50バーツのチケットを買うためにかなりの時間を立って待つ。まあこのあたりが緩い国境という感じで悪くはない。
ようやくチケットを入手して、いざマレーシア出国、と思ったが、どこからマレーシアを出国してよいのか分からない。何の表示もなく、そのまま外へ出るとヒンズー寺院が見える。反対側に回ると、ホームに列車があるが、鉄格子がはまっており、ここから降りることは出来ない。そのまま眺めていると向こうから列車がホームに入ってきた。あれにどうやって乗るのだろうか。
結局ある程度の人がベンチに座っている場所が待合室だと分かったが、誰もが国境の緊張感など全くなく、ダラダラと待っている。だが時計だけが動いていき、人の動きは一向に起こらないので、ちょっとイライラする。何と発車時間の15時40分になって初めて審査場行きのドアが開いた。審査はマレーシア出国とタイ入国が隣り合わせでしごく簡単、すぐにホームまで行けた。タイへの陸路入国、以前外国人観光客は年間2回までという制限があったが、今は無くなったと聞いており、気楽に通過する。
ホームには古びた列車が待っていた。ハジャイに行く乗客が続々と審査を終えて乗り込んでくると、随分遅れてゆるゆると出発した。乗客はマレーシア人、タイ人が多く、外国人もいる。日本人の年配者も一人だけ見かけた。列車にはエアコンなどなく、走り出すと窓から吹き込む風が爽やかだ。この風を浴びるためだけに、この列車にずっと乗っていたかったが、雨が降り出し、慌てて窓を閉め、その幸せは一瞬にして終わる。
結局1時間近く遅れて列車はハジャイ駅に入った。ここは何度か乗り降りしているので、見慣れた光景だった。小雨が降る中、メインの通りを歩いて行くと、麵屋が見える。昼ご飯を食べていなかったので腹が鳴っており、宿よりまずは麺となった。どう見ても華人経営の店で豚肉麺を頂く。ハジャイもタイピンに負けずグルメな街で、有難く満たされた。