海外の現場から
パブ文化の国で広がる日本酒の魅力 ~ロンドンから世界へ~
2026年2-3月号
寒くて暗いロンドンの冬には、温かい鍋と熱燗が恋しくなります。こちらではパブで楽しむビールやワインが定番ですが、最近では、じわじわと日本酒(当地ではSAKE)の人気が広がってきているのをご存じでしょうか?
かつては専門店や高級レストランでしか味わえなかった日本酒ですが、今ではロンドンを中心に、酒屋やスーパーでも見かけるようになり、一般の人にも徐々に認知されてきています。
この背景には、輸出促進の取組みや、現地でのイベント開催、さらには酒蔵の開設や本格的な日本食レストランの増加など、さまざまな動きがあります。イギリス向けの日本酒輸出は金額・数量ともに着実に伸びており、2024年の輸出額は前年比17.2%増の6.4億円と過去最高を記録。まだ規模は小さいながらも、今後の成長が期待されています。
ロンドンで開催される日本酒イベントも人気を後押ししています。特にDrink Japanは、日本から多くの蔵元が出展し、現地の消費者と直接交流できる貴重な場です。筆者が参加した今年のイベントも、活気に満ちた会場で日本酒の多彩な魅力が溢れていました。職人による握り寿司の実演販売には人だかりができ、寿司に合わせて日本酒を選ぶ通なイギリス人のこだわりに思わず感心。初めてスパークリング日本酒や梅酒を口にし、感動して数本まとめ買いするトルコ人も印象的でした。さらに、四合瓶で50ポンド(約1万円)以上する日本酒が次々と売れていくのにもびっくり。日本酒を世界中の人々が楽しんでいる様子を見て、なんだかとても嬉しく、誇らしい気持ちになりました。

あわせて注目したいのが、イギリス国内での酒蔵の誕生です。四合瓶1本1,000ポンド(約20万円)!の高級ビンテージ酒を造る「Dojima Sake Brewery UK」やスパークリングSAKE専門の「The Sparkling Sake Brewery」、そしてロンドン中心部に店舗を構える「KANPAI LONDON CRAFT SAKE」など、現地で本格的な日本酒(SAKE)を醸造する蔵元が次々と登場しています。イギリス人の味覚に合わせた商品開発も進んでいて、ますます面白くなってきています。

また、本格的な日本食レストランの増加も日本酒人気を後押ししています。寿司や天ぷらだけでなく、創作和食を提供するお店も増え、日本酒とのペアリング文化が定着しつつあるのを感じます。特にスパークリングやフルーティーな日本酒は、ワインのような飲みやすさから、若者や女性にも好評です。
とはいえ、世界的にはまだまだ日本酒の認知度は限定的で、その魅力や価値をどう広めていくかが今後の鍵となります。和食以外の料理とも意外なほど相性が良いのに、飲み方や種類が複雑で初心者にはハードルが高く感じられることもあるようです。また、英語など他言語での情報発信やマーケティングは、まだまだ工夫の余地があると言えます。
だからこそ、ロンドンで日本酒の人気が高まることは、日本酒の素晴らしさを世界に広げる絶好のチャンスです。イベントやレストランでの体験を通じて、日本酒が「日本の酒」という枠を超えて、世界中の人にとって身近な存在になることを期待しています。
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