令和6年度子ども・子育て支援調査研究事業 認可外保育施設に対する指導監督の実施における標準化に向けた調査研究[調査報告]
2025年12-2026年1月号(Web掲載のみ)
1 はじめに
近年、共働き家庭の増加や家族の形態の多様化、少子化等を背景として、保育施設に期待される役割は重要性を増している。こうした社会的変化により、保育施設に求められる機能やサービスの幅が広がり、柔軟かつ多様な保育の受け皿が必要とされている。
保育施設は、主に認可保育所や認定こども園等、都道府県等からの認可を受けて運営される「認可保育所等」と、それ以外の「認可外保育施設」に大別される。認可保育所等は、開設にあたり児童の定員や保育室の面積等に厳格な基準がある一方、認可外保育施設は、後述する指導監督基準の範囲内で比較的自由度の高い保育サービスの提供が可能になっており、多様な保育ニーズの充足に重要な役割を果たしている。
認可外保育施設が適正に運営されているかの確認にあたっても、国の定める指導監督基準に基づき、保育所を管轄する都道府県等が指導監督を行っているところであるが、認可外保育施設はその保育内容の自由度の高さから、各施設の状況を踏まえた指導監督基準の解釈が都道府県等職員に求められる。このことから、都道府県等職員の指導監督基準の理解を促進し、専門的な視点で立入調査ができる人材を増やすことと、全ての都道府県等を通じて統一的な取扱いにより指導監督が行われることが課題となっている。
そこで、(株)日本経済研究所では、都道府県等における認可外保育施設や、施設への指導監督状況等の基礎的情報及び指導監督内容で判断や解釈を迷った点やその解決方法等の工夫点について調査した上で、都道府県等職員の指導監督業務にあたり、これまで以上により一層参考となるよう、過年度の子ども・子育て支援調査研究事業で作成された指導監督事例集及びQ&A集を更新した。
なお、本調査はこども家庭庁の補助を受けて実施したものであり、「令和6年度子ども・子育て支援調査研究事業 認可外保育施設に対する指導監督の実施における標準化に向けた調査研究報告書」としてとりまとめ、弊社ホームページ(https://www.jeri.co.jp/report/parenting-r6/)、及びこども家庭庁ホームページ(https://www.cfa.go.jp/policies/kosodateshien/chousa/chosakenkyu/r06-01)に掲載している。
本稿ではその一部を抜粋し、紹介したい。
2 認可外保育施設の指導監督の状況調査
こども家庭庁により例年実施されている「認可外保育施設の現況取りまとめ」を基に、最新の認可外保育施設の状況や、都道府県等による指導監督状況を把握すべく、令和5年度末時点における都道府県等の認可外保育施設の指導監督の状況を調べた。
認可外保育施設は、乳児又は幼児を保育することを目的とする施設であって、児童福祉法や認定こども園法による認可を受けていない保育施設を指し、以下の施設が含まれる(表1)。

(1)調査の概要
ア 調査対象
都道府県、指定都市、中核市及び児童相談所設置市 計137か所
回答率 100%
イ 主な調査項目
(ア)施設数、入所児童数の状況について
・届出対象施設数の変動状況、増減理由
・届出対象施設の入所児童数 等
(イ)立入調査の実施状況
(ウ)立入調査結果及び指導状況
・「指導監督基準に適合していないもの」についての最終的な指導状況
・指導監督基準に適合していない主な項目 等
ウ 調査実施時期
令和6年10月から同年12月まで
(2)調査結果の概要
ア 施設数の状況
認可外保育施設は、平成20年度の統計開始から概ね令和2年度にかけて増加したのち、令和2年度以降はやや減少傾向にあるものの、高止まりしている。令和5年度の施設数は、前年度の19,955施設から16施設増加し、19,971施設となった(図1)。

令和5年度末の施設数の内訳をみると、「事業所内保育施設」が最も多く8,333施設(41.7%)、次いで「認可外の居宅訪問型保育事業」が6,949施設(34.8%)と多かった。前年度との比較では、「認可外の居宅訪問型保育事業」以外のすべての区分で減少しており、特に「事業所内保育施設」では前年度の8,579施設から8,333施設と、もっとも減少数が多かった(表2)。

イ 入所児童数の状況
次に、認可外保育施設の入所児童数についてみる。入所児童数は、平成29年度以前はデータがないものの、令和元年度以降、減少傾向にある。令和4年度から令和5年度にかけては、226,985人から218,752人と、8,233人の減少となった(図2)。

令和5年度末の施設区分別の入所児童数内訳を見ると、施設数と同様に「事業所内保育施設」の入所児童数が最も多く、全体の半数以上を占めている。一方、「認可外の居宅訪問型保育事業」の入所児童数は7,061人と全施設区分の中で最も少なかった。
令和4年度と令和5年度の比較では、「その他の認可外保育施設」で令和4年度の86,888人から令和5年度の82,297人と4,591人減少した。反対に、「認可外の居宅訪問型保育事業」の入所児童数は117名の増加となっている(表3)。

