『日経研月報』特集より

TNFDの紹介

2022年10月

原口 真 (はらぐち まこと)

MS&ADインシュアランスグループホールディングス サステナビリティ推進室 TNFD専任SVP

TNFD活動の概要

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、2021年6月に発足しました。企業や金融機関などの市場参加者が、自然関連リスクと機会についてリスク管理と情報開示をするためのフレームワークを開発し、提供することを使命とする市場主導型のイニシアチブです。そして、世界の金融の流れを自然にとってマイナスの状態からプラスの状態へとシフトさせるようサポートすることを究極の目的と考えています。
世界5大陸から34名のタスクフォースメンバーが選出されて、2021年10月からフレームワークの開発に着手しました。開発作業は、タスクフォースメンバーがワーキンググループに分かれ、こうした活動に経験値の高い事務局と外部の専門家の支援を受けながら進められています。2022年1月に外部の知識パートナーを公表しましたが、著名な国際機関や、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)、NGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)などが参加しており、また、同じく自然関連課題に取り組むSBTN(Science Based Targets Network)も連携しています。
最初のベータ版は3月15日に公開され、2023年9月に予定されている最終的な提言に向けた18か月のパイロットテストの試行期間に入りました。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)はFSB(金融安定化理事会)が主導しましたが、TNFDは市場主導のため、市場参加者からのフィードバックを受けながら進化させるオープンイノベーションアプローチをとっています。

フレームワーク開発のために考慮していること

自然関連財務情報開示に際して、異なる立場のステークホルダーにおいて矛盾した状況が生じることが想定されます。
まず、TNFDは、企業にとっては、サステナビリティの開示項目が増えることにより負担が増大する一方、利用者にとっても企業価値を評価する作業が煩雑になります。こうしたことから、TCFDの4つの柱であるガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標に沿ってTNFDの開示提言を作成しました。TNFDは、TCFDと整合させることにより、自然と気候の統合的な開示に向けた動きを促進・奨励することを意図しています。
また、TNFDは、サステナビリティ開示の課題と向き合っているISSBとも連携を深め、ISSBが開発中のサステナビリティ開示基準が提供するグローバル・ベースラインとも整合することを目指しています。
自然関連リスクとは、企業による自然への依存関係や影響に関連して企業にもたらされる潜在的脅威のことです。この脅威に対処する行動をとらない場合、資産の評価切り下げ、サプライチェーンのレジリエンス、評判や営業許可、需要の変化などに関連するリスクが発生するおそれがあります。そして、企業のこのようなリスクは、金融機関にとっては金融リスクとなります。
自然を研究するアカデミア、自然保護活動を行う国際機関やNGO、自然資源を持続的に利用している先住民や地域住民は、企業に対して、個別の地域での事業と自然とのかかわりの精細な分析と継続的な監視を求めます。一方で、利用者は、企業に対して、開示情報の一貫性、完全性、比較可能性、検証可能性を求めます。事業を行っている地域に関係なくCO2排出量という指標で統合的に分析や評価を行えるTCFD開示よりも、難易度は格段に高くなります。この課題を乗り越えるために、TNFDは、ロケーションベースのリスク管理手法や目標、指標、データ、ケーススタディに関する文書を発信しています。

日本企業の経営者に求められるマインドセットの変革

先進的なサステナビリティ経営に移行する海外の企業や金融機関は、自然関連課題について数年前から分析・評価を開始し、肩書に自然や生物多様性という文字が入った専門性の高い管理職を配しています。TNFDタスクフォースのメンバーの多くは、もともと専門的なバックグラウンドも保有し、すでに自然関連リスクの評価とマネジメントについて試行錯誤した経験があるため、TNFDに対して現実的なインプットをすることができます。
日本は東証プライム上場企業の大半で、定期人事異動で配属された方がTCFD開示に四苦八苦している状況だと思われます。TNFD開示をビジネス機会につなげるためには、経営者が自社の成長戦略として、専門性の高い人材の発掘、育成に十分な投資を行うことが不可欠だと考えます。
これまでの昭和型のビジネスでは、社会や環境の問題は基本的に行政が考えることで、経営者にその問題を考える責任は負わされませんでした。資金さえあれば資源は自由に調達できましたし、少々酷使してもへこたれない若い労働力も沢山ありました。しかし、これを続けてきた結果、気候変動、自然環境破壊や社会の格差が拡大し、経営にも直接的に影響のあるリスク(気象災害の増加、資源の枯渇、保護主義の台頭、少子化による人手不足)が生じるようになっているのです。TNFD開示を面倒な義務と捉えるのではなく、ビジネス変革の一里塚と捉えていただければ幸いです。

著者プロフィール

原口 真 (はらぐち まこと)

MS&ADインシュアランスグループホールディングス サステナビリティ推進室 TNFD専任SVP