『日経研月報』特集より
「スポーツランドみやざき」の推進
2025年10-11月号
1. 「日本のひなた宮崎県」はスポーツキャンプ王国
宮崎県は、全国トップクラスの快晴日数と日照時間を誇る「日本のひなた」。温暖な気候で、1年中スポーツが楽しめる環境にあります。
毎年、プロ野球やJリーグ、ラグビーリーグワンなどのプロスポーツキャンプをはじめ、WBC侍ジャパンやラグビー日本代表の合宿などを受け入れており、また多くのアマチュアスポーツのチームや選手の皆さんにも来県いただいています。
また、ゴルフやサーフィン、トライアスロンなど国内外のスポーツ大会も盛んに開催されるなど、「スポーツランドみやざき」をキャッチフレーズに、スポーツを地域振興に結びつける取組を進めています。
最近では、「縁起の良い・結果の出るキャンプ地」としても注目を集めています。たとえば、昨シーズンのプロ野球はセ・パ両リーグともに本県でキャンプを行っているチームがリーグ優勝しており、日本中が熱狂した2023ワールドベースボールクラシックでの侍ジャパンの優勝や、ラグビーワールドカップ2019における日本代表の初のベスト8進出なども記憶に新しいところです。さらに遡ると、2002年の日韓共同開催FIFAワールドカップで準優勝したドイツも宮崎で直前合宿をするなど、まさに勝ち運に恵まれる宮崎キャンプとなっています。
宮崎のスポーツキャンプといえば、読売巨人軍のキャンプをイメージされる方も多いのではないでしょうか。
読売巨人軍の宮崎キャンプは1959年からスタートし、今年で67年目を迎えました。この年は、「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄氏の入団2年目で、「世界のホームラン王」こと王貞治氏が入団した年。初の天覧試合では、ファンを熱狂させた長嶋氏のサヨナラホームランや初のONアベックホームランも記録され、チームは5年連続で優勝するなど、素晴らしい結果が出ています。プロ野球の歴史に刻まれるシーズンが、初めての宮崎キャンプの年だったのです。「縁起の良い・結果の出るキャンプ地」は、その時から始まっていたのかもしれません。
長嶋氏は、選手として、監督として、本県を訪れるたびに、多くの県民をはじめ、すべての皆さまに太陽のように明るく接し、元気を届けてくださいました。長年に亘る本県との関わりの中で残された足跡や数々のエピソードは、本県の宝です。
また、巨人軍や侍ジャパンがキャンプで使用する「サンマリンスタジアム」の名付け親の一人になっていただくなど、本県にとって、まさに今日の「スポーツランドみやざき」の礎を築いてくださった大功労者であると深く感謝しております。心より御冥福をお祈り申し上げます。
宮崎県では、2027年に「日本のひなた宮崎 国スポ・障スポ(以下、国スポ・障スポ)」が開催されます。現在、国民スポーツ大会のあり方について見直しの議論が進められているところですが、その方向性を先取りしつつ、「スポーツランドみやざき」を掲げる宮崎ならではの、全国のモデルとなるような大会を目指してまいります。そして、充実したスポーツ環境でアスリートをサポートするとともに、本県を訪れるすべての方々に対する心からのおもてなしにより、本大会を盛り上げてまいります。
2. スポーツ環境日本一への挑戦
少子高齢化や人口減少が加速する中、本県では、宮崎が全国に誇る強みを生かして未来を切り拓いていくため、3つの「日本一挑戦プロジェクト」に取り組んでいます。これは、本県が強みを有する「恵まれた子育て環境」や「全国トップクラスの農林水産業」、「優れたスポーツ環境」を生かし、これらの分野をさらに伸ばして日本一を目指すプロジェクトです。
その3本柱の一つが「スポーツ観光プロジェクト」です(図1)。スポーツ環境日本一への挑戦!を掲げ、スポーツ環境の充実により、地域経済の活性化や観光振興などの好循環の創出を目指しています。
その目標指標として、
① プロチームのキャンプ数全国1位(令和4年度:32チーム、全国2位)、
② 春期キャンプ・合宿の経済効果150億円(令和4年度:118億円)、
③ 国内外代表のキャンプ数20チーム(令和4年度:10チーム)
を掲げています。この目標達成に向け、次に掲げる3つの施策に取り組んでいます。
(1)世界レベルのキャンプ・大会の戦略的な誘致、受入体制の強化
本県には、これまでのキャンプ・合宿の受け入れで培った経験やノウハウが、官民それぞれにあります。この力を集約し、さらなる誘致・受入体制の強化につなげるため、県・市町村や競技団体で構成する「競技別キャンプ・大会誘致部会」を立ち上げました。
国スポ・障スポに向け整備される競技施設や、今後、誘致が見込まれる競技を中心に、ラグビーや屋内系競技、水泳、テニス、自転車競技の5つの部会を設置しています。部会ごとに、誘客やブランド力の向上が見込まれるキャンプや大規模大会をターゲットとして設定し、施設等の視察招致の対応から競技団体のニーズの把握、受入環境の整備、誘致に至るまで戦略的に取り組んでいます。
