COP28参加報告 ~産油国UAEにおける脱炭素化に向けた議論の行方~

2024年4-5月号(Web掲載のみ)

田中 里枝 (たなか りえ)

株式会社日本経済研究所産業戦略本部海外調査部 副主任研究員

1. はじめに:産油国UAEにて史上最大規模での開催

2023年11月30日~12月13日にかけて、アラブ首長国連邦にて第28回気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議(以下、COP28)が開催された。COP28は5年毎にパリ協定の実施状況を評価する仕組みである「グローバル・ストックテイク(以下、GST)」が初めて実施される節目のタイミングとなったほか、世界有数の石油会社CEOであるアル・ジャベル氏が議長を務めることでも話題を集め、多方面から高い関心が集まっていた。参加者数は前年比約3倍となる約10万人に上り、史上最大規模での開催となった。本稿では、現地でのイベントへの参加を通じて得られた、COP28における主な決定事項と議論の内容について報告する。

2. GST成果文書:1.5℃死守に向け「化石燃料からの脱却」を明記

GSTは①情報収集・準備、②技術的評価、③成果物の検討の3つの要素で構成され、約2年間に亘って実施される。COP28開催に先立ち発表された技術的評価報告書「第一回GST統合報告書(注1)」では、現在の世界のGHG排出量はパリ協定に整合しておらず、1.5℃目標の達成可能性が急速に縮小しているとして、排出削減対策が取られていないすべての化石燃料の廃止を含む全セクターにおけるシステム変革の必要性が強調された。温暖化の最大要因とされる化石燃料については、COP26グラスゴー気候合意においてCOP合意文書で初めて「石炭火力」の「段階的削減」が言及されたが、COP28ではより踏み込んだすべての「化石燃料(石炭、石油、天然ガスなど)」の「段階的廃止」を求める声が各方面から上がっており(注2)、GST成果物となるCOP28合意文書に化石燃料の記載がどのように含まれるかが最大の争点とみられていた。
2023年12月13日、予定より一日遅れで初のGST成果文書が採択された。当初のドラフトでは「化石燃料の段階的廃止」という文言が選択肢に含まれていたが、産油国の反対等により交渉が難航、最終的にはエネルギー・システムにおける「化石燃料からの脱却(transitioning away)」という記載で合意された。緩和にかかる主な合意内容として、科学的知見に基づく1.5°C経路に沿ったGHG排出削減の必要性、2030年までに世界全体の再生可能エネルギーの発電容量3倍およびエネルギー効率改善率2倍、ゼロ・低排出技術(再エネ、原子力、削減が困難な分野における炭素削減・除去技術(CCS)など)の加速、特にメタンを含むCO2以外のGHG排出量の大幅削減等が明記された。また天然ガスを指すとされる「過渡的燃料」についてはエネルギー安全保障を確保しつつ、エネルギー転換を促進する役割を担い得るという記載が含まれた(図1)。

その他、「損失と損害基金」の運用化、2030年までの適応目標、気候資金動員に向けた多様な資金源の拡大、昆明・モントリオール生物多様性枠組に沿った森林破壊・劣化防止、公正な移行(注3)の重要性などに関する記載が盛り込まれた。
条約の採択から30年近くを経て、COP合意文書においてすべての化石燃料を明示的に取り上げたのは今回が初となり、1つの大きな節目であると好意的に受け止める声が聞かれた。一方で、GHG排出削減へのアプローチは各国に委ねられており拘束力は限定的であること、またCCS加速や過渡的燃料など間接的に化石燃料の利用を許容する内容が「抜け穴」となる懸念から1.5℃目標達成には不十分と指摘する声も上がっており、評価が分かれる結果となっている。

3. エネルギー移行関連のプレッジが多数表明

COP28会期中は各国政府や企業を主体とした多数のエネルギー・産業関連のプレッジ(誓約)が発表された。中でも注目されたのは、新たなエネルギーシステム拡大や多排出産業における脱炭素化などにフォーカスした複数のプレッジがパッケージ化された「Global Decarbonization Accelerator」である。具体的には、130の国・地域(日本含む)が2030年までに再エネ設備容量3倍・エネルギー効率改善率2倍に向けての協働にコミットした「Global Renewables and Energy Efficiency Pledge」、石油・ガス52社(注4)が2050年までのオペレーションのネットゼロ化などにコミットする「Oil & Gas Decarbonization Charter」、多排出産業の脱炭素化を拡大・加速する協働イニシアティブ「Industrial Transition Accelerator」などが含まれる。またCO2以外のGHG、特にCO2よりも数十倍温室効果が強力とされるメタン排出削減(特に石油・ガス業界における)の重要性がフォーカスされ、UAE・米国・中国がサミットを開催したほか、COP28議長が締約国に対してすべてのGHGをカバーする2035年までの国別削減目標(以下、NDC)提出を要請している。
一方、COP28閉幕直前に国際エネルギー機関(IEA)が発表した分析によると、COP28で表明された主要エネルギー関連プレッジ(注5)が完全に履行された場合、2030年の世界のエネルギー関連GHG排出量は約4ギガトン低減するが、1.5℃経路とのギャップ縮小は約30%に留まり、ギャップ解消には不十分という結果が示されている。引き続きエネルギー分野におけるGHG排出削減努力の強化が求められていく見込みだ。