ウ 立入調査の実施状況
令和5年度の立入調査の実施率は64.2%と、昨年度の61.1%から3.1ポイント上昇している。ただし、本来は全施設への立入調査が望ましいとされているところ、100%には至っておらず、引き続きの取組みが求められる。特に「認可外の居宅訪問型保育事業」、すなわちベビーシッターで実施率が低く、この区分での実施率は33.9%となっている。これについては、後述する3の実態調査の結果から、所在不明となり連絡が取れない事業者が多くいることがわかっており、立入調査実施率の低さに関連していると考えられる(図3)。

エ 立入調査の実施結果
次に、立入調査の実施結果を見ると、全体では74.3%の施設がすべての基準に適合している。施設の種類別に見ると、「事業所内保育施設」では適合率83.4%と全体を上回るものの、「ベビーホテル」と「居宅訪問型保育事業」ではそれぞれ56.7%、56.8%と低くなっている(表4)。

3 指導監督事務の参考となる事例集等作成のための実態調査
指導監督基準の理解を促進し、専門的な視点で立入調査ができる人材を増やすとともに、事例集及びQ&A集のどのような点をより充実させれば、すべての都道府県等を通じて統一的な取扱いにより指導監督が行われるかを把握するため、指導監督内容で判断や解釈を迷いやすい点に関して都道府県等がどのように工夫をし、解決を図ったかについて、実態を調査した。
(1)調査の概要
指導監督は、主に「認可外保育施設の指導監督の指針」(以下、指針)及び「認可外保育施設指導監督基準」(以下、基準)の2つが根拠となっている。令和5年度子ども・子育て支援調査研究事業「認可外保育施設に対する指導監督の実施における標準化に向けた調査研究事業」の調査では、「指針」及び「基準」のうち、解釈に迷う項目について都道府県等担当者にたずねている。今回の調査では、解釈に迷うという回答が多かった項目について、状況を更に深堀りし、指導監督業務の所管部署として解釈及び判断をどのように行ったかをたずねた。また、立入調査実施率を向上させるために、都道府県等の立場から「あるとよい」と思う支援についても意見を聞いた。
ア 調査対象
都道府県、指定都市、中核市及び児童相談所設置市 計137か所
回答率 93.4%
イ 主な調査項目
(ア)「指針」及び「基準」に関する質問
・確認方法及び確認を踏まえた判断の過程、結論
(イ)立入調査実施率向上に関する質問
ウ 調査実施時期
令和6年10月から同年12月まで
(2)調査結果の概要
ア 「指針」及び「基準」に関して
調査の結果、判断に迷うという回答が多かった主な項目は以下のとおりである。
○認可外保育施設としての届出対象施設の決定
調査の結果、都道府県等からは、「指針」に記載された基準のうち「届出対象施設」の記載について、判断に迷うという回答が26.6%と多かった。認可外保育施設への指導監査は、主に認可外保育施設としての届出のあった保育施設に対して実施されているが、多様な保育サービスが提供されている中、都道府県等では、そもそも該当の施設が認可外保育施設としての届出の対象になるかの判断に迷っている状況が見受けられる。判断に迷った具体的な事例としては、園舎を持たず、レンタルスペースを利用して定期的に保育を実施する事業者の事例、キャンピングカーで保育する事業者の事例等が挙げられた。
○所在不明のベビーシッターの取扱い
また、認可外保育施設については、事業を廃止する際には事業者から都道府県等宛に廃止届を提出することが求められている。しかし、特に認可外の居宅訪問型保育事業(いわゆるベビーシッター)について、43.8%の都道府県等が、「廃止届が出ていないにも関わらず、所在がわからなくなってしまい立入調査実施や運営状況報告の提出を求められない事例」が“ある”と回答した。所在不明のベビーシッターの取り扱いに苦慮し、立入調査が実施できない結果、立入調査実施率が低下している状況が見受けられる。
○保育従事者の複数配置原則の例外適用可能性
このほか、「基準」の記載内容については、保育従事者の複数配置の例外適用について、判断に迷うという回答が21.1%と多くみられた。指導監督基準においては、保育従事者を複数配置することが定められているものの、例外規定(「また、1日に保育する乳幼児の数が6人以上19人以下の施設においても、原則として、保育従事者が複数配置されていることが必要であるが、複数の乳児を保育する時間帯を除き、保育従事者が1人となる時間帯を必要最小限とすることや、他の職員を配置するなど安全面に配慮することにより、これを適用しないことができる」)があり、この例外規定の適用可否の解釈に迷うという回答が多かった。昨今、保育の現場では人員不足が課題となっており、そうした中で複数人配置の指導をすることに慎重にならざるを得ない旨の自治体担当者の記載も見られた。
