『日経研月報』特集より

IGアリーナが描く、愛知発のエンターテインメント革命~アジアから世界へとつながる新たな舞台、日本初のグローバルアリーナ~

2025年10-11月号

上村 哲也 (うえむら てつや)

株式会社愛知国際アリーナ(IGアリーナ運営会社)COO補佐 兼 広報渉外室長

1. はじめに

日本初の本格的なグローバルアリーナとなるIGアリーナが、2025年7月13日の大相撲名古屋場所初日にグランドオープンしました。
IGアリーナは、愛知県名古屋市に誕生した日本最大級の最大収容人数17,000人を誇るアリーナとなります。スポーツ観戦に適したオーバル型の客席とコンサートに適した馬蹄型客席配置を融合させたハイブリッドオーバル型アリーナで、グローバルスタンダードのハードとソフトを備え、スポーツとエンターテインメントの楽しみ方に新しい選択肢が広がるグローバル・スマートアリーナがここに誕生しました。
IGアリーナは名古屋駅や栄駅からの抜群のアクセスを誇る名城公園の一角に位置します。名古屋市営地下鉄名城線「名城公園駅」から徒歩0分。お立ち寄りの際は名城公園の散策や、近隣施設・商店街、名古屋城の観光などもお楽しみいただけます。
アリーナビジネスは経済産業省・スポーツ庁が提唱するスポーツの成長産業化の核としても期待を寄せられており、IGアリーナは「GLOBAL-ワールドクラスのエンターテインメント体験を。」、「SMART-イノベーションの力でつながる驚きと幸せを。」、「COMMUNITY-地域と共生し発展するスポーツ・文化の拠点を。」をコンセプトに、世界に誇る「ココロオドル」スマートアリーナを目指して、計画が進みました。
アリーナ・スタジアムを合わせて「べニュー」と呼びますが、日本のべニュービジネスは現在3.0世代を迎えています。1.0は戦後の国体に合わせた運動公園の開発。2.0はプロスポーツによる指定管理・運営権を導入した一体推進。3.0は北海道や長崎のべニューに代表されるようなエリアマネジメントや商業施設を併せ持ったべニューを指します。IGアリーナは都市公園の中にあるため商業施設は有しませんが、近隣に商店街や商業施設、文化施設があることからIGアリーナエリア連絡協議会を立ち上げてエリア全体としての賑わい創出を推進しています。

2. 日本初の本格的な「グローバル・スマートアリーナ」

日本のアリーナでトップ5となる最大収容人数17,000人。そして30mの天井高。スポーツ観戦に適したオーバル型とコンサート鑑賞に適した馬蹄型客席配置を融合させたハイブリッドオーバル型のアリーナ形状を有しています。
IGアリーナは世界標準の厳しい音響クライテリアの設定や天井高を活かしたつり下げ荷重100トン超を実現する天井フック等、国際的なアリーナが具備する設備をすべて備えたグローバルアリーナです。また、スマートアリーナとしては、ドコモのミリ波基地局、「Wi-Fi 7」、IOWN APNなど、ネットワークも充実させ、250を超えるサイネージを含む、エンターテインメントプレゼンテーションを完備、完全キャッシュレスでモバイルオーダーのできる「IG Arena 公式アプリ」等さまざまなシーンでICTとのつながりを体感できます。
なごやめしから日本・世界のグルメと食の世界旅行ができる約20店舗の飲食店の他、d CARD LOUNGEやMUFG Suiteをはじめとするホスピタリティエリアの充実など、海外の観戦・鑑賞スタイルを導入しています。
ホームテナントは大相撲名古屋場所およびB1リーグ所属クラブ「名古屋ダイヤモンドドルフィンズ」です。Bリーグのホームアリーナとして最大のキャパシティを誇ります。
開業前のプレイベントでは映画音楽の巨匠ハンス・ジマー氏を招聘。開業式典のオープニングアクトは滝沢秀明さん(株式会社TOBE代表取締役)が演出を担当する等グランドオープン前から話題を呼びました。グランドオープン以降も8月「BLACK SAMURAI 2025 THE CAMP」、9月「NTTドコモ presents Lemino BOXINGトリプル世界タイトルマッチ 井上尚弥 vs ムロジョン・アフマダリエフ」、12月「ISUグランプリファイナル国際フィギュアスケート競技大会2025愛知・名古屋」、2026年「アジア競技大会・アジアパラ競技大会」、2027年「B.LEAGUE ALL-STAR GAME 2027」や国内外のアーティストによるコンサート等が目白押しとなります。
数多くのイベントを通してスポーツ・エンターテインメントのココロオドル体験ができる新たなランドマーク、それがIGアリーナです。

