ホッとコラム
箱根駅伝観戦とイノベーション ~勝負は復路にあり~
2025年12-2026年1月号
――箱根駅伝はイノベーションの宝庫である。
箱根駅伝が大好きだ。TV中継を昭和64年大会から37年間欠かさず見続け、ネット情報等も毎年隈なくチェックする。そんな私が箱根駅伝観戦を題材に、イノベーションについて考察した推し活コラムである。気楽に、そして少しだけ真剣に読んでいただければ幸いだ。
正式名は東京箱根間往復大学駅伝競走。東京大手町~箱根芦ノ湖間を往路5区(1月2日)、復路5区(1月3日)の合計10区間217.1kmで競う。今度が第102回、関東圏の20大学+1チームが出場する。
定点観測していると、さまざまな進化が見えてくる。厚底シューズ、走法・トレーニング、当日ピーキング、声掛けコーチング、TV中継技術等、イノベーションの要素は枚挙に暇がない。以下、二つの論点に絞る。
まず「イノベーションのジレンマ」のケース事例となりうる。一つの大学の黄金期は長続きしない。ある大学が勝利の方程式を築き、それを乗り越えようと別の大学が新戦略を編み出す。強かった大学ほど成功の罠に陥りやすい。平成は外国人留学生登場の破壊的イノベーションで幕を開け、エース以外は全員平均ペース走行、厚い選手層を活かして復路逆転、山の神アドバンテージ構築、往路からの主力投入、等の戦略変遷があった。一例として復路逆転確率(総合優勝校と往路優勝校が違う大会/総大会数)をカウントした。
20世紀25%、21世紀40%
(うち2001~10年60%、2011年以降27%)
21世紀初めの10年が高い。この時期4連覇を達成した駒澤大は往路優勝にこだわらず、復路でじりじり差を詰めて最後に逆転する、正に横綱相撲だった。ところが2011年以降同確率は再び低下した。青山学院大を筆頭に、先行逃げ切り戦略が主流となったからだ。○○大作戦、復路はピクニックラン等が有名である。
往路が華やかになった分、復路は地味に見られがちだ。単独走が多く、先頭とシード権争い以外はTVに映りにくい。だが、山下りの6区、次世代エースが集う7区、遊行寺の坂が待つ8区、復路のエース区間9区、勝負の10区と見どころ満載だ。さらに各校監督から、今度は復路までもつれそうとのコメントも出ている。勝負は復路にあり、が戻ってくる予感がする。
次に「ペルソナ」も試せる。思うに箱根駅伝の魅力は、監督や選手がおりなす物語にある。キャラクターがわかれば感情移入しやすい。会社員人生が後半戦真っ最中の私は、復路にて最初で最後の箱根駅伝を走る4年生に注目する。TVに映ったらプロフィールを復習し、気持ちを想像する。選手ファーストを忘れず。
~なかなか前が見えない。ギアを上げるか悩んでいる間に強い下級生が追いついてきた。後ろにはつかず並走する(逃げちゃダメだ。窓際族の意地を見せてやる)。すると運営管理車の監督から「4年間ありがとう。ラストランだ。絞り出すぞ」と檄が飛ぶ(悔いは残さねえ。誰か私も励まして)。そして笑顔のタスキリレー(後は頼みます。でもまだ辞めたくない)~
薄汚れた大人の邪念が少々入ってしまったが、選手の気持ちにもなれた筈だ。色々な思いが溢れ、涙がこぼれてくる……。ちなみに私がなぜ駅伝観戦で泣くのか、周囲の理解が得られない(妄想だからね……)。寂しい。だが、日々挑戦を続けるイノベーターの孤独とはこのようなものかと納得する。
なお、復路はハンカチ必須ポイントが他にもある。監督の声掛け、横浜駅前の4年生同士による給水、鶴見中継所の直線でぎりぎり間に合わず繰り上げスタート、シード権争いからの脱落、歓喜の瞬間等多くの物語が交差する。私は1月2日往路で盛り上がり、3日復路で泣き腫らし、4日は抜け殻となる。
今度の箱根駅伝、あなたもぜひ「復路」に注目しながら、イノベーションのアイデアを見つけてみてはいかがだろうか。
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