World View〈アジア発〉シリーズ「アジアほっつき歩る記」第115回
中国広東省梅州 客家の住む街で
2026年4-5月号
2025年はずっと抑えてきた中国旅が一気に噴出する形で、次々と出かけて行った。今回はこれまで気になりながらも一度も足を踏み入れることがなかった客家の街、広東省梅州を旅してみた。

香港から直通列車で
広東省は実に広い。広いだけでなく、広州、深圳、潮州など各地域でその言語から文化までが全く違っているので以前より驚いていたが、今回はもう一つの異空間、客家地区へ向かう。香港の西九龍駅から梅州まで、何と直通で行けるというのでトライしてみた。西九龍駅は知らないうちにいつの間にか完成していたが、かなり大きなターミナル駅で、北京や上海など、中国全土にアクセスできる。何と香港出境だけでなく、中国入境の手続きもここで行うので、後は列車に乗るだけ。昔のホンハム-広州より更に簡易だ。
車内はそれほど混んでおらず快適。最初はトンネルが多かったが、深圳からは見慣れた風景が広がった。そして僅か2時間半ほどで梅州西駅まで来てしまった。さすがに西九龍-梅州西は1日1本しかないが、深圳経由は頻繁に列車があり、非常に便利だと分かる。
梅州で
取りあえず「客家博物館」へ行ってみる。梅州は基本的に客家の街であり、台湾の桃園、新竹、苗栗あたりで茶作りをしている客家の故郷もこの辺が多いと聞いていた。博物館は古めかしい建物で、最近の中国の現代的、大型博物館とはちょっと違っていてよい。中の展示には勿論客家の歴史が詰まっており勉強になる。梅州には元々瑶族や畲族という少数民族が住んでいたと書かれており、古代に北からやって来た人々との融合が始まったようだ。ただ客家とは何者か、という基本的な問いに完全に答えてくれる展示はなかった。
梅州の中心都市、梅県の川沿いを歩いていると風がとても気持ち良い。新しいショッピングモールなどが建ち、高層マンションもいくらか見られるが、梅県全体では、その発展スピードは他地域と比べてかなりゆっくりであり、それゆえどこかホッとしてしまう。以前訪ねた汕頭と似ている。
車で30分ほど行くと、「雁南飛」という山深い観光施設があった。茶畑はかなり深い森の中にあり、お茶が生産されている。客家茶は元々釜炒り緑茶だが、今は紅茶でも白茶でも何でも作っている。やはり緑茶だけでは利益は上がらないようだ。近所にある「霊光寺」はかなり新しい雰囲気がした。文革の被害に遭った寺を1980年代以降再建するために寄付したのは、この地から海外に移住した人々だった。探親(いわゆる親族訪問)が始まり、華人が故郷を訪れる機会が増え、支援したのだろう。客家もかなりの人口が海外に出ている。
鳳坪畲族村
梅州はやはり広く、車で約2時間かかって豊順県鳳坪畲族村に辿り着いた。ここは潮州鳳凰山の裏側にあたるが、ここまでは梅州の管轄だという。畲族村なので、畲族の説明書きが広場にあり、中には「中国畲族故里」とも書かれている。畲族発祥の地と言われている鳳凰山石古坪との関連はどうなっているのかちょっと気になる。そこには鐘氏祖祠が建っており、近くには藍氏祖祠もある。如何にも畲族の村だが、人口1,000人の内、畲族は600人余り、残りは漢族(客家)らしい。この広場から上は畲族、下は客家と住み分けされているという。

周囲には茶畑もあり、建物はかなり立派で裕福な感じがする。ちょうどバイクで通りかかった人が声を掛けてくれ、取りあえず彼の家で茶をご馳走になる。場所からして客家の人なのだが、苗字は鐘だという。「あなたは客家か?」と質問すると一瞬迷いながら「そうだ」と答えたが、「実は畲族の家に婿入りした漢族の子孫の苗字は鐘を名乗るのだ」という謎の説明があり、戸惑う。畲族の姓は藍、雷、盤、鐘の4つだと言われているが、その中にも区別があり、また漢族との同化を示すヒントがあるということだろうか。
この鐘さんの自宅兼茶工場はかなり立派な建物だった。聞いてみるとやはり若い頃は深圳で出稼ぎをしており、数年前にこちらに戻ったらしい。それは近年巻き起こった潮州茶、鳳凰単叢ブームと関連がありそうで、単叢を作ってかなり儲かったのだという。確かにこの辺は梅州とは言っても、ほぼ潮州エリアであり、土壌、気候も鳳凰山と変わらないため、高騰した鳳凰単叢の廉価版として茶がかなり売れるらしい。鐘さんの家族は梅県に住んでいるというから、子供の教育にもお金がかけられるのだろう。
梅州の美食
宿泊先の朝ご飯にあった客家腌麺を食べてみる。麺を茹でてそこにネギをちょっと乗せただけの実にシンプルな汁なし麺だが、なぜか旨い。更に翌朝は地元の人と一緒に客家腌粉を食べた。豚肉入りのスープ麺だったが、これまた旨い。テーブルに昔風のポットが置かれて、お茶が入っていた。やはり客家は日常的に茶を飲んでいる。折角なので麺以外も探すと、腸粉が目に入る。これは卵入りの潮州式腸粉。ついでにワンタンスープも頼むと、かなりボリュームがあって旨い。

夕飯は梅菜扣肉、釀豆腐、塩焗鶏など、昔香港の店でよく食べた客家の名物料理が次々登場した。前菜の蘿蔔干はたくあんのようで、お粥によく合う。保存食の概念からか基本的にしょっぱい。もう一晩は古い街中にあるレストランでご馳走になる。客家もスープは欠かせないのだが、これが実にあっさりした旨さがあり、広東料理、また潮州料理に通じるものがある。客家料理の定番を外してもらうと、内臓系など見たことが無い物が並ぶが、いずれも味がしっかりしており(少し塩気が多い)、日本人にはちょうど良い。日本には客家料理専門店が殆どないと言われているが、誰か出店すればきっと流行るだろう。
コラム 