デザイン

デザインは建築家・隈研吾氏が外観と内観の一部を担当し、名城公園の木々と樹木形状の外装が連続したような外側の樹形アーチと内側の木陰天井により視覚的な連続性をつくった樹形アリーナです。かつての相撲小屋の歴史を継承し歴史のつながりをもたせた組みの樹形アーチから太陽が差し込み、木漏れ日を受けるノキサキ・ヒロバ・ミチがゲストをお迎え。大樹の木漏れ日・木陰に人が集まるように、アリーナに人が集まってほしいという願いがこもっています。

ICT

IGアリーナでは「コンサートで選曲を観客が決める」、「バスケットボールのリプレイを手元で視聴する」等スポーツ・エンターテインメントの楽しみ方を拡げる世界初、アジア初の通信環境をご用意しており、スマートアリーナを体感していただける場所となります。

通信環境

17,000人が同時利用可能な5G通信環境を備え、IOWN APN、ドコモのミリ波基地局装置、「Wi-Fi 7」が導入されています。
また NTTグループが提供するAPN IOWNは「高速・大容量」、「低遅延・ゆらぎゼロ」という特性があります。アリーナと他のイベント会場をリアルタイムでつなぐことで、2つの拠点が一体となる演出での新たなエンターテインメント体験をお届けします。最大収容人数が15,000人を超えるアリーナに開業初年度からAPN IOWNを導入するのは世界初です。
アリーナ内の通信環境の向上のために導入されたドコモのミリ波基地局装置や「Wi-Fi 7」により、ライブやスポーツイベントにおいて、多くのお客様が快適にイベントの模様をSNS投稿できるなど、快適な通信環境を提供します。

公式アプリ

開業に合わせてローンチした「IG Arena 公式アプリ」では、IGアリーナで開催されるイベントの最新情報のご確認やイベントのチケット購入、アリーナ内の飲食店でのモバイルオーダーをご利用いただけます。飲食店でご使用いただけるおトクなクーポンなども配信するほか、モバイルオーダーでは、dポイントをためる・つかうことができます。モバイルオーダーやdポイントのご利用により、おトクにかつ飲食店にも並ぶ必要なく快適にアリーナをお楽しみいただけます。
また、IGアリーナで開催されるイベントをイベントの開催前からお楽しみいただけるよう、コンテンツ配信機能にてイベント開催の前後やイベント当日の会場で、イベントに合わせた各種コンテンツをお届けします。

パートナー

グランドオープンを迎え、ネーミングライツパートナーのIG証券をはじめとして16社の企業様にIGアリーナパートナーとしてご参画いただきました。
IGグループはオンライン金融サービスのリーディングカンパニーで、ロンドンに本社を構え日本を含む世界19拠点で事業を展開し、2024年2月に本アリーナのネーミングライツ取得を発表しました。
IGアリーナ内では、「IG証券ブランド体験ゾーン」をはじめ、金融とエンターテインメントが融合した多彩なブランド体験を提供いたします。

ホスピタリティエリア

個室付きのスイート「MUFG Suite」とプレミアムラウンジである「d CARD LOUNGE」。2種類のプレミアムな楽しみ方があります。

・MUFG Suite(スイート)

IGアリーナ3階全40室のスイートからなるフロアです。ご契約いただいたお客様はIGアリーナで開催されるほぼすべてのイベントが観覧できます。
専用エントランスからアクセスでき、モダンなデザインと上質な素材が調和した空間で心に残る贅沢な体験ができます。また、名古屋城を一望できる「IG Castle View Bar」で特別な時間をお過ごしいただけます。

・d CARD LOUNGE(プレミアムラウンジ)