○乳幼児の健康診断
また、同じく「基準」では、乳幼児に対し施設で1年に2回の健康診断を実施すること、施設で健康診断が実施できない場合、保護者から健康診断書の提出を受けることを求めているが、この記載についても、34.4%の都道府県等から判断に迷うとの回答を得た。具体的な事例では、施設から保護者に依頼しても健康診断書等が提出されない場合の施設への指導方法等が挙げられた。
イ 立入調査実施率向上に関して
立入調査の実施率が60%台であることから、どういった支援があれば立入調査実施率が向上すると考えるか聞いたところ、「実態の把握がしやすくなるような施設設置の届出の基準や仕組み上の工夫」という回答が30.5%と最も多かった。次いで、「活動していない・転居している事業者についての取扱を整理する」が28.9%と多く、先述のとおり、廃止届を出さず、所在不明となってしまう事業者への対応に都道府県等が苦慮しており、対応が望まれている様子が見てとれる。
ここまでの内容を通してみると、指導監督基準は、各都道府県等の状況に応じた判断を促す観点から、自治体なりの解釈の余地を残した内容となっている一方、実際に指導監督業務にあたる担当者にとっては、保育サービスが多様化する中、指導監督基準の中に明示されていない事例に遭遇した際、文脈に応じた自治体独自の解釈が求められることが負担となっていることが見受けられる。
4 指導監督事務の参考となる事例集の更新
ここまでの調査結果を基に、都道府県等の担当者向けに、指導監督業務の参考となる事例集を更新した。更新にあたっては特に、指針や基準を参考に、各自治体が自ら判断するための行動を支援するという観点から、他自治体の参考となる事例を抽出し、以下の事例を追加又は更新した。
追加した事例の概要は以下のとおりである。
○認可外保育施設の所在等の状況把握と、情報共有や施設への通知・連絡を、他自治体と協力し役割分担の上で実施した事例
○自治体内の消防部局や衛生部局等と連携し、認可外保育施設の状況把握と対応を行った事例
○前例がない形態での子どもの預かりについて、自治体内部で情報収集と判断を適切に行った事例
○立入調査の方法について、事業者も調査を受けやすく、また自治体も調査しやすい方法を検討し、実施した事例
○隔年の立入調査に関する考え方を精査し、隔年調査とする施設の選定や調査項目についても整理を行った事例
○認可外保育施設の状況にかかる情報収集において、自治体内部での工夫や自治体間のつながりを活用して行った事例
○状況を整理し、他自治体の判断例を取り入れながら、当該施設の実情等を踏まえ、判断基準を自治体内で明確化した事例
5 指導監督事務の参考となるQ&A集の更新
4の事例集のほかに、実態調査の結果を踏まえ、都道府県等担当者が特に判断に迷いやすい事項を抽出し、指導監督業務の参考となるQ&A集の更新も行った。令和5年度調査で作成された既存のQ&A集を基に16問を追加又は更新した。
主な追加内容は以下のとおりである。
○マッチングサイトに登録している居宅訪問型保育事業者について
○連絡が取れない認可外保育施設の立入調査や運営状況等の公表について
○児童の健康診断の実施項目について
なお、事例集およびQ&A集はこども家庭庁から自治体担当者に限り公開されているため、本稿では詳細な記載を省略する。
6 まとめ
近年、保育ニーズの多様化に伴い、認可外保育施設では、事業者がさまざまな預かり形態を展開し、サービスが多様化している。認可外保育施設は、認可保育施設と異なる特色ある保育を提供することで、保護者や乳幼児のニーズに応えてきた。一方で、自治体担当者は、認可外保育施設の施設数が高止まりしている中、限られた人員で立入調査を行う必要があるだけでなく、保育サービスの多様化による判断事項の増加や業務の複雑化によって、指導監督業務の負担が大きくなっている。
こうした中、適切な指導監督・立入調査の促進を通して保育の質を担保するためには、自治体担当者がスムーズに基準への適否を判断できる環境を整えることが重要であり、基準や指針などの根拠資料を活用し、判断の平準化と業務効率化を図る必要がある。
本調査研究では、自治体の指導監督業務の円滑化を目的に、事例集とQ&A集の更新を行った。今後も、資料の充実と使いやすさの向上を図るとともに、自治体の体制や人的リソースを踏まえた指導監督のあり方を検討し、指導監督ができる人材の育成と体制強化を国全体で進めていくことが求められる。
最後に、本調査の実施にご協力いただいた自治体のご担当者、また有識者の先生方に感謝申し上げたい。本調査の結果が、指導監督にあたる自治体ご担当者の負担軽減と、指導監督をとおした安全で安心な保育サービスの提供につながることを期待している。
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