明日を読む
米IT見本市に見る日本のプレゼンス
2026年2-3月号
米ラスベガスで1月初め、世界最大のIT見本市「CES」が開かれた。このコラムでは欧州の家電見本市「IFA」に見る日本の家電産業の衰退ぶりを紹介したが、残念ながら、そうした波が米国のCESにも及んできてしまった。20年近く現地を取材してきたが、日本企業のプレゼンスの低下を指摘せざるを得ない。
CESは当初「家電見本市」を表し、世界の家電王国の異名をとった日本企業は長らくその花形的存在だった。ところがコロナ禍を機に日本企業の撤退が相次ぎ、間隙を縫って台頭したのが韓国や中国、台湾などの企業だ。昨年はパナソニックホールディングスの楠見雄規社長が基調講演し、トヨタ自動車の豊田章男会長が記者会見するなど日本の存在感がようやく戻ってきたと思ったが、今回は期待を裏切られた。
「あれ、ニコンじゃないの?」。会場では毎年、「Nikon」と大きく描かれた黄色い袋が配られ、CESの名物となっていたが、今年は名前が「Insta360」に替わっていた。同様に参加証のストラップには「SONY」と描かれていたのが「Sony Honda Mobility」となっていた。いずれもCESの常連だったニコンやソニーグループが出展を取りやめ、スポンサーから降りてしまったためだ。
ストラップには「Sony」の文字は残ったが、見本市会場から日本のブランドがなくなるのは寂しいものである。ニコンやソニーをはじめ、カメラは今も日本が強い分野だが、キヤノンも昨年から出展を取りやめ、代わりに現地の研究所が出展している。パナソニックのブースにも「Lumix」は見当たらなかった。
その意味では日本の代表的企業の撤退が目立ったのが今年のCESの特徴だった。斬新な電気自動車(EV)で人気を呼んだ本田技研工業も今年は出展を見送り、昨年初出展して搬送型EVで話題となったスズキも今年は姿を消した。昨年はクボタが自動運転トラクター、コマツが水中無人探査ブルドーザーを展示して関心を呼んだが、コマツは今年は出展しなかった。
最近のCESではヘルステックやビューティーテック、エイジテックなどが注目されている。昨年はキリンホールディングスが開発した塩分を控えるための電子スプーンや、コーセーが展示したMR(複合現実)技術による疑似メーク体験などが会場の話題を呼んだが、今年はキリンもコーセーも名前を見なかった。
国ごとのブースが集まるグローバルエリアに花王が小さなブースを設けていたものの、非接触で肌の弾力を測る技術で昨年「CESイノベーションアワード」に輝いた資生堂は出展をやめてしまった。ヘルステックは高齢化先進国の日本が海外展開できる戦略的分野だけに、こうした撤退は残念としかいいようがない。
出展をやめた背景にはそれぞれ様々な事情があろう。だが共通して言えるのは、コロナ禍で広がった日本企業の内向き志向が今も続いている点だ。そこに円安が追い打ちをかけ、近視眼的となった経営者が、お金のかかる見本市への出展に二の足を踏んでいると考えられる。
一方、今回も存在感を顕わにしていたのが中国企業だ。基調講演を務めたLenovoの楊元慶CEOはラスベガスの巨大ドーム型シアターを借り切り、米半導体大手NVIDIAのジェンスン・ファンCEOなど著名経営者を何人も壇上に招き、2時間にわたる演出を行った。まさに彼我の差といえるが、日本の経営者にも世界の舞台で自らをもっとアピールして欲しかった。
もちろん日本のプレゼンス向上に努めていた企業もある。ソニーの代わりに大きなブースを構えていたソニー・ホンダモビリティ、サステナビリティやヘルステックなどを前面に掲げたパナソニック、昨年から出展再開した日立製作所などだ。自動車メーカーは1社もなかったが、小糸製作所や矢崎総業、アンリツ、アルプスアルパインなどの部品メーカーが代わりを果たし、自動運転ベンチャーのTIER IV(ティアフォー)も展示ブースを拡張していた。
ソニーがテレビ事業を中国に譲渡してしまったように家電市場における日本企業の復権はもはや望めないが、ヘルステックやモビリティなどは日本が世界にプレゼンスを示せる分野である。日本の経営者にはそろそろ内向き志向やネガティブ思考から脱却してもらい、世界の市場と再び対峙してほしいと改めて感じた。
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