また、チーム・団体からの問い合わせに対するワンストップ窓口として県観光協会に「ひなたスポーツ観光ステーション」を設置し、スポーツ施設や宿泊施設、移動手段、練習相手等を紹介するなど、利便性の向上や受入環境の充実に取り組んでいます。
(2)戦略的・計画的なハード整備
本県が主体となり、シーガイアのオーシャンドーム跡地に、ラグビー、サッカー、陸上競技等の合宿拠点として活用できる「屋外型トレーニングセンター(アミノバイタル®トレーニングセンター)」を整備しました(写真1)。
2023年4月から供用を開始したこの施設では、日本代表レベルに対応した全面天然芝のピッチと、サッカーやラグビーの国際大会で実績のある天然芝と人工芝を組み合わせた「ハイブリッド芝」のピッチを備えるとともに、雨天時の屋内練習施設も整備しています。これまで、ラグビー日本代表やパラトライアスロン日本代表候補の合宿、Jリーグ、リーグワン、陸上競技実業団チーム等のキャンプに活用いただいています。
このエリアは以前より、ゴルフやトライアスロンのナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点の指定を受けており、今回の整備により、「スポーツランドみやざき」の新たな拠点として充実が図られました。
また、国スポ・障スポの主要施設として、アジア大会レベルの国際大会が開催できる「CLASS2」の認定を県内で初めて受けた「県陸上競技場(クロキリスタジアム)(写真2)」をはじめ、「県プール(パーソルアクアパーク宮崎)」、「県体育館(アスリートタウン延岡アリーナ)」の3つの施設を新たに整備しました。
さらに、県総合運動公園のテニスコート24面を、すべて世界標準のハードコートに改修する整備を進めています。24面のハードコートを備えた施設は全国でも少なく、そのうち6面が屋内コートで、天候に左右されない大会運営が可能となっています。今後、日本代表クラスの合宿や国際大会などを積極的に誘致することとしています。
(3)県内全域のスポーツ環境の充実
1979年の宮崎国体の際に、スポーツ施設を集中して整備した宮崎市内の県総合運動公園は、「スポーツランドみやざき」の礎となりました。そのさらなる発展に向けて、全県化・通年化・多種目化を進めることとしており、今回の国スポ・障スポでは、陸上競技場を都城市(県南)、体育館を延岡市(県北)、プールを宮崎市(県央)と、主要施設を分散して整備しました。そのことにより、県内各地にスポーツを通じた地域振興の拠点を築くこととしたのです。
また、各種競技の会場となる地元市町村に対しては、競技施設や合宿所の整備のための助成を行い、スポーツ環境の一層の充実に取り組んでいます。
これらの施設を中心に、国内外からの新たなスポーツキャンプ・合宿の受入れを進めるとともに、通年化・多種目化の効果を全県下に波及させ、スポーツによる地域の活性化につなげてまいります。
今年は、すでに新陸上競技場でのラグビーリーグワン公式戦の開催や、屋外型トレーニングセンターでのラグビー日本代表合宿の受入れを行っており、11月にはWBC2026に向けた侍ジャパンの秋期キャンプや、来年にはテニスのデビスカップ日本代表の合宿が決まっています。
海外からも、2月にニカラグアWBC代表チームの合宿をはじめ、4月には新プールにて競泳韓国代表チームの合宿を受け入れています。また、9月に開催される東京2025世界陸上に向け、イギリスとドイツの事前合宿の受入れが決まっています。
ちなみに、ニカラグアWBC代表チームは、台湾で行われた予選プールを全勝して本選進出を決めており、「縁起の良い・結果の出る宮崎キャンプ」の成果が現れたものとうれしく思います。
令和6年度のプロチームによるスポーツキャンプは、国内外代表チームが延べ9チームで、プロ野球8球団、Jリーグ16チーム、リーグワン7チーム、WEリーグ2チームの計42チームに実施いただいており、プロ・アマを合わせた令和6年度のキャンプ・合宿の状況は、延べ参加人数が208,457人と過去最高を記録しています。
3. スポーツツーリズムの推進
本県は、プロトーナメントで使用されるゴルフコースがいくつもある「ゴルフ王国」です。毎年、ダンロップフェニックストーナメントやJLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ、アクサレディスゴルフトーナメントが開催され、国内外から多くのギャラリーやゴルファーが訪れています。
2023年には、アジア最大の国際ゴルフツーリズム商談会「AGTC(アジア・ゴルフ・ツーリズム・コンベンション)」が、日本で初めて本県で開催されました。