4. 金融システムにおける「移行」に向けたムーブメントが加速

2050年ネットゼロに向けて産業構造の変革が不可避となるなか、エネルギー移行・気候アクション推進へ膨大な資金ニーズが発生している。2021~22年の気候ファイナンス市場規模は1.3兆米ドル、前年比約2倍と拡大傾向にあるものの、2030年までに年間約9兆米ドルのファイナンスフローが必要とされている状況だ(注6)。こうした気候資金ギャップ是正に向けて、COP28ではファイナンスが大きなアジェンダの一つとなり、国際開発金融機関(MDBs)の追加コミットメントや、世界最大規模の民間投資ビークルALTÉRRA(注7)のローンチなど、ファイナンス関連のプレッジや新たな取組みの発表が多数行われた。
COP26での大々的なローンチから2年以上が経過したGFANZ(グラスゴー金融同盟)は、これまでの取組進捗や今後の展望などについて説明を実施。地域特性を考慮した実体経済および金融システムにおけるネットゼロ移行に向け、移行計画および移行ファイナンスに注力しており、アジアにおけるエネルギー移行に向けた取組み(石炭火力発電所の早期廃炉支援など)について発信を行った。
その他、シンガポール中銀による世界初の移行タクソノミー、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP-FI)による移行ファイナンス指標開発に向けたディスカッションペーパーなど、新たな取組みが相次いで発表されている。「移行ファイナンス」枠組形成に向けた国際的なムーブメントが起きている印象だ。

5. データアクセスと情報開示規制が拡大、問われる気候行動の信頼性

企業や金融機関によるネットゼロへのコミットメント表明が拡大する一方で、気候行動の実態に関する信頼性の確保が課題となっている。COP28では気候関連の新たなデータプラットフォームや情報開示規制の動向についても発表が行われた。CDPは企業・金融機関による最新の開示実態を公開(注8)、情報開示数は拡大している一方、スコープ3を含めた開示は限定的であるという実態を示した。また31カ国・地域、382企業のGHG排出量等を公開するNZDPU(Net-Zero Data Public Utility)や、金融機関562社のネットゼロ目標に対する進捗・影響を評価するNet Zero Finance Tracker(NZFT)のローンチなど、企業・金融機関の気候行動の実態が把握可能な複数のオープンデータツールが公開された。
サステナビリティ開示については、世界64の国・地域における約400組織(日本含む)が国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)開示基準の採用・推進にコミットしている状況や、インパクト開示タスクフォース(注9)のガイダンス骨子案などが公表された。
データアクセスや情報開示規制の拡大により、企業や金融機関のネットゼロへの取組実態が明らかになりつつある。コミットメントに対し実際の行動が伴わない場合、グリーンウォッシュと見做されるリスクが高まる。企業の気候行動に関する信頼性確保に向けて、客観的なデータに基づく情報開示が今後ますます重要になってくるだろう。

6. COP28における議論を踏まえた企業への示唆

COP28での決定により足元で想定される動きとしては、政府によるNDCの野心的引き上げ、およびそれに伴う企業のGHG排出削減の努力強化であろう。GST成果文書では移行に向けてさまざまなアプローチが提示されており、また今後新たな気候ソリューションの開発拡大も見込まれる。気候変動対応における企業の選択肢は広がっていくだろう。
COP28では世界各国から多数の企業・金融機関が集い、GHG排出削減への貢献を掲げるさまざまな製品・サービスや取組みが紹介されていた。すべてのセクターにおいてGHG排出削減が求められるなか、どのようなテクノロジーを活用し製品やサービスに反映させるのか、そのためにどういった機関と提携するのか、そしてその情報をどう開示していくのか、グローバルな動きを踏まえて判断していくことが求められる。企業が対応を進めていく土台として、気候変動対応を経営課題として捉え改革を促すリーダーシップ、グローバル動向への高いアンテナと理解力を持つ社内外リソースの確保、部署間での情報共有や相互理解を可能とする企業文化の醸成などが重要となるだろう。
実体経済における脱炭素移行が加速するなか、移行リスクが実際に顕在化しつつある。今後この変革の波にうまく乗れるか否かが企業のこの先数十年の経営に影響を及ぼしていく可能性もある。気候変動対応は産業構造の変化に伴う経営リスクと機会であると改めて認識し、グローバルな動向を踏まえた対応を検討していくことが重要だろう。

