『日経研月報』特集より
介護ロボットと安全な暮らし ~認証制度がつなぐ未来~
2026年2-3月号
1. はじめに
超高齢社会と就労人口の減少局面を迎える中で、介護サービス事業所(以下、介護事業所)では生産性向上に取り組み、働き手の負担を軽減しつつケアの質を担保するため、さまざまな種類の介護ロボットやICT等のテクノロジー機器(以下、介護テクノロジー)の活用が必要になっている。そして、その活用の際には、第一に安全性が確保されたうえで、上述の生産性向上や働き手の負担軽減につながることが重要である。
株式会社日本経済研究所が令和6年度に行った研究(「令和6年度老人保健健康増進等事業 介護ロボット等を安全に利用するための認証制度等に関する調査研究事業」)では、介護テクノロジーの開発事業者と使用者である介護事業所に対して調査を行い、機器の安全性に関するそれぞれの認識を整理した。またそのうえで、介護事業所等の使用者が、適切に機器を選択・導入し安全に活用することに資する介護テクノロジーの認証等のあり方を提言した。調査結果の詳細は弊社ホームページ(https://www.jeri.co.jp/report/elderlyhealth-r6-2/)に掲載している。
本稿では、調査結果の一部を抜粋し、使用者側である介護事業所の介護テクノロジーの安全性に関する認識や要望をまとめるとともに、介護テクノロジーの開発事業者が、生産性向上や質の高いケアに向けた機器の効果を追求しつつ、最も重要な安全性(注1)をどのように担保し、信頼性や販売の優位性を保つためにどのような取り組みを行っているかについて実態を明らかにする。そのうえで、製品の安全性にかかる新たな認証を制定する場合における認証のあり方について、特に留意すべき課題点を整理する。
2. 介護事業所に対するアンケート調査
2024年10月~11月にかけて、介護事業所を対象に、介護テクノロジー導入の意思決定を左右する要素や、安全面で求めることについて調査した。
(1)調査概要
期間:2024年10月~11月
対象:「介護サービス情報公表システムオープンデータ」掲載の介護事業所 2,968か所
内容:介護テクノロジーの使用経験の有無別に、以下の点を選択式(一部記述式)で調査
・機器の安全性や取り扱いに関する認識
・品質や安全性などを示す認証・マークに関する認識
(2)調査結果
上記の対象施設2,968か所のうち、699か所から有効回答を得た。調査結果は以下のとおりであった。
ア 介護事業所の介護テクノロジー導入有無の判断を左右する要素

上記から、介護テクノロジーの導入判断や活用の継続は、費用面や労力面によって大きく左右されており、安全やセキュリティ面は大きな要素にはなっていないことがわかる。
イ 安全な機器に関する認識

上記から、介護現場からすると、使い方が簡便又はわかりやすいこと、あるいは気軽に使い方を聞ける先があることが、期待する又は求める安全性であることがわかる。
ウ 介護テクノロジー機器の取扱いについて

以上から、機器の操作方法の把握について、介護事業所では、機器使用時に取扱説明書よりも口伝を頼りにしているか、あるいは取扱説明書自体は認識しているものの、読み込む余裕がない又は記載内容のとおりに操作することが難しいと感じていると推察される。適切な使用方法で安全に介護テクノロジー機器を使用するためには、取扱い方をわかりやすく示して欲しいと感じていることからも、介護事業所としては、“正しく操作する”ことに難しさや不安を感じていることが想定される。
エ 品質や安全性などを示す認証・マークに関する認識

上記から、現状としては、介護事業所では認証やマークがあることと安全性や品質の保証が結びつくという認識は薄いこと、また、認証やマークの有無が介護テクノロジー導入を左右するものではないことが推察される。
3. 開発事業者に対するヒアリング調査
一方、介護テクノロジーの開発事業者は、製品開発の過程で安全性をどう担保し、高い製品であることを使用者側に理解してもらうために、どのような工夫を行っているのであろうか。また現在、開発事業者各社が製品の性質等に応じて、品質や安全性にかかる既存の規格や認証の取得、独自のリスクアセスメントなどを行っていると想定される中で、介護テクノロジーにかかる新たな認証等が制定されるとすれば、開発事業者にとってどのようなものが望ましいのであろうか。
これらを明らかにすべく、2024年11月~12月に、介護テクノロジーに該当する機器を開発する事業者に対してヒアリングを行った。