翌年の「AGTCアブダビ2024」では、本県のゴルフ場の高品質なプレー環境に加え、ゴルフ場から空港までのアクセスの良さや美味しい食事などが総合的に評価され、東アジア地域において最も優れたゴルフ環境として表彰されています。
海外からは、直行便が就航している韓国から多くのゴルフ客に来県いただいています。さらに海外からのゴルフツアーの商品造成に係るワンストップ窓口を設置し、東南アジアや欧米豪のお客様にも来ていただけるよう取り組んでおり、「ゴルフ王国・みやざき」としてゴルフツーリズムを一層強化してまいります。
本県はサーフィン環境にも恵まれており、2019年ワールドサーフィンゲームスの舞台となった宮崎市の木崎浜をはじめ、日向市のお倉ヶ浜、金ヶ浜など、全国有数のサーフスポットがあります。全日本サーフィン選手権大会は、3年連続本県で開催されています。
ちなみに、本県で開催されたワールドサーフィンゲームスで優勝したブラジルのイタロ・フェレイラ選手が、初めてサーフィンがオリンピック種目に採用された東京大会で初代金メダリストに輝きました。ここにも宮崎の縁起の良さが現れているのではないかと、うれしく思ったエピソードです。
木崎浜については、今後、さらなるワールドクラスの大会誘致に向けて、アクセス道路や駐車場などの整備を行います。
こうした国際大会の開催を通じて知名度が向上し、県外からも多くのサーファーが訪れるようになり、サーフィンをきっかけとした移住にもつながっています。多くのサーファーの拠点となっている宮崎市内の青島では、商業地も住宅地も地価が上昇しています。また、近年ではアジアの富裕層を中心にサーフィン人気が高まっているため、海外のサーファー誘致にも力を入れています。
今、九州では、温暖で自然豊かな環境を生かしサイクルツーリズムを推進しており、その魅力を国内外に発信するため、2023年から「ツール・ド・九州」を実施しています。
今年10月の「ツール・ド・九州2025」には本県も初めて参加し、大分県と連携して大会初となる県境をまたぐコース(延岡~佐伯間)で開催します。
本県には、青島・日南海岸線沿いの景観の美しいコースをはじめ、綾と祖母・傾・大崩という2つのユネスコエコパークや、神話のふるさと高千穂の景勝地など、豊かな自然を生かした魅力的なサイクリングコースがあります。
今後とも九州各県と連携して大会を盛り上げ、国内外に九州のサイクルツーリズムや数々の魅力を発信してまいります。
また、今年で39回目を迎える青島太平洋マラソンも、美しい景観や走りやすいコースの魅力に加え、沿道からの温かい応援などがランナーに支持され、国内外から多くの参加をいただく人気のマラソン大会となっています。
4. スポーツによる好循環を目指して
本県のスポーツキャンプ・合宿の特徴として、交通アクセスに優れ、豊かな食や自然など、心身ともにリラックス・リフレッシュして練習に集中できる環境が整っていることが挙げられます。
県総合運動公園や屋外型トレーニングセンターは、宮崎空港から車で20~30分の距離に立地し、宿舎も近くにあるなど、移動時間のロスが少なく効率的なトレーニングに最適な環境にあります。新しい都城市の県陸上競技場や延岡市の県体育館も、高速道路からのアクセスが抜群の立地となっています。
また、全国和牛能力共進会において4大会連続で内閣総理大臣賞を受賞した「おいしさ日本一の宮崎牛」をはじめ、みやざき地頭鶏や、日向灘どれの新鮮な魚やうなぎ、完熟マンゴー、日向夏などの新鮮な果樹や野菜など、本県が誇る海の幸山の幸による食のおもてなしは本県観光の魅力でもあり、スポーツツーリズムを推進するうえで大きな武器の一つとなっています。さらに、昨年、ユネスコの無形文化遺産に「伝統的な酒造り」が登録されましたが、宮崎は11年連続で焼酎の出荷量が日本一となっています。
本県では、日本代表チームや好成績を収めたチームや選手が来県されるとき、宮崎空港で歓迎セレモニーを行ったり、宮崎牛やマンゴーなどの県産品を贈呈して激励したりしています(写真3)。穏やかで優しく、訪れた人を温かく受け入れる県民性も、本県の魅力の一つです。
ところで、昨年、「サンマリンスタジアム宮崎」で日向坂46による「ひなたフェス」が開催され、国内外から4万人の「おひさま(日向坂46のファン)」が集結し、大いに賑わいました。天然芝のスタジアムとして、初めて野球以外の音楽イベントでの活用が実現し大成功を収めました。この経験を踏まえ、本県が誇るスポーツ施設について、イベント開催など幅広く活用することにより、経済の活性化や観光振興など好循環の創出につなげていきたいと考えています。
スポーツ環境日本一への挑戦、「世界基準」のスポーツランドみやざきというコンセプトのもと、この宝をさらに磨き上げ、県民がふるさと宮崎に誇りを持ってもらうとともに、「スポーツランドみやざき」の一層の推進を図り、宮崎の未来に結びつくよう全力で取り組んでまいります。