IGアリーナの2階にあり、各イベントのラウンジ利用券付チケットを購入した方のみが利用できるプレミアムラウンジです。愛知県の三河地区と尾張地区をイメージしデザインされた空間の中で、くつろぎながら開演までの時間を過ごすこともできます。
また、名古屋最古の料亭の運営会社が握りたての寿司などのこだわりのメニューを提供する2つの飲食店舗「BUNZAEMON」、「THE KITCHEN by Plan Do See Inc.」および、ジャパニーズクラフトジンやプレミアムウイスキーを活用した特別なドリンクを提供する「六 ROKU SUNTORY PREMIUM BAR」と「The PREMIUM MALT’S 神泡。Bar」があり、飲食を楽しみながらスポーツ観戦やライブ鑑賞ができます。

3. IGアリーナがつなぐ地域と未来

IGアリーナは、単なるイベント会場の枠を超え、地域全体を巻き込んだ文化発信のハブとしての役割を担っています。周辺の商店街、施設、教育機関、住民代表、行政など、多様なステークホルダーが参加する「IGアリーナエリア連絡協議会」を組成し、アリーナ内外で訪れるゲストを迎えるための協議を重ねています。この取組みは、地域全体で一体となってもてなしの心を共有し、エリア全体の価値を高めることを目指しています。
愛知・名古屋は、江戸時代から文化の発信基地として栄えてきた歴史を持つ一方、近年ではイベント数の少なさが課題とされてきました。IGアリーナは、こうした課題に応えるべく、最新の設備と効率的な運営体制を整え、イベントを行いやすい環境を提供しています。例えば、11tトラックが直接乗り入れ可能なアリーナ面や、充実したチケットサービス、ゲストオペレーションなど、世界基準の設計と運営哲学を備えています。これにより、国内外の多様なイベントをスムーズに開催できる環境を実現しています。
さらに、IGアリーナはロンドンのO2アリーナやロサンゼルスのCrypt.comアリーナと姉妹アリーナ提携を結び、運営会社AEGのグローバルなノウハウを活用しています。これにより、年間200イベント・200万人の集客という高い目標を掲げています。この数字は容易に達成できるものではありませんが、地域との連携を深めながら、日本そして世界中から多彩なイベントを招聘し、エリア全体の価値を高めていくことを目指しています。
また海外のアリーナではお客様の受け入れスタッフやチケットサービス、舞台管理スタッフ、物販システム提供等さまざまなサービスをワンストップですべてアリーナ側が提供し、イベント興行主はパフォーマンスに集中できる環境が整っており、これによりイベントの開催数を大幅に増やすことができています。そういった哲学はここIGアリーナにも引き継がれており、自前のゲストオペレーションやチケットシステム、飲食店舗運営のサービスを提供しております。これによりイベント主催者はよりカジュアルにイベント開催が可能となり、開催数をより増やすことによりお客様に日常的にエンターテインメントを楽しんでいただけるという好循環が生まれます。こういうアリーナが日本国内で他にも増えることにより、よりエンターテインメントの選択肢がお客様にとって身近になり、楽しめる環境が増えることを願います。
IGアリーナは、単なるイベント会場ではなく、毎日異なるコンテンツが楽しめる「変わり続けるテーマパーク」のような存在です。地域の歴史や文化を継承しつつ、未来に向けた新しい価値を創造する場として、訪れるすべての人々に驚きと感動を提供します。地域と世界をつなぎ、文化と経済の好循環を生み出すIGアリーナの未来に、ぜひご期待ください。
~この原稿をIGアリーナプロジェクト初期から携わられた故・桂田隆行さんに捧げます。~

https://www.ig-arena.jp/events/

著者プロフィール

上村 哲也 (うえむら てつや)

株式会社愛知国際アリーナ(IGアリーナ運営会社)COO補佐 兼 広報渉外室長

ドイツ生まれオーストラリア育ちのスポーツマーケター。学生時代にシドニーオリンピック・パラリンピックスタッフとして世界大会運営に携わり、スポーツビジネスの世界へ。日本テレビグループから社会人キャリアを開始し、ラグビーワールドカップ2019日本大会、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の両組織委員会でマネージャーを務めた後、NTTドコモに転じる。IGアリーナプロジェクトを2021年より担当し、現職。趣味は100㎞以上を走るウルトラマラソン。