https://www.amed.go.jp/program/list/12/02/009.html
(1)調査概要
期間:2024年11月~12月
対象:「介護テクノロジー利用の重点分野(注2)」に該当する機器を開発する6事業者
内容:介護テクノロジー製品の安全性や認証・マークに関する課題や所感について、主に以下の点を調査
・想定外の使用方法や施設のケア内容への対応
・認証やマーク取得にかかる労力と効果
・安全性に関する認証等の制度が新たにできる場合の、仕組みやあり方に関する意見
(2)調査結果
ヒアリングを行った結果、以下のように各事業者から状況の説明や意見があった。

4. 各調査結果を踏まえた課題
介護事業所へのアンケート調査、開発事業者へのヒアリング調査に加え、本調査研究では、それら双方の立場を俯瞰で把握できる既存の認証団体にもヒアリングを行ったうえで、当分野の有識者からなる検討委員会を開催し、ご意見をいただきながら、現状の課題や認証制度のあり方を検討した。
そして、安全性が確保された状態で使用され、介護業務の負担軽減に資するような介護テクノロジーを評価するためには、以下の課題があることを明らかした。
(1)安全な介護テクノロジーにおける共通認識について
介護ニーズが今後も増加の一途をたどる中、生産性向上、人手不足対応の観点から、介護テクノロジーが今後、介護現場でより活用されることが急務な状況であることは周知のとおりである。このような背景からすると、介護テクノロジーは、介護が必要な高齢者等のケアを担ううえで、当然、まずは第一に安全性が確保された状態で使用され、介護業務の負担軽減に資する必要がある。
国は「介護テクノロジー利用の重点分野」(図1)を定めており、これは開発事業者にとってどのような機器のニーズがあるのかというヒントにはなるものの、大まかな性能要件以外の詳細な安全基準等はなく、重点分野以外を含む介護テクノロジー全体の定義や求められる安全性能等も示されていない。
現在は、開発事業者は個別の知見や製品安全確保の考えに基づき製品を開発し、それらが結果的に介護テクノロジーに当てはまる製品になっている状況である。今後、当分野の参入企業がますます増えると予想される中、介護テクノロジーと見なされる製品の開発に関して、安全確保にかかる共通認識がないことは大きな懸念となり得る。
(2)安全な製品と感じることへの製造側と使用側のギャップ
現在、開発事業者は、各々が独自に認証等の取得やリスクアセスメントを実施、安全性を確保し、正しい操作方法で使用者側が使う前提で、製品を開発している。
一方で、アンケート調査結果において、求める安全性として、操作がシンプルであることや、操作について必要な時にすぐに聞ける先が欲しいという回答が多かったことからもわかるように、使用側である介護事業所側としては、「正しく操作する」ことへのハードルがとても高い。介護現場において、基本的にまず適切に機器を使用し安全を確保することが重要ではあるが、実際は、操作方法の頼りにするのは口伝である場合も多く、取扱説明書の細かな記載は、読むべきではあるものの現状として読み込めていない、というのが総体的な介護事業所の現状である。
上記の状況を踏まえると、どのような製品を安全な製品であると感じるかということについて、開発事業者と使用者の介護事業所では認識が異なっていることになる。
今回ヒアリングを行った開発事業者の多くは、上記のような介護事業所の現状を把握している事業者が多く、「安全で高品質の製品を製造しても、正しく使用してもらわなければ現場にとっては安全でも高品質でもない」という認識を持ち、相談受付や導入段階でのレンタル提供等によって、使用手順や操作の仕方に困らないよう、営業・CSの側面でサポートをするなどして、適切な使用方法の理解普及に腐心していた。
しかしながら、このような工夫も、先駆的企業ならではの経験や、現場との信頼性関係性に基づき少しずつ構築してきた手法である。また、正しく使ってもらうために説明やデモンストレーションを重ねることに注力していることと、使い方が一見してわかりやすいものがよいという介護事業所のニーズそのものを満たす工夫が行われることは別である。アンケート調査結果において、より一層の安全性や品質の向上を求めたいこととして、「操作がシンプルであること」、「操作の仕方(及びその説明)がわかりやすいこと」、「操作方法がわからない時などにすぐに相談できる先があること」などの回答が多かった結果が指し示すように、後者について現状は満たされていないと思われる。
使いづらさが適切使用を阻害し、現場の使用者にとっては安全な製品でも高品質な製品でもなくなってしまう可能性を考えると、この認識ギャップへの対応を考慮する必要がある。
(3)介護テクノロジーに求めるべき安全性以外の要素
介護事業所の感覚からすると、安全やセキュリティ面は導入を左右する大きな要素ではない。また開発事業者へのヒアリング調査結果でも、安全性に関する認証は取得して当たり前で、取得がない場合に介護事業所からマイナスに認識されやすいと感じており、介護事業所の認識を開発事業者もある程度把握していることがわかる。
よって、「安全」を謳うことは製品の「売り」にならず介護テクノロジーの購入を後押ししないとなると、開発事業者として注力する動機が薄れる可能性がある。そのため、開発事業者の認証等取得のインセンティブを高める観点からは、安全性以外にも、製品を評価する指標又は視点の切り口が必要になる。
すなわち、介護ロボット等を安全に利用するための新たな認証の仕組みを考えるうえでは、以下の課題をクリアにする必要がある。

