『日経研月報』特集より
長野市の取り組む「スポーツを軸としたまちづくり」について
2025年10-11月号
私は、長野市に甚大な被害をもたらした令和元年東日本台風災害からの復旧・復興に向けた取組みと、世界的に猛威を振るった新型コロナウイルス感染症が蔓延した 2021年(令和3年)11月に長野市長に就任しました。
就任にあたり長野市のスポーツ環境を自分なりに改めて見つめなおすと、長野市は、他のどの都市と比較しても非常に優れたものがあるとの思いを強くしました。ただ、そこに暮らしているとその環境が当たり前のものになってしまい、その有難みを意識することができなくなっていきます。そのため、客観的な評価を行う必要があることから、長野市のスポーツ環境の現状分析と再評価するための調査を実施しました。
調査結果では、長野市の特徴・強みとして、首都圏からのアクセスが良好で、大規模なオリンピック施設や社会体育館など100を超えるスポーツ施設があり、地理的・気候的特性から、夏場・冬場で違ったバラエティに富んだスポーツに親しめることが大きな特徴とされています。
さらに、市民が長野オリンピック・パラリンピック冬季競技大会を経験したことにより、スポーツに対するボランティアマインドが高く、そのことが、スポーツ環境の充実を支えているとしております。
加えて、AC長野パルセイロトップ・レディース、ボアルース長野、信州ブレイブウォリアーズの4つのプロスポーツチームが存在し、スポーツで「人」と「まち」が共に成長・発展を目指す体制が整っています。
以上のことから、世界有数のオリンピック施設、スポーツに対する受容性の高さやボランティア精神などハードのみならずソフトを含め、群を抜いたポテンシャルの高さを有するとの評価をいただきました。それは、長野市の大きな「強み」であり、「価値」となっております。
次に、これまでスポーツ施設については、コストと収益を比較した「経済価値」に偏った評価がされていると感じており、健康寿命の延伸やコミュニティー形成、シビックプライドの醸成等定量化が難しい「社会価値」についても分析を行い再評価しました。施設の性格に応じて、スポーツ興行等により収益や経済効果を発揮できる施設については、その機能を強化して「経済価値」を高める。市民利用により健康増進や競技者の育成、シビックプライドの醸成等に寄与する施設については、「経済価値」とのバランスをとりながらも「社会価値」を高めるとし、施設に応じた「価値」の最大化に向けた課題と方向性を整理しました。
これらの優れたスポーツ環境を土台としながら、アクティビティやイベント、コンベンション等で市外からの来訪目的の創出と地域密着のプロスポーツチームをハブにした産業創出を二つの柱として、肥沃な土壌から養分を吸い上げリンゴの果実を実らせるように、さまざまな分野との掛け合わせで、地域課題の解決や地域の活性化を図り、まちづくりに繋げてまいりたいと考えております。
一方で課題もあります。長野オリンピックを体験した世代とそうでない世代の経験格差が顕著であり、優れたスポーツ環境を維持・継承していくためには、その格差を埋めていく作業も必要です。そこで、令和5年度には、行政とプロスポーツチームが強力に連携し、さまざまな企業の参画を得ながら、長野オリンピックの開会式と同じ2月7日に市内小中学生約5,000人をホーム試合の観戦に招待するキッズドリームデーを開催しました。これは、教育委員会と綿密に連携し、事前・事後の学習を含め「学校教育の一環」として行ったもので、長野オリ・パラの一校一国運動で培った交流や応援観戦の体験が、今なお教育現場に息づいていることから実現できたものと分析しています。これはまさに、オリンピックの擬似体験の場として、当時の経験や熱意などを次代に引き継ぐものと考えています。
現在、スポーツを他分野と掛け合わせ、戦略的な取組みを進めるための調査研究を進めており、今年8月には各分野の有識者で構成する「長野市スポーツを軸としたまちづくりのための政策懇話会」を立ち上げ、専門的かつ多角的な意見をお聴きし、施策の具現化に繋げてまいります。既に観光分野と掛け合わせ、近隣市町村と連携したプロスポーツチームを含めた合宿誘致を進めており、「スポーツを軸としたまちづくり」が具体的な形として進んでおります。
今後、ますますこの取組みを加速しながら、「スポーツを軸としたまちづくり」を推進し、「世界屈指のスポーツタウン長野」の実現を目指して挑戦してまいります。