7. おわりに:現場で感じた空気感と違和感

ここまで、COP28における主な決定事項やローンチ動向、および企業に求められる対応等を見てきた。最後に、直近3回のCOP(26から28)への参加を通じて感じた筆者の個人的な所感を述べさせていただきたい(あくまで筆者個人の見解であって、筆者の所属する組織の公的な見解を示すものではない)。
COPは回を重ねる毎に参加者の層が厚くなっており、最近は特にビジネス・金融業界の存在感が増している。多くの企業にとって、気候変動対応は今やサステナビリティテーマではなく、巨大なビジネステーマとなっていると感じる。GAFAMをはじめあらゆる企業がテクノロジーを駆使した気候ソリューション開発を展開しており、今後更に加速していくだろう。一方、個々のソリューションは玉石混交であり、中には技術的に実証されていないものや、むしろ中長期的に地域の環境や人々をリスクに晒す可能性が懸念されるものが含まれる印象だ。
またビジネス界で気候関連の技術開発や投資拡大が過熱する一方で、気候変動の本質的な課題である、負の影響に脆弱な地域・人々への対応に関する議論の進みは遅い。リスクとリターンの見合いから民間資金の動員はなかなか進まず、本当に必要な所に資金が行き届かない状況はあまり変わっていないのが実態ではないか。
COPにはさまざまな利害関係者が集い、立場によって見方や主張が大きく異なる。おそらく現段階でただ一つの正解というものはないのだろう。ただしCOP28での議論を見るなかで、「2050年までにネットゼロ」という時限的な目標の下でGHG排出削減ばかりに気を取られ、その他の負の側面に目をつぶってはいないか、個人的には懸念を感じる場面も多かった。気候変動への対応として本当に必要とされていることは何かを改めて整理し、冷静かつ多角的な視点を持って「公正な移行」を推進していくことが重要であると感じている。

(注1)提出されたパリ協定のすべての締約国のNDC(国別削減目標)が実施された場合、2100年時点の気温上昇は2.1~2.8℃の経路をたどると予測している。
https://unfccc.int/documents/631600
(注2)アントニオ・グレーテス国連事務総長はCOP28開催にあたり、1.5℃目標の達成は化石燃料を減らすのでも排出削減対策を講じるのでもなく、1.5℃に沿った明確な時間軸ですべてを廃止した場合にのみ可能と科学は明確に示している、とコメントしている。
https://www.un.org/sg/en/content/sg/speeches/2023-12-01/secretary-generals-remarks-opening-of-world-climate-action-summit
(注3)ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の機会を創出し、誰一人取り残さない、すべての関係者にとって可能な限り公正で包括的な方法でグリーン経済を促進すること。
(注4)日本からはコスモ石油、伊藤忠商事、三井物産を含む。
(注5)分析対象に再エネとエネルギー効率プレッジ、石油ガス企業によるプレッジ(メタン排出削減、ルーティンフレアリング廃止)を含む。
(注6)Climate Policy Initiative, Global Landscape of Climate Finance 2023
https://www.climatepolicyinitiative.org/wp-content/uploads/2023/11/Global-Landscape-of-Climate-Finance-2023.pdf
(注7)UAE が300億米ドルを拠出、民間機関投資家との提携を通じ2030年までに2,500億米ドル動員を目指す。ブラックロック、ブルックフィールド、TPGが立上げパートナー機関として参画。
(注8)CDPはグローバルな環境情報開示システムを運営する英NPO。2023年にCDPを通じて情報開示を行った企業・金融機関は23,000社以上と前年比120%に拡大しているものの、サプライチェーンを含む3つのスコープすべてで排出量を開示している企業は37%という結果を提示。
https://www.cdp.net/en/companies/cdp-2023-disclosure-data-factsheet
(注9)自主的なインパクト開示ガイダンスを策定するため、機関投資家、ESG評価機関、ISSBなどが参画し2023年4月に発足。2024年にガイダンスを公表予定。

著者プロフィール

田中 里枝 (たなか りえ)

株式会社日本経済研究所産業戦略本部海外調査部 副主任研究員

みずほ銀行、社会的インパクト投資機関、ILO駐日事務所を経て2021年より現職。モントレー国際大学院修士(MPA)、筑波大学第三学群国際総合学類卒。ESG・SDGs(気候変動、生物多様性、人権・人的資本等に係る政策・企業動向等)関連調査に従事。