思索の窓

未来へのホームラン ~冬の沖縄にて~

2026年4-5月号

川住 昌光 (かわすみ まさみつ)

一般財団法人日本経済研究所 専務理事/ 沖縄振興開発金融公庫 監事

沖縄での仕事を始めて1年になる。沖縄といえば、夏の透き通るような青い空に美ら海、ゆったりとした時の流れを思い浮かべる人は多いだろう。けれど毎年冬から春にかけて、沖縄はもう一つの顔を見せる。プロスポーツのキャンプ地としての沖縄だ。プロ野球9球団をはじめサッカーJ1の13チームなど多くのプロチームが温暖な気候を求めてキャンプを張り、島のあちこちがユニフォーム姿の選手とファンで賑わう。

キャンプ開催がもたらす経済効果は絶大だ。民間銀行の試算によれば年間200億円以上に及ぶ。観光のオフシーズンにあたる冬の時期に、多くのファンや報道関係者が県外から訪れることで宿泊、飲食、交通に土産物など幅広い消費が生まれる。その結果としてホテル代はピーク時で2~3倍にもなる。(筆者の定宿も例外ではなく、この時期、出張旅費は持ち出しだ。)市内の飲食店もファンや関係者らしき人々で満員御礼となる。プロスポーツキャンプをきっかけに多くの人が動き、そしてお金が回る。これは沖縄観光にとって大きな意味を持つ。沖縄県も「スポーツアイランド沖縄」を合言葉にスポーツツーリズムを積極的に後押ししている。
経済面だけでなく、地域に与える有形無形の恩恵も見逃せない。トップレベルの野球選手やサッカー選手を間近で見られる環境は地元の子どもたちにとって何より貴重だ。とりわけ高校野球が盛んな沖縄県民にとっても大きな刺激になる。プロの練習風景を食い入るように見つめる少年少女たちは「いつか自分も!」という大きな夢を育くんでいるように感じられる。スポーツが、地域の未来を静かに後押ししているのだ。
ただ課題もはっきりしている。競技施設、道路などインフラ整備や運営経費など地元負担の問題だ。球場やグラウンドの老朽化、交通渋滞や駐車場不足など、受け入れ側の負担は決して小さくない。こうした公費負担に加え、キャンプ期間中の地元住民による施設利用の制限や地域によって偏在する経済効果への不満もあるだろう。
またキャンプ人気が高まるほど、地域間の誘致競争も激しくなる。宣伝効果や短期的な賑わいだけを追い求めるのではなく、地域全体にとって本当に意味のあるキャンプ誘致をどう描くのかが問われている。プロスポーツキャンプを単なる地域イベントで終わらせず地元企業やスタートアップ企業の振興、地域ブランドづくりなど真の地域活性化に結びつけていく努力が必要だ。
沖縄のプロスポーツキャンプは、もはや単なる練習の場ではない。観光客を集め、地域経済を動かし、そして子どもたちの夢を育てる存在だ。もう少しで青空にまで届きそうなホームランやゴールネットを揺らす風を切るようなシュートの先には、地域とスポーツがどう共存していくかという根源的な問いが隠れている。その答えを探す試みは、これからだ。

著者プロフィール

川住 昌光 (かわすみ まさみつ)

一般財団法人日本経済研究所 専務理事/ 沖縄振興開発金融公庫 監事