明日を読む
憂うべき財政ポピュリズム
2026年4-5月号
真冬の超短期決戦=衆院選が終わり、高市人気に支えられた自民党が予想を上回る大勝となった。だが、この選挙結果で経済政策の方向性が決まった訳ではない。主要政党の殆ど全てが財源の明示もないまま、消費減税を訴える選挙だったからだ。財政ポピュリズムもここに極まれりとの印象を抱かざるを得ない。
一方で、専門家の間からは消費減税を求める声は全くと言っていい程聞かれない。例えば、日本経済新聞などが経済学者約50人に意見を求めたエコノミクス・パネル(本年1月実施)によれば、「食料品の消費税率をゼロにするのは、日本経済にとってマイナス面よりプラス面が大きい」かとの問に対する回答は、「そう思う」4%に対し、「そう思わない」、「全くそう思わない」が計88%だった。対象を食料品に限らなくても、答えは殆ど変わらないだろう。
以下では、専門家が財源なき減税を日本経済にとってマイナスと考える理由について、高市政権の姿勢と対比しながら、筆者が代弁してみよう。まず、高市首相のマクロ経済政策の基本姿勢は、金融緩和継続、積極財政というアベノミクス2.0ともいうべきものだ。アベノミクスの成果については意見が分かれるが、金融緩和、積極財政という方向性は広く受け容れられていた。それは、当時のマクロ環境が需要不足、デフレ、円高というものだったからだ。一方、現在のマクロ環境は供給不足、インフレ、円安と、当時とは正反対である。そうした中で、デフレ脱却を目的としたアベノミクス的政策を実施すれば、その帰結は当然ながら物価高の深刻化ということになる。
もちろん、食料品などの激しい値上がりを踏まえると、低所得世帯の生活を支えるための給付金などは必要だろう。しかし、ここで問題になるのは、日本では家計所得の捕捉が不十分なため、適切な給付が行えないことである。これまで住民税非課税世帯を対象とした給付が行なわれる場合が多かったが、それでは多額の資産を抱えながら所得が少ない高齢者に給付が集中してしまう点に批判が高まっている。だからこそ、給付付き税額控除の仕組み作りを急ごうという動きになっているのだが、これは最近になって急浮上した問題ではない。コロナ危機時の特別定額給付金の際にも、家計の所得捕捉が不十分なため、結果的に1人一律10万円の給付となった。しかし、あれからもう6年近く、未だに給付付き税額控除の仕組みができていないのは政治の怠慢と言う他ない。なのに、選挙になれば各党揃って減税合戦とは、何をか言わんやである。
加えて、金融市場では日本の財政状況に対する不安が高まっている。昨春にも30年国債など超長期債の大幅な利回り上昇がみられていた。しかし、10月に高市氏が自民党総裁選に勝利した頃から、円安と長期金利上昇が続いていることは周知の通りだ。筆者自身は26年度当初予算が比較的抑制されたものとなったため、「首相も市場の反応を気にし始めた」と一時は安堵したのだが、年が明けた途端に解散総選挙、消費減税の大合唱である。
しかも、財政不安が高まっているのは日本だけでない点に注意が必要だ。先進各国はコロナ危機時に大規模財政出動を行なったが、コロナが収まった後も、国内の政治的亀裂の深まりにより、財政赤字を抑制できない状態が続いている。例えば、米国でもFRBが短期金利を引下げても長期金利は下がっていないが、そこには財政不安が影響していると言われる。1月の下旬には米国が為替介入の前段階と言われるレート・チェックを行なって、一時円高方向への反転がみられたが、これも日本の長期金利上昇が米国市場に波及することを懸念したためだとされる。にもかかわらず、本稿執筆時点では、首相の「円安ホクホク」発言もあって、為替は再度円安に転じてしまった。通常国会開会後、政権基盤を固めた首相には、市場の声に耳を澄まして慎重な財政運営を行なうことを望みたい。
金融・財政 