思索の窓
地方創生2.0と《感性》
2025年10-11月号
2025年は「令和の日本列島改造」と位置づけられた地方創生2.0の船出の年。過去10年間の地方創生1.0の取組みの結果は「若者や女性の地方離れの動きが加速」、「人口減少、東京一極集中の流れは変わらず」と総括されたことに異論はなかろう。
ここで得られた教訓は、各地に好事例が生まれるまでには相応の時間を要すること、好事例を他地域へ普遍化することは容易ではないこと、目的意識の異なる多様なステークホルダーが形式的に関与するだけの広域連携の成果は乏しい、ということ。未だ逆境の最中にある地域経済の現状は、高揚感のあったかつての「昭和の日本列島改造」とは全く様相が異なる。
今年6月に閣議決定された今後10年間を対象とする基本構想の政策5本柱において、核心は①若者や女性にも選ばれる地域づくりと、②地域資源(多様な食や伝統産業、自然環境や文化芸術の豊かさなど)を最大限活用した高付加価値型の産業・事業の創出=地方イノベーション創生にある。その実現へ向けて、③移住や企業移転の促進、関係人口(交流以上、定住未満)の拡大、④GX・DX時代のインフラ整備とAI・デジタル等の新技術の社会実装、⑤産官学金労言士が一体となった広域リージョン連携が謳われている。弊所が今年度上期に携わった催しの中から、上記に照らして示唆に富む事例を2つ紹介したい。
一つは、地銀系シンクタンクを主対象に開催した「地域経営・ソリューション研修」の講師・村岡浩司氏((株)一平ホールディングス社長)の実践例(②×⑤)。中央目線とは異なる「地元」創生のプロデューサー的役割を担う氏は、オール九州素材を組み合わせて「九州パンケーキ」を創作。拠点の宮崎から九州全域を視野に入れた“ONE KYUSHU”を旗印に、越境の眼差しは世界をも見据える。また、次世代起業家の育成にも奮闘する姿は、志と覚悟をもって多様なステークホルダーを巻き込み、成果が出るまでやり抜くアントレプレナーとしてのお手本だ。
もう一つは、瀬戸内国際芸術祭(以下、瀬戸芸)期間中に、(株)百十四銀行のご厚意により高松市で共催した「豊かなまちと人財づくりシンポジウム」でのパネリストの発言。池本正純氏(専修大学名誉教授)は“イノベーションとは単に技術革新のことではなく、企業の内外に潜む不均衡を発見し、その解決のためのビジネスモデルを再構築すること。なかでも現代は連携する力が必須。瀬戸芸自体が実はイノベーションそのもの”と力説した。
直島の角屋に始まる集落再生の取組みが瀬戸内海の島々に広がったのは、灯台下暗しに陥りがちな地域資源が、「よそ者(関係人口)」の感性で掘り起こされ、行政等を含めて地元住民が自分事として主体的に関わるようになったことが大きい。その連携の相乗効果を見逃してはならない(②×③×⑤)。
瀬戸芸の熱心なボランティアサポーターであり、「社会的共通資本」の提唱者を父に持つ占部まり氏(宇沢国際学館代表・内科医)も関係人口のお一人。“正解のないもの、分からないものを受け入れる力が大切。変人が世の中を変え、凡人がそれを支える。変人が理解されるには時間が必要”と語った。
2つの事例に通底する本質、そして地方創生2.0で最も試されるのは、既成の思考の枠組みに囚われず、新しい時代の価値観を創り出す“ひと”の感性ではないか。しなやかな感性こそがイノベーションの源泉であり続けるに違いないと、アートのパワーに期待を膨らませたとき、ある著名アーティストの書き留めた詞(ことば)が脳裏に浮かんだ。
私は24時間考えている 私 そのものです
ですが 私にも 未来のこと 分かりません
ただ予定調和な運びとならないように
日々 感性の扉 開けたいと思います