5. 今後の在り方について
4. の3点の課題を踏まえ、今後の検討の留意点として以下を提案したい。
まず1つ目として、今後に検討すべき内容の整理である。安全な製品として開発事業者が実装すべき内容、要件、範囲などの整理が必要である。整理の仕方として、介護テクノロジーの機器全体に求める統一的な内容の範囲や具体的な項目を決定したうえで、各分野において求める範囲や項目を切り分ける形とするか、また、切り分け方や手順をどのようなものにするかを整理する必要がある。加えて、自主規格・自己宣言から厳格な審査を経て国が認めるものまで幅広い選択肢が考えられ得る中で認証の性質をどのように位置付けるかということや、認証等で評価する範囲、評価軸・項目、評価者を決める必要がある。
また、2つ目として、段階的な議論・検討の必要性である。上記で示したように、多岐にわたる検討事項について、開発事業者間でも共通認識がない状態のまま範囲や要件を定めることは困難なため、まずは開発事業者間での自主的な枠内での取組みを促す方法が考えられる。具体的には、開発事業者で構成される団体主導で安全等に関する自主的なガイドラインを策定することと、これに基づく開発・製造の推進が考えられる。機器の類型や性質を考慮し、例えば利用者の身体に直接触れる機器(例:リフト、車椅子、介護用ベッドなど)は、特に安全性や信頼性が重要視されるため、これらの機器を優先的に取り扱い、ガイドラインの策定を先行実施することも考えられる。自主的ガイドラインにより、履行が望ましい事項の認識共有化が進み、ガイドラインを遵守する開発事業者が増えると、検討がスムーズに進む可能性がある。
そして、3つ目として、製品の安全確保のみならず製品を安心して使用してもらうことへの配慮である。今回の調査研究で得られた、課題3の開発事業者側と介護事業所側の認識ギャップは、本調査研究において発見した重要な視点である。適切に使用するからこそ介護テクノロジー機器の安全性が確保される。また、介護事業者も操作がシンプルな機器や、操作方法が一見してわかりやすい資料を求めている。よって今後、認証等を検討する際には、使い方の明瞭さや簡便に使用できる工夫により使用側が安心して機器を使えることを、介護テクノロジーの開発事業者が留意すべき範囲に加えるとよいのではないだろうか。

(注1)「安全性」について
経済産業省「製品安全に関する事業者ハンドブック」
(https://www.meti.go.jp/product_safety/producer/jigyouhandbook.pdf)P.11、P.19を参考に、ISO/IEC Guide51に基づき、「安全=受容できないリスクがないこと」と定義するとともに、製品安全管理において、「安全な状態=製品に残留するリスクを社会的に許容されるレベルまで低減させた状態」と認識して表現している。
(注2)国が介護テクノロジーの開発・導入を支援する観点から定めており、図1の9分野16項目が該当する。
ヘルスケア 