地域の現場から
吐噶喇列島の魅力
2026年2-3月号
吐噶喇と書いて「トカラ」と読める人はどれくらいいるだろうか。吐噶喇列島は、鹿児島市から南方約200キロの海に浮かぶ島々で、テレビで見る全国の天気予報ではほぼ点々にしか見えない。有人7島と無人5島からなる十島村(鹿児島県)を形成しており、諏訪之瀬島を除けば船でしか行けない離島マニア垂涎の離島群である。
有人7島は、北端の口之島から南端の宝島まで南北約130キロ、うち5島は火山島で今も噴煙を上げている島もあり、残る2島はサンゴが隆起してできた比較的平坦な島である。これらの島々に島民計約650人(2025年11月現在)が生活している。一番大きい中之島で人口137人(84世帯)、最も小さい小宝島で61人(35世帯)が住んでおり、漁業や農畜産業に従事しながら生活している。コンビニや銀行は当然ない、医療サービスも食料も入手困難と思われる離島で人々は日々どのように暮らしているのだろうか。当地着任時より興味が湧き、ついに先日島々を巡ってきた。まず、島では物を買うお店がほぼ無い、小さな商店がある島でも新鮮な肉や野菜、米等はそのほとんどを鹿児島や奄美大島のスーパーに注文しフェリーで運んでもらう。従って急に甘い物を食べたくなってもコンビニに走ることはできない。また、火山島の島々は海岸から急峻な地形で平地が限られ、島民の住宅や学校等は港から坂道を登った高台の平地に位置していることが多く、移動には車が欠かせない。よってガソリンが必要となるがガソリンスタンドは数島にしか確認できなかった。それ以外の島ではドラム缶単位で購入し、これもフェリーで運ぶことになる。生活物資の多くをフェリーでの運搬に頼るため、台風や荒天の影響で接岸できない場合は数日間物資が届かないこともあるらしい。


街に暮らす人には不便そうに思える島々には、街にはない魅力が詰まっている。まず、圧倒されるほど美しい海がある、大自然の息吹を間近に感じる活火山と吹き出る温泉がある、島ごとに固有の歴史や文化、生態系がある、余計な音や光を排した静寂と星空もある。平家が落ち延びたという伝説がある平島(たいらじま)で出会った島民は島での暮らしを「不便なことは何もない」と日焼けした笑顔で話してくれた。
物と情報に溢れ選択の連続を強いられる街の暮らしから解放されると、豊かな自然と共に必要な物だけで暮らす生活がとても心地よく感じられた。わずか数日の滞在ではあったが、吐噶喇列島で暮らす島民の気持ちが少しだけ理解できた気がする。
フェリーが港を出るとき、どの島でも島民が大きく手を振って見送ってくれた。その光景を見ながら、またいつかこの魅力溢れる島々を訪れたいと思った。
コラム 